お色気ルルさん
連続投稿です
「魔王様特別探索隊に俺も指名されたぞ」
緊張と、魔王様を自分で探しに行ける高揚感を抱えながらはふはふと家に戻ったら、お兄ちゃんがそう言った。
「ふぇ! なんでお兄ちゃんが!?」
「俺は今年成人して、ちょうど配属先が魔王様探索隊の基地部隊だったのは知ってるよな?」
「…………」
「俺の目を見ろニーナ」
「しし知ってました!」
お兄ちゃんが笑いながら私のほっぺをつねる。
「ぎゃぴ!!」
「クククッ……ニーナは忘れん坊だなぁ。
基地部隊配属だったけど、配属されたばかりって事で、配属先に変更があっても支障がない魔族としてちょうど良かったんだよ」
「レイスターはガルスターに似て剣の腕がいいから!
ニーナの魔法も凄いし! 私に似たのかしら? うふふ。
2人とも選ばれるなんてさすが私達の子供!!」
お兄ちゃんはお父さんとお母さんの本当の子供だけど、私は孤児だ。
それでも本当の娘と言って、兄妹差別なく育ててくれた両親のことを私も本当の両親だと思っている。
お兄ちゃんが魔王様探索隊に任命された時は家族でお祝いしたから覚えてるけど、お兄ちゃん羨ましい! お兄ちゃん凄い! で思考停止して、どこに配属されたかまで覚えてなかっただけだもん。
「おじさん達が精鋭を集めるって言ってたよ! お兄ちゃん精鋭なんだね! 凄いね!」
「ありがとう、頑張ってニーナを守るよ」
「私も戦えるもん! 魔王様をお助けするんだから!」
「ニーナ、人族は魔族にいい感情を持っていない、本当に危険なんだ、気をつけるんだぞ」
そうだった……お父さんに無言で頷く。
魔界と人界は海を隔てて別々の大陸にある。
魔族は転移魔法を使って、人族は高性能な船を使って小競り合いをしている。
人界には資源が豊富にあって、魔界に攻め込む理由は無いはずだった。
魔界も同じく。
昔は魔族と人族で交流があったらしい。
交流があったということは、少なくとも良好な関係だったはずだ。
だが、何らかの事情により、魔族が力をぶっ放した所を人族が見てしまった。
詳細な記録は残っていない。
それから人族は、殺られる前に殺る、とばかりに魔界へちょっかいをかけてきた。
魔族の圧倒的な力に対抗して数の暴力で攻めてきたのだ。
だが魔族には人族を殺戮する嗜好も無ければ、領土拡大なんて面倒臭い事にも興味が無い。
人族の兵力が膨大にならないように、たまに軍港や武器製造所を間引き射撃する位だ。
あの事件をきっかけに段々と人族との交流は途絶えたらしい。
魔王様が行方不明になってから魔界は人界へあまり干渉する余裕が無くなり、これ幸いと人族のちょっかいが酷くなってきた。
魔王様探索と防衛で大変だとお父さんが愚痴っていた。
魔族と人族は見た目に違いは無い。
各々様々な肌や髪や目の色がある。
例えば小麦肌の赤い髪の魔族がいれば、同じ色合いの人族もいる。
ただ一つ違うのは、魔族が魔族固有の魔法、魔族魔法を使用した時だけ眼が赤く光る。
普段の魔族も、人族も、赤い瞳の人はいない。
ちなみにお父さんとお兄ちゃんの髪色は茶色で、お母さんは薄紫、私は銀髪にオレンジの瞳だ。
魔王様探索が頓挫しないように、人族の前で魔族魔法を使わないようにしなければ。
よし!頑張るぞ! と気合いを入れて出発の準備を始めた。
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「出発は1週間後だってね。他のメンバーは決まってるのかな? お兄ちゃん知ってる?」
「さぁ、まだ聞いてないな、1週間後にはわかるんだからとりあえず自分たちの準備をしようか」
「うん。食糧や物資は基地で補給できるから、身の回りのものだけでいいかなぁ?」
「そうだな、ただ、父さんが目元を隠せるようにフード付きのローブやマントを用意した方がいいかもって言ってたぞ」
「ぎゃぴ! 早く言ってよお兄ちゃん!
どうしよう! ルルさんに作ってもらって間に合うかなぁ!?」
「ん? ルルさんて……魔道服作ってもらうのか? 普通のでいいだろ」
「ダメダメ! 魔王様をお助けするんだからカッコよくて凄いのじゃなきゃ!」
「魔王様関係あるのか? まぁ人界に行くんだから装備を整えるのはいいか」
「早速ルルさんの所へ行こう?」
「分かった付き合うよ」
お兄ちゃんはちょっと嬉しそうに着いてきてくれた。
「リュリュしゃ、ルルさん! 魔道ローブが魔王様で特別探索隊なんです!」
「ニーナちゃんいらっしゃい。……落ち着いて?」
ルルさんはクスッと妖艶に笑った。
あぅっ! 恥ずかしい……。
ルルさんは赤に近いピンクの巻髪で妖艶なお色気お姉さんだ。
いつもその体型を活かしたタイトなマーメイドドレスを好んで着ている。
ルルさんは魔道具が作れて裁縫もできるので、魔道服も作成できる。
そのおかげで、日常生活に支障をきたしそうなドレスを日替わりで着ている。
そんなルルさんを見た男の人の方が日常生活に支障をきたしそうだ。
「ルルさん、ニーナと俺が魔王様特別探索隊に任命されまして、ニーナが眼を隠すための魔道ローブが欲しいそうなんです。
7日後に間に合えば俺の魔道フードマントも作って頂けませんか?」
お兄ちゃんがキリッとした顔で言った。
白い歯がキラッとした気がしたけど、もしかしてこんな事に発光の魔法を使ったのだろうか……。
ちなみに発光の魔法は一般魔法なので眼は光らない。
「あらぁ、き・ぐ・う・ね? 私も特別探索隊に任命されたのよ」
「わぁ! ホントですか? ルルさんと一緒なら百人力です!」
「ニーナちゃんにはとびきり可愛いの作ってあ・げ・る♪
レイスターのフードマントなら作り置きのでサイズが合う物があると思うわ。
早速採寸をしましょう、中へいらっしゃいな」
「はいっ!」
その後、採寸やデザインできゃあきゃあ私とばかり話しているルルさんを見て、お兄ちゃんは雨の中捨てられた子犬のような目をしていた。
発光の魔法はただの魔力の無駄使いに終わったようだ。