オルガ都市
説明回になってしまいますがお付き合い下さい
「ようこそお越し下さいました、魔王様特別探索隊の皆様」
コーディです。と自己紹介したそのお兄さんは、ここ人界、オルガ国の基地部隊隊長さんらしい。
他にも数名基地部隊員さんらしき人がいる。
「転移で魔力切れの方はいらっしゃいませんか?」
皆が、まぁ大丈夫だと返答する。
「さすが特別探索隊だけあって、皆様魔量が多いようですね!
でもお疲れでしょうからこちらにお掛け下さい」
さ、爽やかだ……魔法を使わずとも白い歯が光っている気がする……。
お兄ちゃんはコーディさんを見習った方がいい。
「魔王様特別探索隊隊長、ラウンツだ。よろしく頼む」
それぞれ皆が自己紹介する。
さて、オルガ国って人界のどこら辺なんだろう?聞いてみよう。
「あ、あのっ! オルガ国ってどこですか? 人界の地図とかありますか?」
「はい、こちらの壁に貼ってありますよ。
地図の右上を占める、北西から東南にかけてのこの大きな大陸が人界です。
地図の左下にある小さめの大陸が魔界ですね。
オルガ国は人界の最南端の国です」
「……世界樹……どこ……」
「世界樹は森の中にあるとされてます。
大陸の中心辺りにある、世界最大のサレノバ大森林が怪しいと睨んでいますが、まだ調査中です」
「なるほどねぇ。最南端に来たってことは、大陸中にある世界樹の情報を集めながら本命のサレノバ大森林に向かう……という方針かしら」
「そのように聞いております!
あとは未踏破ダンジョンの奥部に念話の届かない場所があるかもしれないとの事で探索を進めています!
先ずはここ、オルガ国の大都市オルガに人族として滞在しながら情報を集めて頂ければと思います」
「直ぐにサレノバ大森林にいくわけじゃないんですね」
お兄ちゃんがちょっとホッとした感じがする。
なんでだろう? せっかく人界に来たから旅を楽しみたいのかな?
私は早くサレノバ大森林で世界樹を探したいけど……。
「まずは我らの宿をオルガ都市で見つけなければならんな」
「そうですね、お手数ですがご自身で手配をお願いします。
僕達が手配して、皆様と関係性がある事が人族に分かると、万が一どちらかの部隊が魔族とバレた場合に、共倒れになってしまいますからね」
「少しこの都市に滞在しながら、未到達のダンジョンなども見て回るか」
ラウンツさんがテキパキと物事を進めていく。
ラウンツさんがいてくれてよかった。
「ラウンツさん、早速宿を取りに行きましょう!」
「レイスター、早く人界を見たいんだね♪」
そういうアーニャもソワソワしてるみたいだ。
「人界の通行証は流石にご用意出来ませんが、旅人ということなら通行料は高いですが都市に滞在出来ますよ」
コーディさんに挨拶をして、外に出た。
基地はステルス魔道具が使われているらしい。
昔ルルさんが、人界で人族の動向を偵察するために各地に設置したとの事。
その転移陣が、魔王様不在になってからは探索隊の基地となった。
……とルルさんが言っていた。
ルルさんが何歳なのか疑問に思うことは緩やかな自殺行為だ、うん、ワタシナニモキニシナイ。
「外に出たかの?」
「カイ、お疲れ様、ルルさんだよ」
「カイちゃんも来たのねぇ、私の胸元には入っちゃ……きゃぁぁぁああああ!!」
ルルさんを見た途端、おっぱいに向かって飛び出したカイ。
だが私は完全にわかっていた、未来予知スキルがあると言ってもいい。
私もルルさんに向かってジャンプして、飛び出したトカゲの尻尾を掴む。
いっそちぎれて反省しろ!
と思ったら本当にカイは尻尾切りした。
「ぎゃぴぃ!」
掴んだ尻尾が切れた事でバランスを崩した私は、ルルさんのおっぱいに顔面ダイブした。
カイは咄嗟に私に潰されるのを避けて、私の頭の上に移動していた。
頭が高いぞ。
「……ルルさんうちの老害がすみません……」
「老害とはなんじゃ! 失礼な!」
「いいのよ、ニーナちゃんも大変ね……」
「カイには谷間滞在禁止令を発令します!!
