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第63話 探し求めていたもの

 天蓋のベッドから、粘着性のある高音の声が聞こえる。若い女の声だ。部屋の広さや豪華さから考えても、レジナ妃に間違いないだろう。そして……。ひざ元にいる、あの影は。


「なにゆえ、黙っておるのかえ」


 カーテンが波打つ。それは、音もたてずにゆっくりとたくし上げられていく。ベッドの上にいる二人の姿が、蛇腹窓から差し込む光に晒されていった。


 このシーン、もしも漫画なら見開き一ページのカラー仕様だろう。ページの中心に据えるのは……。


 ――――これが……


 ベッドの足元に大きく投げうっていたのは、世にも稀なる美しい創造物だった。どこにも無駄な肉はない、均整がとれたしなやかな肢体。浅黒い肌に長い黒髪は腰あたりまで流れ、引き締まった体を纏うようだ。

 下腹から股間にかけては白いシーツが無造作にかけられ、それもどこか耽美な絵画の一コマのようだった。


 ――――クリシュナ……。


 オレ達より大人びて見える。二十代後半くらいだろうか。身長も瞬弥より高い気がする。男らしい骨格の輪郭には、美しい曲線を描いたマユ、しゅっとした鼻と形の良い唇。長い睫毛は今にも開けられそうだが、ピクリとも動かない。全てが非の打ち所がないほど整っていた。


 ――――やばい。なんだこの心臓の跳ね具合は。目が離せねえ。


「おまえ、護衛兵のようじゃな? わらわの寝所に入って来るとは、極刑に値するの」


 オレはハッとした。敵を前にして、うっかりクリシュナに見惚れてしまった。レジナ妃と思われる女性は、銀色の髪をだらしなく結い、オレに怪訝な顔を向ける。白い肌に細い眉が線のように引かれている。

 たしかに魔族にしては美人だ。胸元がはだけて豊満な胸が露わ、普通ならそっちに目が釘付けになるだろう。でも、彼女の足元に横たわる動かぬ肢体はそれ以上に人の目を奪った。


「レジナ妃ですね」

「ふん? 下の騒ぎはおまえの仕業かのう」

「クリシュナを返してもらいに来ました」


 レジナ妃の細い眉がピクリと上がった。そして俄かに険しい表情となり、クリシュナの体を自分の方へと手繰り寄せる。


「これがクリシュナじゃと? たわけたことを言うでない! これは兄上にもらったわらわのモノじゃ! 誰か! おらぬのか?」


 はだけていた胸元を手早くなおし、ベッドの上に膝立ちする。彼女は助けを求めたが、扉を開けて入ってきたのは、オレの弟達だった。


「兄さん! あ!」「クリシュナさん……」


 背後で二人が息を呑むのが聞こえた。


「アルジュナに連絡だ。すぐに瞬弥ここに呼ぶんだ!」


 ここに瞬弥を呼べば、一瞬にして事が済む。クリシュナの抜け殻にヤツが戻れば、レジナ妃を傷つけることもなく一件落着だ!


「兄上ー! 助けに来ておくれ! アスラ族よ! 今すぐに集うのじゃ!」


 レジナ妃が突然声色を変えた。左腕にクリシュナを抱え、右手になにか呼び鈴のようなものを持ち、激しく振っている。魔族だけに聴こえるのか、音がしていない。


 ――――なんだ! 仲間を呼んでいるのか?


「アルジュナ! 何をしてる! 早くしろ。クリシュナが見つかったんだ!」


 弟達の呼びかけにアルジュナが返事をしない。オレはレジナ妃を睨みながらアルジュナの名を呼んだ。


『駄目だ! 今は無理だ!』


 耳に飛び込んで来たのは、らしくないアルジュナの焦った声だった。


「どういうことだ!?」


『バトルロイヤルが始まったんだ! しかもこっちが苦戦中だ!』


 オレの耳が聞いたのは、瞬弥の危機を知らせる凶報だけではなかった。蛇腹窓を外から蹴破る轟音が騒然とした部屋に響いた。

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