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第43話 美神ツインズ登場

 二人は何も聞かなかった。どうしてオレ一人なのか。向こうの世界でどうなったのか。オレの様子を見て察したのか、瞬弥のことも何一つ聞かなかった。


「こっちは相変わらずだよ。家出と言っても父さんたちも兄さんたちも全然慌ててないんだ。捜索願いも出してない。高校には休学願いが出してあるから、戻って来るんだと思ってるみたい」


 オレと瞬弥はここを旅立つ時、学校には休学届を出していた。キリのいいように年度内を期限として。オレ達の高校では、留学や海外渡航のために休学するヤツは普通にいるので、何の問題もなかった。

 弟たちが持って来てくれた缶コーヒを飲んで、オレは少し落ち着き、ようやく話ができるまでになった。

 アルジュナが言った『瞬弥は生きている』を今は信じることしかできそうにない。


「そうか。色々ありがとう」


 あれから、オレ達が古代に行ってから、まだ十日ほどしか経っていなかった。随分と濃い十日間だったな。あの日、瞬弥の家から過去へと渡ったのが、もう随分昔の話のような気がした。

 オレは妖怪のようになった左瞼に冷感シートを乗せる。冷たいが気持ちいい。体中が痛みで軋んでいる。ま、心の痛みよりは全然マシだけど。


「あれ? ところでおまえたち、ここで何をしていたんだ?」


 ふと思い、そう聞いた。ここはオレの部屋だ。それは間違いない。オレは別に物音を立てたわけでもないのに、何故二人はここにいるのだろう。大体、オレはおまえ達を目印に帰って来たはずだ。であれば、おまえたちがいる場所に戻って来たということだから……。


「あ、ええと、それは」


 航が少し、困った顔をして返答に詰まっている。


「ごめん、兄さん。僕たち実は……。研究してたの」


 二人がくっついてた体を少し離し、その後ろにあったものを見せた。そこにはオレの作業用テーブルがあり、その上には、燃えカスになった何かが置かれていた。


「これ! まさか……」


 それは、オレがアルジュナと共に瞬弥の家へと渡った、あの日の『時渡りの粉』の燃えカスだった。


「どうしてこれがここに? オレは片付けたはず……」


 瞬弥の実家に飛んだあと、オレは一度この部屋に戻って来た。瞬弥んちの運転手に送ってもらったのだ。

 で、古代に渡る準備にかかる。当然、テーブルの上に置きっぱなしになっていた燃えカスは片付けた。最初は捨てようかと思ったんだけど、なんだか貴重な気がして空き瓶に入れ、本棚に置いた、はずだ。

 今改めてその場所を見ると、何も置いてない。読み飽きた漫画本が乱雑に置かれているだけだ。


「どういうことか、説明してくれ」


 オレにはもう、兄としての威厳はなかったが(自分で勝手にそう思っているんだけど)、ここはきっちりしておきたかった。


「あの……」


 二人はほとんど同じ綺麗な顔を見合わせた。こういう時、弟たちはどう感じているんだろう? まるで鏡を見ているようなものだ。いや、それは失礼か。しかし、こんな間の抜けたオレの思考は一掃された。


「ごめんなさい!」


 ふわりとしたおかっぱ風の髪が二つ、オレの目の前で下げられた。そして、哀願するような目でオレを見ながら話したことは、驚愕の事実だった。




 二人はなんと、オレや兄貴たちの部屋に盗聴器とカメラを付けていたのだ。それを二人でしょっちゅう見ていたと!? プライバシーの侵害だ! てか、なんてことしやがる! 

 どうりでオレとアルジュナが戦ってたとき、すぐ駆け付けたわけだ。オレ達の部屋になってる蔵は、自然の防音効果があって、めったな音は聞こえない造りになっているのだ。


「おまえたち! そこに並んで座れ!」


 オレは足腰が相当痛んでいることも忘れ、立ち上がると二人に向かって怒鳴った。だが、すぐに激しい痛みがオレの脳幹を直撃した。同時に、オレにはこんなことを叱る資格もないんじゃないかと思えた。


「ごめんなさい!」


 二人声を揃えて、土下座の恰好になる。いや、そこじゃない。気付け、オレ、今大事なことはそこじゃない。


「いや、ごめん、今のオレには、おまえ達を叱る資格はないな……」

「そんな、兄さん……」

「それより、この粉を研究していたって? どういうことだ? 何かわかったのか?」


 オレは、燃えた粉に手を伸ばし、指で擦ってみた。灰というより、砂のような指ざわりだ。


「うん! 兄さん、翔は凄いんだよ!」


 許されたと思ったのか、研究について聞いたのが嬉しかったのか、双子は嬉々としてオレに顔を近づけ、キラキラの双眸×2を益々輝かして見ている。


「この粉の成分を解き明かしたんだよ。これで同じものが出来る!」

「え……。マジか、それ!? これと同じものが出来るって言うのか?」


 もう何もかもが終わったと、自暴自棄にすらなっていたオレに、それは神様の啓示に等しかった。

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