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第70話 激闘を制せよ!

 オレは咄嗟に彼女の振り落としてきた刃を受ける。上を向いた拍子に大粒の雨を受ける。ついでに暗雲を走る稲光も目に入った。


 ――――ちっ! 目が眩む!


 矢継ぎ早に繰り出す刃に、これがさっきまでベッドに横たわっていたお姫様かと戸惑う。オレが放った矢傷も既に消えていた。

 けど、そんなことを考える暇も与えてもらえない。刃が付き合う度、水しぶきと火花が散る。


「樹!」


 瞬弥がオレに加勢をしようとするが、オレはそれを制した。


「瞬弥、彼女に顔見せるな。あらぬことが起きたら面倒だ!」


 レジナ妃は体つきと髪の長さでクリシュナを判断している。瞬弥のことを彼女の『大切なモノ』と認識していないのはそのためだろう。だが、もしも瞬弥にも同様な感情を抱いてしまったら。途中で思考を放棄したくなるくらい面倒くさいことになりそうだ。


 目の端でアルジュナを見ると、やはり、兄貴(オジナ)のほうが襲い掛かっている。平時なら、あれだけの戦士だってアルジュナの敵じゃないはずだ。なのに、押されてるってのは、未だ衰えぬ雷のせいだろうか。ゴロゴロと空を這う不気味な音は一向に鳴りやまない。雨は肌に突き刺さるほどの土砂降りになってきた。


 ――――ったく、しょうがねえな!


 かといって、オレが二人分の手練れを相手にすることも無理があるってもんだ。レジナ妃の刃を躱しながら、オレは思案する。


「お(きさき)さん、ごめんよ!」


 別に同情ってわけじゃないけど、やっぱり女の人を傷つけるのは趣味じゃない。それで切っ先が鈍ったとは言いたくないが、オレは彼女の剣を上へと払うと、腹を目掛け強烈な蹴りをお見舞いした。『ぐっ!』、と蛙がつぶれた様なうめき声を上げると、体を二つに折り、泥となった地面に膝をついた。そして苦しそうにうずくまる。


 オレは一瞥しながら背の弓を取り矢を番える。アルジュナに重い一撃を与え続ける兄貴(オジナ)を狙い弦を引いた。髪をつたう雨水が睫毛にたまり、オレの狙いを妨げる。でも……。

 矢は雷雨を切り裂き、そいつの胸板に突き刺さる。堅い筋肉で覆われているのだろう、貫くことは叶わなかったが、それなりのダメージがあったか?


「馬鹿め! こんな矢がワシに通用するか!」


 アルジュナの攻撃を躱しながら、突き刺さった矢をいとも簡単に抜いてしまった。オレの方を見て、ケラケラと下品に笑っている。頭くんな!


「アルジュナ! しっかりしてくれ!」


 敵の数は数えるほどとなった。瞬弥が相当その数を減らしている。親衛隊は残念な感じで雨に打たれてたけど。それでも、アルジュナに向かうアスラ族はオジナの他にもまだいて、らしくなくヤツは苦戦している。


 ――――ちきしょう! 忌々しい雷雨! 早く通り過ぎてくれ!


 オレの願いなんか聞いちゃいないとでも言うように、(いかずち)は大荒れ、ハンマーを振り落とす如くの轟音を轟かせながら、観客席や倒れた戦士の武器や防具に所かまわず突き刺さっていく。その度にアルジュナの肩がびくつくのがわかってしまう。


「加勢に行け! 樹!」


 すぐ近くで戦っていた瞬弥に言われるまでもなく、オレはアルジュナの元へと走った。


「しっかりしろよ、英雄!」

「樹か、面目ないな」


 オレはアルジュナの背後を守るように背をつけた。オレを追ってきたアスラもいて、囲まれた態だ。だがちっとも負ける気はしなかった。


「いいか、いい事を教えてやる。雷はな、高いところに落ちるんだ。剣をかざすな、下段でいけ。兄ちゃん(オジナ)の方がオレらよりずっと背が高い。落ちるなら奴のところだ」


 と、まあ多分当たっていると思う知識を披露する。


「なるほど。承知!」


 アルジュナは馬鹿正直に下段に構えて、向かってくる敵をなぎ倒しだした。オレも後に続く。後方から矢が放たれ、アスラ族が倒れていく。どうやらオレの弓で航が射ているようだ。


 ーーーーあいつらばかりに手柄を取られてたまるか。


 オレはわけのわからない負けん気を発揮してオジナに挑んだ。別にこいつを倒すのはアルジュナじゃなくていいだろう? レジナ妃には恨まれるかもだけど、ここはきっちり落とし前つけてやるぜ!




 

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