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第74話 神仙の告白

 雷雨で洗われた空気はいつも以上に澄んで感じた。夕刻に向かって太陽が西に傾き、オレ達の背中の辺りに熱を送っている。それでも、気温はいくらか下がっただろう。それほど不快には感じなかった。


 クリシュナやアルジュナは、軍と共に宮殿内に入っていった。まず後片付けといったところか。ドヴァラカ国の勝利で沸き立つ宮殿や城下町。でも戦の後始末はすぐに終わるものでもないだろう。

 オレ達はナーラダ神仙に誘われるまま、今は人がいなくなった観客席の一角に腰を下ろした。最初にオレが観覧した場所とほぼ同じところだ。下でカワリを追うようにドローンを飛ばしている弟達の姿は、随分と小さく見えた。


「それで? オレ達に聞きたいことってなんだ? 未来の世界の何が知りたい?」


 アルジュナが聞いたら即シバかれるような口の利き方で瞬弥が話を切り出した。ナーラダ神仙は、別にえばる様子もなく、穏やかな調子で応えた。


「我か? いや、実は未来のことなど全く興味はないのじゃ。おまえたちと話がしたくてな。瞬弥と言ったか? おまえの聞きたいことはなんじゃ」


 おい、いきなり話し方が雑になっているんだけど? 言ってることも拍子抜けだし。瞬弥は呆れ顔で神仙を眺める。


「食えない爺さんだな。それが本性ってわけか。まあいいや。なら遠慮なく聞くけど、この一連のカンサ王討伐物語、シナリオを描いたのは爺さんだろ? で、生まれ変わりの俺達まで巻き込んだのはどういうワケだ?」


 一瞬の沈黙。てか、オレもびっくりした。ナーラダ神仙がシナリオライターっていうのはわかる。元々、この爺さんが、クリシュナはカンサ王を討伐する運命にあるって預言したんだからな。でも、オレ達を巻き込んだって……。クリシュナが時を超えて瞬弥の体に入ったのは偶然じゃないのか?


「フォフォフォ!」


 次にその沈黙を嘲笑うような爺さんの笑い声。なんかお約束の笑い方だな……。


「それはちいと、買いかぶり過ぎじゃな。我とて、こんなことを初めから予想しちょったわけじゃないよ」


 爺さんは胸まで伸びた白い髭を右手で扱くと、両方の口角を上げてにんまりと笑った。


 カンサ王を討つことは、クリシュナ、バララーマ兄弟に託されたミッションだった。これは二人が生まれる前から定められ、成し遂げなければならなかった。


「それって本当なのかよ。クリシュナが強くて正義感が強かったから、適当にそう決めたんじゃないの?」


 これはオレの持論。牛飼いやってたイケメンの力自慢を『おまえこそ、この国の王子でカンサ王を討つと定められたもの』みたいに勧誘したんじゃないかと。


「ふふふ。まあ、それは誰にも分らん事じゃな。じゃが、確かにクリシュナにはその力が備わっちょった。心も体もな」


 カンサ王に自分を討つべき宿敵が生きていて、クリシュナであることを告げたのは、やっぱり爺さん本人。なんでも早いとこ王を討たないと、国がもたないと考えたらしい。荒療治にもほどがあるよな。お陰でクリシュナは命を狙われる羽目に。


 でも、ナーラダの爺さんにとって、クリシュナが魂だけで未来に行ってしまったのも、体をアスラ族のオジナに持っていかれたのも予想外のことだったらしい。流石に慌てたと。それで神仙連中かき集めて事態の修復に当たったらしい。アルジュナに『時渡りの粉』を渡して助けに向かわせたのも、爺さんの差し金。


「実はな。我もおまえ達の時代に行ったんじゃよ。アスラ族に混じってな」

「ええ!? マジかよ!」


 瞬弥のところに攻め入ったアスラ族に爺さんも混じっていたらしい。変幻自在なわけ? そんでそこでオレ達の存在を知った。


「我はこれは良い機会じゃと思った。アルジュナとクリシュナには、カンサ王打倒の後も人の世で力を発揮してもらわなければならない。これくらいの困難を抜けられなくてはその運命を任せることはできないじゃろうとな。幸い、体を持って行ったレジナの姫さんは、風評が先行しちょるが、実は悪い娘じゃないことがわかっとったから。黙って見とったんじゃ。まあ、高みの見物じゃな」


 益々言い回しが変なことになっている。けど、それならオレ達がカリヤの所に行ったり、オレが〇モのおっさんに言い寄られたりしたのは、爺さんの放置が招いたってこと? 


「ひっでえな! さっさと教えてくれりゃあ、苦労しなかったのに!」


 オレがキレてるとなりで、瞬弥はイケメンな顔を更に近寄りがたいほど真摯な表情で爺さんを見ている。何か気になることがあるのだろうか。爺さんの話はまだ続いた。

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