第44話 新たな希望
翔はパソコンやネットはもちろん、化学にも強い。早い話が高IQの持ち主なんだ。我が五兄弟では、長兄の悠里と翔がそっち系。他の三人(次兄の春真、オレ、航)が武道系なんだよな。別に分業してるわけじゃないけど、何故かそうなってる。
ヤツは自前の機械で、この粉の成分を分析したらしい。マジかよ。双子が言うことは信じるけど、何がどうなってるのかは理解不能。まあもう、そこは信じたからには、どうでもいいかと思う。
「それで! もうこれ使えるのか? おまえたち、もちろんこれの用途、わかってるんだよな?」
オレは急く心を抑えることができず、二人の襟首を掴まんばかりに迫った。目の前には、何度も目にした『時渡りの粉』と同じに見えるものが置かれている。
「それが……。航が何度もトライしてくれたんだけど……」
オレは絶句した。こんなわけのわからないもの、というか、もし本当に発動したらどんなことが起こるかわからないものを、実験したのか? いや、もちろん試してみないことにはわからないんだけど。
「おまえたち、そんな恐ろしいことを……。航、大丈夫なのか?」
翔の研究や不思議道具には、航のお試しあってのことだとは知っている。特に武器に関しては、航が使ってみて改良を積み重ねている。だからと言って、これはないだろう。
「大丈夫だよ。とりあえず、ほんの少しの移動からと思ってやってるんだけど、1ミリも動かないんだよね」
と、テヘペロしている。天使かよ……。その可愛さにのけ反りながらも、オレは考える。
「いいか、実験ならオレがやるから。一ミリも動かないには、何か理由があるな。成分以外の何かか、成分そのものに間違いがあるのか……。おまえたち、ここで何度もこの粉を炙ったのか?」
最後の一文、音にしたら、めっちゃ危険だな。これを誰かが聞いたら、警察に電話されそうだ。とか思いながら二人に問いかけた。
「うん、僕たちの部屋でやったら、家政婦さんにバレるから。ここを使ってた」
こいつら……。オレらの部屋には定期的に家政婦さんが掃除にくる。もちろん清掃のためだけど、オレらが真っ当な生活をしているかの検査でもある。留守にしているオレの部屋には、当然掃除は行われていなかった。
「変だな。じゃあ、あの独特な匂いが残っててもいいはずだが……。あ、そうだ。ちょっと待て」
この粉を炙るとき、いつもハーブを燻したような匂いがした。香草が焼かれる香ばしい匂いだ。それがないのは何かが足りないのだろう。
オレはまだ着替えていない服のポケットをひっくり返す。もしかして、少しでも『粉』が残っていないかと思ったのだ。最初にアルジュナから奪った時は、入れ物がなかったのでポケットに突っ込んでいたのだ。
「あった……。微量だけど……」
「樹兄さん、それ、炙る前の本物!?」
「そうだ。指に付着したぐらいだけど。役にたつかな?」
オレは、そう言うと、ティッシュを取って、指についた粉を落とした。
「兄さん、もう少し待ってて。きっと完成させてみせる! 兄さんはお医者さんにでも行ってきて!」
「え?」
それを見た双子は形の良い双眸を輝かせた。二人は慌てて立ち上がると部屋のドアの方へと走り出す。もう心ここにあらずだ。扉をガタガタ言わせて同時に出ようともがいている。
「おい! それはそうと、兄貴たちの部屋の盗聴器、外しておけよ!」
『はあい』という、聞いているのかいないのかわからない適当な返事を残し、奴らは出て行った。
「ふう……。本当に行けるだろうか。いや、今はそれを信じよう。絶対に、絶対に行ってみせる。待ってろよ、瞬弥。今度は絶対離れないからな!」
オレは一人残った自分の部屋で、誰にでもなく言葉にした。その言葉を自分の耳で聞き、決意を確かめるように。




