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第71話 響け勝利の雄叫び!

 何頭もの竜が暗雲を駈け抜けていく。黄金の竜だ。それは英雄すらびくつかせる破壊力で地上に雷撃を突き刺すのだ。それに狙われたものは、全身を震わせ地に伏すのみ。過去の過ちを清算するがのごとく、その身を痙攣させるのだ。神の鉄拳を避けることはできない。


「てめえが相手か。はん、身の程知らずが」

「うっせえ、オレだってアルジュナの生まれかわりだ! 負けるかよ!」


 オジナは鼻で笑って剣を大上段に構えた。ちきしょう、マジで雷落ちろよ。なんて念じながら、オレは肩の位置で平行に剣を持つ。柄を順手と逆手に握る、まるで日本刀のように。


 ――――なめんなよ、武道一家、天堂家を。


 オレは滝のような雨をつんざいてオジナに向かって走った。勝負は一瞬だ。奴が大剣を振り落とす前に懐に飛び込む。これはオレしかできないはずだ。剣道の胴を狙うスピードと居合いによる振り切る力強さ。幼い時から培ってきたものに、アルジュナに鍛えられた筋力と自信がオレにはある。

 轟音が鼓膜に激突して、何も聞こえなくなった、あいつの剣が落ちてくるのを目の端でとらえる。でも……。


「樹!!」


 そんな声がスローモーションのように聞こえた気がした。手ごたえがあった。


「うわああぁぁぁぁぁ」


 背後でオジナの絶叫が聞こえる。


「樹、離れろ!」


 瞬弥の声にオレは振り向くと、オジナが髪を逆立て、ビリビリと体を震わせている。


「ええ!?」


  どうやら本当にオジナのかざした大剣に雷が落ちたらしい。え、ちょっと待って。オレの刃が先だよね? いやいや、オレだって手ごたえあったし。第一オレは感電してない!


 それでもオレは身の危険を感じてすぐにヤツから離れた。奴の体は発火し、燃えながらその場に崩れ落ちた。


 アルジュナも既に周りのアスラ族を倒していた。オレの言う通り、下段に構えることで雷の恐怖を取り払えたのだろう。瞬弥もやれやれと言って顔つきでオレを見ている。もう戦える敵はいなかった。

 最後に残ったレジナ妃は、哀れな兄ちゃんのところに駆け寄り、無惨な姿になったオジナに縋って泣きだした。姫さんには、オジナは雷に打たれたってことにしてもいいよ。


 そして、あれほどに荒れ狂っていた雷雲は、最後の力を全て出し尽くしたように静まりを見せる。雷は去り、弱い雨粒が肩を濡らすと間もなく、雲の切れ間から太陽が顔を出した。

 見る見るうちに明るさを取り戻す大地。天空も洗ったような美しい青空が広がっていった。


「討ち取った! カンサ王を討ち取ったぞ!」


 青空に向かって叫ぶクリシュナの雄叫びがすり鉢の側面を反響させた。クリシュナが掲げる血塗れの刃が太陽の光で輝く。その足元は、力尽きた王族の躯が覆うように転がっている。

 間髪入れず、隣でバララーマが吠えた。その手には髪の毛を掴まれた王の首が翳されている。胴を失った首からはとめどない赤い血が垂れ落ちていた。


 その声に呼応するように、宮殿内でも歓声が上がる。何事かとオレ達が首を振ると、競技場にたくさんの兵士たちが入って来た。それはクリシュナの国、ドヴァラカ国の兵士たちの姿だ。

 次から次へと競技場や観客席を埋めていく兵士達。いつの間に死闘を繰り広げた場所は彼らで溢れていた。みな一様にはち切れんばかりの笑顔。どうやら宮殿内もドヴァラカ国が制したようだ。円形競技場は悪意に満ちた場所から一転、喜びと興奮の坩堝となった。クリシュナは大きな歓声に煽られるように、もう一度剣を突き上げ勝鬨を上げた。


 兵士たちは一斉に歌を歌い出した。恐らく国歌というものだろう。満席とは言わないまでも、さっきまで怒声とブーイングが降るばかりだったそこから、ドヴァラカ国の王子を称える歌が熱狂と共にオレ達に降りそそいでくる。アドレナリンが体の中で沸騰するのを感じる。これで、この国で苦しんでた人々は幸せになれるだろう。愛しい人が突然連れ去られるようなことはなくなる。


 誇りに満ちた表情で王子たちが手を振っている。終わったんだな。何もかも。クリシュナは彼の使命を遂げることができたんだ。

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