約束破ったら元の火山に戻すからね!」
「あそこは嫌じゃ! 人界の方が空気がいいしのぅ! 人界のお姉ちゃんでも観察して我慢するかの」
そう言って私の肩に乗った。
「さて、オルガ都市は北へ少し行った所だな。 基地部隊員と同じく、旅人ということで行こう」
「はい! ラウンツさん! 」
お兄ちゃんがラウンツさんに懐いてる。
というか、私もお兄ちゃんもアーニャも初めての人界にワクワクソワソワしてる。
人界ってどんな所かな〜?
お昼前にはオルガに着いた。
全員フード付きの装備を用意してたみたいだ。
皆でフードを被りたいところだが、それだと怪しすぎる集団になってしまうので、魔法しか使えない私だけフードを被ることになった。
万が一魔法を使って逃げなきゃいけない時のためにね。
魔法を使えない私はただの子供だ、そこら辺の悪ガキにすら捕まってしまう。
子供の頃魔王様から貰ったドラゴンの牙でできた杖をきゅっと握って、門に並ぶ。
「通行料は6人で60万ルインだ、1ヶ月滞在できる」
おおう……一家の1年分の食費位かかった。
コーディさんが人界のお金についても教えてくれた。
100ルインで野菜が一つ買えるくらいだ。
100ルインまでは銅貨、千ルインと1万ルインは銀貨、10万ルインと100万ルインは金貨だ。
それぞれ硬貨の大きさによって桁が変わる。
人族のお金は、基地部隊が人族としてお金を稼いでくれている
大切に使わねば。
短期通行証を受け取って、高い外壁を超えて街に入ったら、魔界にはない5階建の建物が立ち並んでいてビックリした!
車っていう、馬がいない金属の馬車みたいなのもあった。
お金持ちしか買えないらしい。 どうやって動いてるんだろう……。
ルルさんに聞いたら、あんなに大きい金属を移動用に使うには、魔族でも骨が折れる位魔量が必要だそうだ。
だから別の動力を使っているんだろうって。
魔界の民家は、人口が少ないこともあって木造の2階建てが精々だ
転移陣があるから馬車も少ない。
色んなお店に掲げられている看板の絵の中から、宿屋らしき看板を探す。
魔族かバレないかドキドキしたけど、聞いていた通り魔族も人族も見た目が変わらないので、好奇の目で見られることはなくホッとした。
ラウンツさんがちょっとボロい5階建の建物の前で止まった。
「ここに入ってみるか」
カランカラン
「男2人女4人で一週間お願いする」
「男性は小部屋一部屋、女性は大部屋一部屋にすると安くなるけどそれでいいかい?
朝食と夕食はどうするかね?」
「部屋はそれでいい、夕食は外で食べるので朝食だけお願いする」
「あいよ、1泊一人3000ルイン、6泊で10万8000ルインだよ」
ラウンツさんが亜空間から金貨と銀貨を出す。
バッグ程度の亜空間魔法は人族でも使える人が多いので、全員亜空間魔法持ちと言うことで堂々としていた。
一般魔法なので眼も光らない。
私やルルさんはバッグどころじゃなく、この宿位の大きさまで物を入れられるけど。
特に宿に置く荷物はなかったので、早速昼食がてら情報収集に行こうという話になった。
「情報収集なら冒険者ギルドなんだけど……」
ルルさんが言い淀む。
「どんな問題があるんですか?」
「ギルドカード作成時にね、魔量を計られるのよ。
私達は人族の10倍は魔量が多いから、それを意識して魔力の放出を抑えてね。
むしろ魔力を放出しなくてもいいくらい」
「わかりました!」
何もしなくて怪しまれないなら楽だな。
冒険者ギルドに着いた。 ギルドは街の中心に近い所にあった。
ラウンツさんがドアを開けると、カウンターが左右に並んでいた。
左のカウンターが食堂で、右のカウンターがギルド受付っぽい。
カウンターの間にはテーブルが並んでいる。
「我らは旅芸人をしていてな、このあたりで冒険者に転職しようかと思い登録をお願いしたい」
眉間にちょっと皺を寄せていた受付のお姉さんだったが、ルルさんと私をを見て納得したようだ。
ああ、ルルさんの見た目なら踊り子とか歌い手に見えるもんね。
私はルルさん渾身のローブを着てて身なりが綺麗だったから納得されたんだろう。
その他の皆は護衛と思われたかな。
良かったぁ……心臓バクバクした!
