第25話 水浴び
サービス回と言えなくもない。
額に焼けつくような痛みを感じた。熱と眩しさ。オレは目を開けようとするが、直射日光が瞳を直撃して、すぐにまた瞑った。朝がきたようだ。
「あっつ!」
額に手を翳し、体をずらす。この地の太陽は朝といっても容赦ないようだ。慌てて影になっているところにオレは身を隠した。
「起きたか。そろそろ起こそうとは思っていたが。クリシュナ達は水浴びに行ったぞ」
オレがもそもそしているのに気が付いたアルジュナが言った。既に水浴びを済ませたのか、ダビデ像みたいな体に浮かぶ水滴を手拭で拭いている。きらきら光ってこれもまた眩しい。
「気持ちよさそうだな」
「ああ、スッキリする。貴様も行ってこい。すぐ出発する」
オレ達にどれほどの時間があるのかわからない。本来なら夜明け前に出発したいところだったろう。オレのせいかな? まさかね。必要なら有無も言わさず起こすだろう。
「じゃあ、急いで行ってくる」
陽はまだ昇ったところだ。平地だと真っ昼間に動くのは得策じゃないけど、ここでは木陰がオレ達を守ってくれる。昼間の行軍も問題ない。でも、これからさらに道は山に向かって険しくなるのだろう。蛇王の夫婦はどこにいるのやら。
「お! 樹、来たか」
川には、全裸のクリシュナがいた。いつも通りの綺麗な肉体をこれ見よがしに晒しているが、瞳は黄金なので中身はヤツの方だ。
オレは少し安堵する。瞬弥だと、またアホなやり取りに翻弄されかねない。オレは焦点をぼかし気味にして川に足を入れた。
「冷た! これだけ流れが速いと水も冷たいんだな」
南国リゾートの海を想像していたオレは、それを裏切る冷たさに思わず体を捩らせる。
「足を滑らせないように気を付けろ。流されたらことだ。この辺はゆるやかになっているから来るがいい」
見ると、クリシュナがいる周辺は、大きな岩に遮られて水の流れを抑えている。深さも腰下くらいなので、丁度良さそうだ。
「サンキュー」
川に入るのだから、当然全裸だ。男同士だし、恥ずかしがることもないだろう。なんだけど、どうしてこう、見てるのかね。
「王子様、失礼ながら愚息は貧相ですので、お目汚しと思います」
ちょっと憮然としながら言ってやった。さすがにマズいと思ったのか、クリシュナは視線を外してくれた。
「あ、いや、すまない。そう卑下することもな……。痛て!」
自分で自分の足でも踏んだのか、よろけている。何やってんだか、この人は。オレはお構いなく、持っていたタオルで水をすくい、体を拭き始めた。
「うおお、気持ちいい!」
冷たさに慣れると、心底爽快に感じた。岩で砕ける水しぶきが時々顔にかかり、それもまたいい。気持ちもリフレッシュできるし、今日も一日頑張れるというもんだ。
「おおい! 三人ともいつまで水遊びをしている! もう出発するぞ!」
川岸からすっかり身支度を済ませたアルジュナが叫ぶ。ちゃんと三人と呼んでくれたことが、オレは素直に嬉しかった。
それからまた丸一日を歩き、野営して、朝を迎えた。途中で見つけた獣を狩ったりもしたが、予定通りの距離を歩けているようだ。目的の場所まで、もう少しだとアルジュナが言った。
「私たちがここまで来ていることを気取られたくない。用心して進もう」
アルジュナがやや緊張した面持ちでオレ達に告げる。いよいよだ。どうかクリシュナの身体がここにありますように。そして無事奪還できますように。
心の中で何度も念じながらオレは足を運ぶ。川幅が目に見えて狭くなり、豪壮な音が聞こえてきた。それは絶え間なく、山の樹々を震わせるように響いている。
視界が開けた先にあったのは、落差三十メートルはあるか、一本の滝。水煙を上げて滝つぼに次々と水を落としている。そこだけは小さな湖のように透き通った碧色の水を湛え、滝を中心に円を描いていた。
「目的の場所に着いた。この滝の裏に、奴らの住む洞窟がある」
アルジュナの言葉に力が入る。オレは右手の拳を握りしめていた。
ノベプラの更新に追いつきましたので、
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