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第75話 神仙の正体

 オレが図らずも一時帰宅した時、円佳さんが言っていた『アスラ族と思える異形の者が、警察官の前で突然消えた』こと。それは、オレ達の時代に迷惑をかけてはいけないと、ナーラダ神仙が一斉に呼び戻したそうだ。予想するに、やっぱりかなりの能力を持った爺さんのようだ。


 この人が一言オレ達にアドバイスしてくれたら、いや、クリシュナの体の在り処だけでも教えてくれたら、どれだけ助かったか。オレがアルジュナに殴られて泣きながら現代に戻ることもなかったろうに。試練かなんか知らんけど、鍛えられたのはあいつらじゃなくてオレ等だった気もする。


「カンサ王の討伐など、何の試練もなければ簡単なミッションじゃった。それよりも、今後のこの国のみならず、世界を統べる荷を負うほうが重かろう」


 今回の騒動は、その任に備えるため、クリシュナ達がより絆を深め、困難に立ち向かえるよういい機会になるだろうと考えたそうだ。で、放置して見物してたってわけ?


「おまえ達のような『異物』も取り込み、味方につけ、乗り越えたんじゃ。我らは安心して人の世を奴らに任せられるとういうものじゃ。たとえ厳しい日々になろうと、乗り越えてくれるじゃろ」


 厳しい日々か。それがどんな日々になるか、オレには想像するしかないけれど、どんなことでもあの二人なら成し遂げると思う。でも異物というのは言い過ぎじゃねえ? お互い様だと思うし。


「爺さん、それは俺達にも言えることだ。まさかとは思うけど、俺らも一緒に鍛えてたんじゃないだろうな」


 それだよ。オレ達も随分な目に合ってきた。オレの言いたいこと、瞬弥がちゃんと言ってくれた。


「さすがに鋭いのぉ、クリシュナの生まれ変わりは。こっちの方は気付いておらんようじゃがな」


 と言って、爺さんがキモイ流し目を使ってオレの方を見やがる。なんだよ!  


「気付いてるよ! でも……どういうことか説明しろよ」

「さあてな。じゃが、おまえら自身、成長したと思うとるじゃろ? それで良い。我らも安心じゃよ」


 勿体ぶっているのか、肝心なことは言いやしない。もちろん、今回オレ等が得たもの全ては人生を変えるくらい大きいと思ってる。ま、瞬弥と二人なら、この先何があろうとも、オレは何も臆するところないけどね。


「さっきから、爺さんは『我ら』と言うが、誰のことを言ってるんだ?」


 瞬弥がまたオレの気が付かなかったことを口にする。そう言えばそうだけど、神仙組合(?)の人達のことだと、オレは勝手に思っていたけれど。


「ふはは、もうこれくらいにしないと身バレしそうじゃなあ。おまえらの働きに敬意をはろうてここまで話したんじゃ。今話したことは、アルジュナ達には話すじゃないぞ。奴らも気づいてはいるかもしれんが、プライドの高い奴らじゃからな」


 話を区切ると、爺さんは『よっこらしょ』と言いながら立ち上がる。オレ達もつられて立ち上がるが、二人とも納得したわけじゃない。それでもこれ以上は言わないという決意が見て取れる背中に、仕方なく口を閉ざした。

 オレ達の諦めに気付いたのか、爺さんは背中を向けたまま語りだした。それは今までの声よりもずっと若い音で、オレ達をハッとさせた。


「いずれにせよ。よく二人を導いてくれた。我らからも礼を言う。瞬弥、樹、今後も互いを敬い、助け生きるがよい……」


 爺さんの背中がぴんと立つ。オレの肩ほどしかなかった身長があっという間に頭を超えていった。白い帽子は消えて三日月の冠が代わりを務め、銀色の流れるような髪が背中へ伸びていく。

 弱々しかった老体は、若く逞しい肉体美となり、それにぴったりと吸い付くような水色と金の鎧が纏わられた。筋肉の盛り上がった腕には細かい細工が施された幅広の腕輪が装着され、西の空に残った夕陽を反射している。


 ――――なに……これ……。


 首だけを捩じったそいつは半顔をオレらに向ける。筋の通った高い鼻、いつか見た空のような瑠璃色の瞳。驚いたのは、額にも同じ色の目が見えたことだ。そいつは笑ったとわかるように口角を上げた。


「元気でな」


 一歩、前に足を踏み出したのが見えた。けれど、オレ達が目にできたのはそこまで。突然空間にできた裂け目に入りこむように、爺さんだったものは跡形もなく消えてしまった。


「三つ目の神様……? シヴァ、か……」


 茫然としているオレの隣で、瞬弥が独り言のように呟いた。

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