第46話 友離れ
表門にも、裏門にも、よく考えたら防犯カメラがついていて、結局オレがここに戻っていることはそのうちバレるだろう。何事かが起こらない限りこのカメラを調べることはないので、すぐ見つかる恐れはないけれど。
せめてその時間を伸ばし足搔きたいオレは、航に頼んでカメラに写らないようにして自室まで入ることにした。離れというのはそう言う意味では便利だ。短期間なら隠れ住むことも可能だろう。兄貴たちに見つかると、ちょっと面倒ではあるが。
食事は途中で買ったコンビニ弁当。だけどこういうのも久しぶりだ。その味は何だか懐かしくすらある。部屋のソファーにゆったりと腰を下ろし、十日ぶりに見るニュースを流しながらオレは唐揚げ弁当を腹に収めた。
――――私のライバルは樹さんだけですから。
円佳さんにそう言われ、オレはだらしなく口を開けたままで固まってしまった。その時はなんて返したらいいのかわからなくて。『いや、ちょっと何言ってるかわからない』。なんて、らしくないギャグで済ました。
でも、お腹がいっぱいになったところで考えてみたら、確かにそうかな、とか思う。瞬弥は今でも彼女と会うより、オレと遊んだり、オレの試合見に来たりすることを優先していた。友達と遊ぶ方が楽しいっていう、どこかそんなガキみたいなところがあって。もしかすると、オレに彼女がいないから気を使っていたのかもしれないな。
円佳さんとの初対面の時も、『男同士の話があるから』なんて言って、追い出してたし。あれは緊急事態だったから仕方ないけど。
要するにオレに彼女ができれば、変わるってことかな。いや、その前にいつまでも瞬弥に遊んでもらってる体ではいかん! 彼女ができようができまいが、友離れしなければ。
――――でも、もう少し、いいかな。せめて高校生の間は、友情優先じゃ駄目かな……。
「樹兄さん、試作品が出来たよ!」
オレがろくに見もしていないテレビの前でぼーっとしていると、双子が扉で重なり合っている。別にどちらから入ってもいいのに、なんで二人一緒に入ろうとするんだろう。
「お! 早いな。見せてくれ」
だが、試作品が出来たとなれば、そんなことはどうでもいい。二人は扉をガタガタ言わせながら入り、テーブルに粉の入ったガラス瓶を置いた。百均で売っているような、キャンディーなんかを入れるスクリューキャップが付いたやつだ。そこに結構な量の粉が入っている。
「随分作ったんだな」
オレが戻ってから二日しか経っていない。その間に既に何らかのものを作っていたとはいえやはり仕事が早い。
「自信作だからね。多分これで大丈夫。例のハーブの香りについても、専門のお店に行って探してきた。これ、どう?」
そう言って取り出した枯草みたいなのを、航はオレの顔の前に差し出した。
「あ!」
マジか! この匂いだ! なんで……。
「なんでわかったんだ!?」
オレの驚いた顔に二人は満足そうな笑みを浮かべた。口角を左右均等に上げ、してやったりと言った顔を見合わせている。
「兄さんからもらった粉にもほんのり匂ったんだよ。で、ハーブの専門店で同じものを探したんだ。南アジア特産だっていうのが決め手になってね! 後はその植物の構成する……」
「あ、その後はいい。聞いてもわかんないから」
得意そうに語る翔の話を聞いてやりたい気もしたが、長くなるのは容易にわかった。オレは早く確かめたかった。
「じゃあ、僕たち自分の部屋にいるから」
「了解!」
またガタガタと扉を鳴らして二人が去って行く。同時に扉から出入りするのはデフォルトになってんのかな。まあ、いいや。
――――緊張するな。瞬間移動みたいなもんだよ。SFなんかでは、時空に挟まって体が細切れになるとかあるけど。
オレはペットボトルのお茶を一口ごくりと音をさせて飲む。緊張と不安を共に飲み下すように。
「よし、行くぞ」
アルジュナがやっていたように、スプーン一杯分くらいの粉を皿の上に取り分けた。
――――うまく行きますように。
心臓がどくどくとオレの身体中で鳴り響いている。オレは火で炙り、翔と航の姿を頭に思い浮かべる。ハーブの燻したような匂いが立ってくると同時に目の前が暗闇に閉ざされた。
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「俺と親友の前世が英雄でイケメンだった件~」は
本日年内最後の更新となります(12月27日)。
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それでは、また新年お会いしましょう。
皆様良いお年をお迎えください。
緋桜流