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第6話 こいつは何者!?

 辺りはすっかり夜の闇を迎えていた。秋も深まると、あっという間に陽が落ちる。つるべ落としとはよく言ったものだ。高校最寄りのメトロ駅から五駅。そこからなだらかな坂道を昇ること十分。厳めしい門構えが見えてくる。


 道場が併設されているオレの家は、昔ながらの武家屋敷そのままの風情だ。瓦屋根の表門には、既に灯りが灯されていた。オレは右横の小さなくぐり戸を開け、前庭に入る。右手の道場では、煌々と輝く電灯の下、道着姿の子供たちが稽古に励んでいる。声変わり前の元気な気合と畳に体が弾む音が間断なく響く。我が家の日常風景だ。


「あ、樹兄さん、お帰りなさい!」


 玄関の土間で靴を脱いでいると、見目麗しい我が弟が顔を覗かせた。末っ子の翔だ。オレの弟は二人いて一卵性の双子だ。(こう)(しょう)。正直少女漫画に出てくる名前みたいだが、本人達自身、少女漫画も真っ青な美少年なのだ。言っとくが、どっかのアイドルとか鼻で笑うレベルの美しさ。

 二人はオレと同系列の付属中学に通っている。そこでは美神ツインと呼ばれる有名人なのだ。ふんわりと手入れの行き届いた髪に小さな顔、透き通った肌に黒目勝ちの双眸。芸術作品だね。


「お、ただいま。飯食ったか」

「今からだよ! 航もいるから一緒に食べよ。あれ、なんか疲れてる? 凛々しい眉がちょっと下がり気味だよ」

「だ、大丈夫だよっ」


 何の前触れもなく、オレのくっきり眉に長い指で触れてくる。オレはちょっと恥ずかしくなって軽く手を払った。なんでこうオレの回りには綺麗な顔した男が集まってくるんだろうね。

 ちなみに双子は長兄、次兄、オレの年長組三人とは異母兄弟だ。翔達の母親は既に他界している。オレんとこの家庭事情は複雑でね。でも、これだけは言える。兄弟仲はすごぶるいい。


 オレは古めかしい家の廊下、軋む音を立てながら歩く。築何百年経ってるんだ? 古式ゆかしいと言っても、冬は隙間風半端ないし、オレもマンション暮らししたいぜ。




 夕飯後、自室に戻ったオレは瞬弥からのメールを一通り読む。実家ではいよいよあいつと婚約者が相まみえるらしい。ていうか、まだ会ったことなかったんだ。オレはそっちに驚いた。しかし、瞬弥はそれでいいのかな。あいつ確か、現在進行形の彼女が三人いたと思うけど。どれも本気じゃないんだろうか。婚約者がいい人だといいな。あいつが本当に好きになるくらい素敵な人ならなおいい。


 ――――!?


 不意にオレの思考を止める不穏な気配がした。それは、下校時に感じた殺気だ。


「誰だ。オレを付けてきたのか」


 オレの部屋は武家屋敷の母屋から連なる離れだ。昔は蔵として使われていたそこは都合よく五棟あり、五兄弟一人一部屋ずつ割り当てられている。防音も完璧だから、隣の部屋で何をしているか全くわからない。 

 ベッドに寝ころんでいたオレはゆっくり体を起こす。いつのまに入り込んだのだ。天井は吹き抜けで天窓が一つある。そこから入ってきたんだろうか。


「あっ!」


 唐突に灯りが消えた。視界を助けてくれるのは、天窓から差し込む月明かりだけになってしまった。目の前に、音もさせずに人が降りて来た。同時に拳が飛んでくる。


「させるか! ぐっ!」


 オレはそれを左腕で止める。重い! 痛い! もしオレの腕の筋肉がこれ以下だったら軽く骨が折れてる。だが、それで終わらない。繰り出されるパンチの応酬、声を出す暇もない。鈍い肉と肉、骨と骨が当たる音、正確な息遣いが暗闇に響くのみ。そのうち蹴りも飛んでくる。腹を固くして受けるが、かなりのダメージを喰らう。


「ゲッ!」


 くそ! 負けるか! 防戦一方では癪に障る。オレは思い切り踏み込んで、腹に一発お見舞いしてやった。


「がっ!」


 よし、当たった。しっかし、硬ってえ! 拳が痛いわ! 蔵の中をそれこそ飛び回り、オレ達は拳と蹴りを突き合わせた。このオレが肩で息をする。向こうも少し息が上がってきたか?


「兄さん!」


 部屋の扉が前触れもなく開かれた。航か、翔か? 何かが飛んできた。甲高い金属音と同時に、閃光が走る。辺りは一瞬にして明るくなった。


「え!?」


 オレは目の前で構えを取る男を見て言葉を失った。今の今までオレと拳を突き合わせていた奴。


「兄さんが二人!?」


 剥き出しの(はり)に突き刺さったサーチライトが照らしたのは、上半身裸で日焼けした美丈夫。オレにそっくりな男だった。



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