第4話 出会った頃からイケてたヤツ
オレが瞬弥と初めて会ったのは小学三年生の時だ。転校生としてやってきたあいつは、当初からオレ達ガキとは造りが違うというか、全く別のものから生まれてきたかのようだった。恵まれた容姿と天の才のような頭脳、そして掛け値なしの運動神経。
オレはその日までお山の大将よろしく、自分が一番と思っていたから、正直妬ましかった。オレの取り巻き根こそぎ持っていかれたしな。だが、オレは自慢じゃないが心はねじくれてはいない。向こうの方が優れているのだから当然だと思っていた。
ある日、オレの取り巻きだった奴らが、突然オレをいじめだした。そんなに親分風を吹かしていたわけじゃないと思っていたのに、そうでもなかったのかな。あいつらには腹に据えかねることがあったのかもしれない。最初は些細なことだし、オレは気にもしなかった。言っちゃあなんだが、こいつらに負けるわけないし、相手にすることもないと思ってた。そういうところかな、嫌われたのは。
何やってもオレが動じないもんだから、あいつらもエスカレートしちゃって、高校生に兄貴のいた奴が、兄ちゃんの仲間を連れてオレをボコりに来た。いくらガタイのいいオレだって、高校生はキツイよ。しかも五人も連れてきた。
あー、これが因果応報ってやつ? まあいいや、やれるだけ抵抗するか。てな感じで頑張ってたんだけど、やっぱり敵わない。諦めかけたときに、驚くことが起きた。瞬弥がやってきた。そして、あの端正な顔に怒りをいっぱい詰め込んで、高校生に挑んできたんだ。
『何やってんだよ。おまえには関係ないだろ』
オレは既に誰だかわからないくらい腫れた顔でそう言った。でも、あいつは爽やかな笑顔で、『おまえに関係なくても俺にはある』。とか言って加勢してくれた。あいつの綺麗な顔が殴られるのを見て、オレはしぼんでた気持ちが一気に膨れ上がった。体中に力が漲って、オレはまた高校生に立ち向かっていった。
と言っても、所詮は小学生。そんな簡単にはいかなかった。最後は大人が駆け付けて、ようやく収束。オレ達は仲良く救急車に乗せられた。
「どうしておまえ、来たんだよ。イケメンが台無しじゃないか」
サイレンが鳴り響く救急車の中でオレらは並んで座ってた。目の前に呆れ顔の救急隊員がいたけど、オレは我慢できなくてヤツにそう言った。そしたら、瞬弥は腫れた瞼を無理やり上げて笑った。
「ずっと、おまえが連中にいじめられるのを見てた。断っておくが、あいつらは俺の友達でもなんでもない。勝手にくっついてきただけだ。でも、それが原因だったんだと思う。奴らは俺に認められたくて、おまえを屈服させようとしたんだろう。俺はおまえが奴らに負けるわけないとわかってたから放っておいたんだ。それが、高校生まで呼んでやらせるとは。悪かった」
そう言って頭を下げてきた。消毒液の匂いが充満する車の中で、あいつの髪からはシャンプーの良い匂いがしてきた。なんかもう、それだけでこいつには敵わないって思った。自分では否定してたけど、オレは瞬弥のこと、憧れていたんだと思う。でもそれを素直に認められなくて。
何でも出来る奴、どうせ勝てない、住む世界が違うって斜に構えて見ないふりしてたんだ。本当は友達になりたかった。たとえ住む世界が違っても、競い合ったり、ふざけあったりしたかったのに。そんなオレをおまえは気にかけてくれてたんだな。
「頭上げろよ。ありがとな。オレ、嬉しかったよ。もう諦めてたから。一人で戦うって結構きついな」
「これからは、一人にさせない」
なんだかその言葉に、オレは不覚にも胸がきゅんとしてしまった。あいつの顔は腫れあがってあんパンみたいだったのに、ときめいてしまった。小学生にはその気持ちが何なのかわからなかったけど、オレはその時誓った。どんなことがあってもこいつを傷つける奴は許さない。俺が守ってみせるって。