第2話 王子様と言われても
金色のカラコン付けたって、こんな輝きはないだろう。オレは落ち着いて、瞬弥の体から身を剥がした。男同士抱き合う趣味はない。いくら超絶イケメンであってもだ。そしてもう一度、マジマジと奴を見た。
「違う……。貴様、よく見たらアルジュナじゃないな。貴様は誰だ。英雄と呼ばれるアルジュナに化けるとは。あいつに似せて私をたばかるつもりか!」
オレが言う前にしゃべんなよ。しかも勝手に間違えておいて、この言い草。あいつに似せてとはどういう意味だ! 俺は誰かのパチモンじゃない!
「あんたこそ一体誰だよ! オレの瞬弥はどこ行った! あいつを返せ!」
オレの瞬弥というのは、『オレの友達の瞬弥』を略して言ってるのであしからず。オレは掴みかかる勢いでヤツに迫った。
「私はドヴァラカ国第一王子のクリシュナだ。瞬弥? はあ、そう言えば、何か聞こえていたな。うるさいハエのようだ」
クリシュナだとー?! え? そんな奴が出てくる格ゲーなかったっけ? オレはそういう系やんないけど、アルジュナとかいうのもゲーム好きの連中から聞いたことがある。なんだかおかしなことになってきた。瞬弥の体に何か悪いものが憑いてしまったのだろうか? 瞬弥も格ゲーはやらなかったと思うけど。
「瞬弥、目を覚ましてくれよ!」
「だから、そいつは誰かと……。待て。ここは一体どこだ? 私は確か、敵に追われてバルコニーから墜落したと思ったのだが……」
ようやく周りを見ることができたのか、瞬弥? は、立ち上がり周りを見回した。瞬弥のタワマンは、3LDKで、オレ達がいるのはただっ広いリビングだ。本革のソファーの前に大画面のモニターが壁に貼られている以外は何もなくシンプル。瞬弥は実家が遠いので一人でここに住んでいる。
金目は自分のことを王子と言ったが、今が昔なら、瞬弥もそんな感じ。大富豪のご子息であらせられる。金色の目をした瞬弥は、張り出した窓から外を眺めた。
「ここは塔か? なんとも不思議な。我らの母なる川が見えない代わりに、同じような塔がいくつも並んでいる……」
このままでは埒が明かない。オレは洗面所に行き、洗面器に水を一杯入れて奴に近づいた。そして思いっきり水をぶちまけてやった。
「何をするか!」
そう言って、腰のあたりに手をやった。
「む! 剣がない!」
駄目だ。戻ってない。ほら、水をかけると変わるかな? って思ったんだよ……。オレは一か八か、金色の目をしたヤツに近づくと、頬を一発張ってやった。奴はオレより五センチ背が高い。でもそんなの誤差範囲だ。オレは両足を床に踏ん張って、思い切りいった。風船が割れたみたいな破裂音、濡れた髪から水しぶきが散った。
「な! ……」
クリシュナと名乗った瞬弥は、張られた頬を左手で覆う。みるみるうちにそこは真っ赤に晴れ上がり、オレの手形がくっきりと痕をつけた。
「樹! やった、声が出せてる! 戻れた!」
「瞬弥? 瞬弥なのか?」
オレはまたハグされた。
幡ヶ谷誓様から頂きました!
主人公二人。左・樹、右・瞬弥です!
ありがとうございます!