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第7話 英雄と勝負!?


「兄さんが二人いる!?」

 

 美しすぎる弟二人が唖然としている。オレはそれを目の端に置き、見事な肉体美を晒す変態野郎に声をかけた。


「おまえ、もしかして、アル……ジュナ、か? もう秋だぞ。服くらい着ろよ!」

 

 オレは昨日、クリシュナが呼んだ名前を思い出した。あいつが間違えたのも納得だ。確かにオレに似ている。だが悔しいが、これほどオレの体は出来上がっていない。

 ヤツの殺気がもう消えているのを確認して、オレは構えを解いた。するとヤツは、全く乱れぬ呼吸で言いやがった。


「そこそこ出来るようだな。安心した。樹? とか言ったか。別に寒くはない。新陳代謝を常に上げていれば造作もないことだ。そんなことも知らんとは、やはり修行が足りんな」

「知るか! そんなこと! もう襲うつもりがないなら、そこらに座れよ!」


 全く、何が新陳代謝だ。オレはヤツの健康状態よりも、裸でウロウロされるのが耐えられなく、そこらにあった自分のトレーナーを投げつけた。


「樹兄さん……」

 

 おっと、二人の存在を忘れていた。オレは天井を見上げる。通常点いてるはずの電灯は、アルジュナのお陰で割られていた。ホント冗談じゃない。梁には弟たちお手製のサーチライト付きドローンがどういう仕組みか刺さっている。双子の(こう)はオレと同じ超体育会系。(しょう)は手先が器用な数学の天才である。二人が揃えば、大抵の難題が片付いてしまう。


「助けに来てくれたのか。ありがとうな。でも、ここで見た事は当分誰にも言うな。兄貴たちにも。ドローンは借りておく」

「了解。電球、後で持ってくるよ。じゃあね」


 いつもながら聞き分けのいい弟達だ。今度、好きな物でも買ってやろう。


「これを着るのか? ちょっと首周りとか狭いのだが」


 弟たちが出ていってすぐ、アルジュナがトレーナーに首を通しながら文句を言っている。十分余裕あるはずが胸回りと首がパツンパツンだ。


「我慢しろ!」


 オレはイライラしながらヤツの真ん前に座った。


「で? おまえはいったい何者だ?」


 ヤンキーそのままの逆立った茶髪、(こいつの場合は地毛だろうけど)に碧眼、男っぽい骨格は日に焼けた浅黒い肌とともにワイルドさを引き立てている。背格好はオレと似通ってはいるが、ヤツの方が一回りくらい大きく感じた。そいつは神妙な顔つきでオレの問いに応えた。


「私はこの世で一番大切な友を探しに来た。あいつのピンチに自分が間に合わなかったことを心から後悔しているのだ」


 一番大切な友。クリシュナのことか。昨日、瞬弥の中に入ったクリシュナが、オレに間違えて抱きついてきたことを思い出した。すっげえ嬉しそうだったな。


「ようやく見つけたと思ったのに、あいつは黒い馬に乗ってどこかに行ってしまった。私はまたしても見失ってしまった。それで、一緒にいた貴様。何というか、私のまがい物みたいな貴様の後をつけた」


 まがい物……。こいつ、マジ許さねえ。こいつが伝説の英雄だってことはわかっている。オレも気になって調べたから、クリシュナとアルジュナについては何となく把握した。彼らは二人とも英雄と称される人物であり、唯一無二の絆で結ばれた親友だ。あまりにも昔の話で神話レベルだったから、実在していたことにオレは驚いてる。アルジュナはたくさんの戦で輝かしい戦果を挙げた歴戦の勇者だ。弓を得意としてるが、その他も凄腕の戦士。


「オレはオレで本物だよ。何がまがい物だ! クリシュナのこと教えてやろうと思ったけど、絶対教えてやんない!」


 オレがそう言ってそっぽを向くと、あいつはわかりやすく狼狽えた。


「え、いや、それは困る。そうだ、貴様武芸を嗜んでおるようだが、私と勝負してみないか? 貴様がどれほどのものか知らんが、まがい物でないのなら、勝負できるであろう」

「ああん?」


 オレは訝しさを満面に出し、アルジュナを睨みつける。ちょっと待てよ。そりゃ、オレは武芸一般秀でてるぜ。弓道だけじゃない。柔道も黒帯だし、剣道も師範だ。因みに今日、ガキどもに稽古をつけてたのは次兄の春真(はるま)兄貴。オレも時々手伝ってる。でも、この伝説の英雄に勝てると思うほど馬鹿じゃない。


「もちろん、ハンデは着けよう。それで勝てれば、私が貴様に稽古を付けてやる。貴様には今以上に強くなって欲しいからな」


 言ってることが分からなくなってきた。結局こいつはオレに何をさせたいんだ? だが、最後の方はオレにとって物凄く魅力に感じた。


『今以上に強くなる』


 オレは常々、次兄の春真兄から一本取りたいと思っていた。弓以外はどうやっても勝てないのだ。それに、瞬弥のこと。あいつはこれからどんどん上に上り詰めていく。敵も多くなるだろう。あいつは守られたいタイプじゃないけど、オレはあいつを敵から守りたいのだ。


「わかった。ハンデありだな」


 そこをしっかり念押しし、オレ達は道場に向かった。



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