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第51話 知能犯

 アラビア風商人ご一行は何を売っていたか。実は人だったらしい。

 ドヴァラカ国やアルジュナの故郷で西国色が強くて有能な人材をスパイとして潜り込ませる。それがヤツの作戦だった。既に何人かの密偵が宮殿内に侵入し、使用人や傭兵として働いているらしい。


 だが、後宮にはまだ誰も侵入できていない。宮殿よりもずっとそのハードルは高く厳しいのだ。アルジュナは後宮に忍び込む策をいろいろ巡らしていた。後宮は当然のように男子禁制。たとえ色香を使って(この場合、男の色香だ)うまく入り込んでも、生きては出られない恐ろしい場所だ。


 武芸大会には、後宮の姫君も多く見物に現れる。世紀の色男、クリシュナを見るため、そのクリシュナが血祭に上げられる様を見るためだ。彼女たちにとって、刺激的すぎる祭典なのだという。

 全くどんだけドSなんだか。自ずと警備も武芸大会が行われる城内の競技場に集中する。後宮に忍び込むには最大のチャンスであることは間違いない。


 クリシュナの命を狙うカンサ王は、よもやクリシュナの体を自分の後宮が隠し持っているなんて知りもしない。後宮にいる誰か、役人なのか妃なのか、それも今のオレ達にはわからない。

 もちろん、敵か味方かもわからないのだ。でもここは、敵としておいた方がいいというのが一致した意見。


 だからカンサ王を殺す前に、体の在り処を知ることができたら、これ以上のことはない。いや、出来れば武芸大会の前に、クリシュナは自分の体に戻りたいと思っている。瞬弥の体を傷つけたくないからだ。


「貴様の弟達を妃候補の女官として出仕させる。あの時の商人としての伝手(つて)はまだある。十分な実績も賄賂も有効だ。彼らの美貌があれば絶対に入り込める」


「断る」


 オレは即答した。弟達にそんな危険なことをさせるわけにいかない。そんなことになるなら、今からすぐに現代に帰す。有無は言わせない。


 弟達は中学二年生。だが、身長はまだ百六十に届かない。声変わりもまだなので確かに女装すればそのへんの女官より美少女だろう。なんたって、学内でも有名な美神ツインズだ。だが、出来るとやるとは違う。


「樹兄さん、僕たちやるよ! 大丈夫、僕たちに不可能はない」


 オレの気持ちも知らないで、いつの間に話に入って来たのか翔と航がシンクロして声を上げた。


「おまえらは黙ってろ!」

「ううん、聞いて、兄さん。僕たちこういうこともあろうかと、準備してきたんだよ」


 オレは現代に戻っていた間、あいつらが望むまま、ここで起こっていたことを話して聞かせてやった。『時渡りの粉』を作ってもらう手前、あまり秘密にするのもと思っていたし、自分が整理したいのもあった。


「僕たちが考えた作戦を聞いて。アルジュナさんもクリシュナさんたちも」


 双子は自分達が持ってきた道具(ツール)を見せながら、作戦を披露した。アルジュナ達にとって未知な道具に戸惑う表情も見られたが、高度な魔法と思えばいいという瞬弥の言葉に納得したようだった。

 現代科学が成したツールに裏打ちされた作戦は、確かに隙が無いように見えた。


「ね? 樹兄さんがしっかりカバーしてくれるから、僕たちは安心していけるんだ。ちゃんと守ってくれるよね?」


 二人の美少年は、その大きな瞳をめいいっぱい広げてオレを見上げる。ついでに言うと、二人のイケメンも同じような顔してオレの決断を促している。


「仕方ないな……。危険になったら、すぐに逃げると約束しろよ」


 安堵の歓声が上がる。ちょっとした緊張感が漂った場は、オレのため息とともに一瞬にして溶け消えた。


「大丈夫だよ! この『時渡りの粉』があればすぐに樹兄さんの所へ行けるから!」


 彼ら一押しの、どこでも粉を炙れるポータブルサイズのケースを手に、餌をもらった子犬よろしく首を何度も振っている。だいたい、こんな便利道具、オレがこっちに来る前には見せもしなかったじゃないか。知能犯が過ぎる。


 とにかく、承諾したのだから、こいつらを危険な目に合わせることはできない。クリシュナの体を得るために仕方ないとしても、オレはまた、厄介事を背負うことになった。

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