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第76話 最後の宴

 翌日、一足先に帰ることとなった弟達をオレは瞬弥とともに見送った。


「君たちには世話になったな。クリシュナやアルジュナも礼を言っていた。あいつら忙しくて顔を出せないけど、お土産、リュックの中に入れておいたからな」


 とは瞬弥。お土産って何を入れたんだろう? まさかお菓子とか? ここでは果物以外で甘いものは食べなかった気がするが。

 ところで、帰るには目印がいるわけだが、あいつらはちゃっかり自分達用の目印を作っていた。それを知らされた時のオレは焦った。


「おまえら、一体誰にこの話を……」

「知りたい?」


 目印を作るには、ある程度この話を理解してもらわないといけない。一体誰に話したというんだ。知りたいけれど、これはまた帰ってから面倒なことになりそうで、オレは遠慮することにした。


「いいよ、帰ってから聞くから。さっさと帰れ」

「じゃあね、兄さんたちが帰りやすいように根回ししておくよ」


 なんて、また嬉しいことを言ってくれる。


「今回は、マジで助けてもらったな。帰ったら、好きなもん奢ってやるからな(瞬弥が)」

「うん! 期待して待ってる(瞬弥さんを)!」


 オレと瞬弥は弟達を見送った。二人はたくさんの荷物と共に『時渡りの粉』で現代へと帰って行った。





 オレ達が残ったのは、祝勝会に招かれたからだ。と言っても簡略的なもの。国を挙げての正式なものは、もっと後になる。カンサ王の残党もまだどこかにいるし、政治組織も立て直さないといけない。そういうのが済んでからやるということだった。


 ようするに、仲間内で食って飲む感じの祝勝会だ。弟達も招待されたけど、興味はなかったみたい。まあ、まだそこはお子様だからな。

 宴会場はマトゥラー国の宮殿だ。王のいなくなった玉座の間で、ここに攻め入った親衛隊や兵士達が夜が更けるまで大騒ぎをした。オレは初めてクリシュナの兄貴、バララーマと言葉を交わした。案外優しい人だったのには内心驚いたし安心した。


 圧政に苦しんだ市井の人々に宮殿が隠し持ってた食料を開放したら、次から次へと料理と持って来てくれた。大工の奥さんも来てた。幸せそうで良かったよ。


 オレらの前にはご馳走がこれでもかと並び、みんなお腹がはち切れるほど食べる食べる。クリシュナのご機嫌な笛の音で誰もが踊り出し、大騒ぎな一夜が過ぎていった。

 オレと瞬弥は初めて飲むアルコールにすっかり飲まれてしまっていた。この時代なら、誰にも文句言われないだろうと飲み始めたが、あっと言う間に酔っぱらった。グダグダになりながら楽しそうな人々を眺めていた。

 

 オレの目の前にはアルジュナとクリシュナがいて、今まで見た事もないような笑顔で二人、杯を酌み交わしてたな。途中までしか知らんけど。


「いつきー。俺はおまえが大好きだよー。女なんかより、全然好きだー」

「ああ? それなー、オレ知ってたよー。ははは! オレもおまえが好きだー! 円佳なんかよりオレがいいよなー?!」

「あたりまえだろー!」


 なんてことを言ったような聞いたような……。気付いたら、瞬弥とオレは折り重なるようにして爆睡していた。


「おい、そろそろ起きろ。今朝は帰るんだろ?」


 大宴会の翌朝。聞き慣れた声に眠りを妨げられ、目を擦る。声のする方を見ると、前髪を金色のカチューシャで止めた精悍な男が呆れ顔でオレの顔を覗いていた。

 頭から背中、腰も痛い。加えて足が重い。見ると、オレの太腿のあたりに瞬弥の頭があった。


「アルジュナ、おはよう……。おい、瞬弥、重いよ」

「んんー?」


 オレは足を動かし、瞬弥の頭を床に落とした。ヤツは『いってえ』とか言いながら、体を起こした。


「頭が痛い……」


 それは多分、オレのせいじゃない。実を言うとオレも痛い。外じゃなく、内側にあるハンマーがオレの脳内を叩いて回っているようだ。ガンガンいってて、鼓膜もぼうっと靄がかかったみたく周りの音が良く聴こえない。


「二日酔いか。全く、飲めもしないのに、いい気になって飲むからだ」


 アルジュナの説教なんか聞きたくないよ。うええ、気持ちわりい。


「ま、私達はおまえたちがイチャイチャしているのを楽しませてもらったけどな」

「な、なんだよそれ!」


 オレと瞬弥は顔を見合わせる。全く身に覚えがないことだ。一体何があったんだろう。この時代にカメラがなくて良かったよ。スマホは弟達が充電器を持って来てたので、カメラや録画はできたけど、さすがにそんな野暮なことはしなかった。


「おまえ達が帰るときは、私もクリシュナも見送りをしたい。準備ができたら教えてくれ」

「え……。ああ、わかった」


 今日も忙しいのだろう、そう言い残して、アルジュナはどこかへ行ってしまった。


「いよいよ、帰るんだな……」


 瞬弥がオレの横でため息交じりにそう言った。もちろん、いつまでもここにいられるわけじゃない。それに帰りたいとも思ってる。あの、四角く薄い青の空、乾いた風、色んな音が混ざった騒がしい街、満員電車、排気ガスの匂い、そんな当たり前の日常が待つあの日々に。


 玉座の間は、昨日の喧騒を取り払うかのように後片付けの真っ最中だ。ここにも新たな王が座に就くのだろう。オレ達は重い頭を抱えながら、ゆっくりと立ち上がった。

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