旅人ってだけじゃ、今までどうやってお金稼いでたの?って話になるもんね。
登録用紙に名前や性別、年齢、髪色や武器種などの特徴を記載してお姉さんに渡した。
記入してる時にみんなの年齢を聞いた。
メイリアさんが15歳、ラウンツさんは23歳だった。
ルルさんにはみんな聞けなかった……。
ニッコリ笑顔の無言の圧力が怖かった……。
「では魔量測定ですね、この台に手を置いて魔力を流してください。 メモリで魔量がわかります。
魔力が無くても冒険者にはなれますよ」
きた!魔量測定!ドンと来い!
……あれ?私は杖を持ってるから……明らかに魔法使いってバレちゃってるぅぅううう!!
魔力放出しない作戦が! 完璧な作戦がぁぁあああ!!
とりあえずみんなのを見るために最後にしてもらおう……。
アーニャの番になった。
手を置く前に、「静まれ……まだ時刻じゃない……」とか言ってた。
他人のフリしたい。
お兄ちゃんも恥ずかしそうにしてたけど何かみんなとは違ってプルプルしてた。
アーニャはメモリの1/10位動いた。
少しだけ魔力を流してたのを感じた。
ほうほう、これくらいね。
皆が終わって私の番になった。
まずは魔力を放出せずに手を置く……するとグングンメモリが上がっていった!
「ぎゃぴっ!!」
慌てて手を離した。
何で!? 魔力放出してないのに!?
メモリはほぼ満タンになってた。
「あらあらすごいですねぇ、さすが精霊使いさんですねぇ」
受付のお姉さんが少しだけビックリしてた。
よかった……異常な程ではなかったみたい。
焦ったよぅ……ちょっとおもらししそうだった。 汗で下着がびっしょりだけど。
あと、カイは人族には精霊に見えるようだ、良かった。
ギルドカードが出来るまで、併設の食堂で昼食をとることになった。
情報収集ってやつだ。
ラウンツさんが食堂のカウンターのおばちゃんに世界樹の事を聞いていた。
「世界樹ね、みんな昔から探してるけど見つかりゃしない。
サレノバ大森林が怪しいらしいけどね。
エルフがステルス結界を張ってるんじゃないかってのが専らの噂だよ。
でもエルフなんて見た事ある人間は居ないね。 いまじゃ子供に聞かせるおとぎ話さ」
「そうか、ありがとう」
人界でも魔界と同じ情報しかなかった。
ギルドカードを受け取って宿に戻り、明日はオルガにある未到達のダンジョンに行こうという話になった。
未到達階層まで行って、念話の届かない場所が無いか探すのだ。
人族より遥かに強い私達なら行けるかな?
ダンジョンは初めてだ。 明日が楽しみだな。
ラウンツさんが未到達ダンジョンの情報をコーディさんから聞いていたので、夕食時はまたギルドの食堂でダンジョンの情報収集だ。
夕食まで街を散策する。
魔界はルルさんが作成した物を筆頭に凄い魔道具があるけど、人界の魔道具はなんかしょぼい。
でもその代わり、港にある船は魔王城位大きくて凄いらしい。
人界は科学が発達してるんだそうだ。
空を飛ぶ船も作ろうとしてるらしい。
夕焼けになったのでギルドの食堂へ戻る。
「おばちゃん! ゴルグレイムっていうダンジョンは何階まで攻略されてるの?」
アーニャがサイドポニーテールを犬のしっぽのようにブンブンさせながらウキウキと聞いた。
「9階までだよ。
罠がえげつない上に10階のボスが強いらしくてね、キングバジリスクがいるらしいよ。
奴は毒ブレスと硬い鱗が厄介なんだとさ。火にも強い」
「そうなんだ!」
「……エリアは……草生えてる……?」
「草? そうだね、森林エリアばかりだそうだよ」
メイリアさんがニヤニヤしだした。
なんか怖いんだよねこの子。
錬金術師って変な人が多いらしいけど偏見は良くないな! 話しかけてみよう。
「メイリアさんはなんで嬉しそうなんですか?」
「……森林エリア……草いっぱい……材料になる……
キングバジリスク……毒効かない方法ある……」
「そうなんだ! メイリアさんすごいね!」
「……ふふ……」
話してみたら何か頼もしそうな子だった!
宿に戻ってお母さんに念話して早めに就寝した。
明日は早起きだ!頑張るぞ!