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第21話 襲来

 オレ達は背に武器と荷物を担いで森の中を走った。わざとなのかおよそ道とは言えない、大樹が行く手を阻み、下草を踏みながらの逃避行だ。いつ敵が来てもいいように準備はしていたが、まさか戦わずして逃げるとは思わなかった。それほどヤバイんだろうか。

 でも、先頭を行くアルジュナに聞く余裕もない。オレは瞬弥の背中と自分の背後を同時に気にしながら先を急いだ。


 ――――来た!


 オレは背中に殺気を感じた。


「アルジュ……!」


 みなまで言う時間はなかった。三人ともが一瞬で左右に跳んだ。オレ達が歩いていた場所に数本の槍が土に刺さる。間一髪だ。

 オレ達は樹々の影からお互いの位置を確認する。そして槍とともに現れた敵の影が視界に入るや否や動いた。


「瞬弥!」


 オレは瞬弥を庇うように立ち、弟達からもらった弓で現れた敵に矢を放った。矢を番う時間が短いのに、弾け飛ぶ瞬発力が高い。遠距離には使えないが、至近距離での攻撃に有効だ。この辺りは樹々の間隔も広く、視界が開けている。弓矢でも十分戦えそうだ。

 目の前ではアルジュナが珍しく剣で敵を薙ぎ払っている。奴らは瞬弥の屋敷に襲ってきた連中と同じアスラ族だ。戦闘民族さながらの険しい顔つきと俊敏な動きで次から次へとオレ達の前に現れる。


 魔族であるアスラ族は戦いで死ぬことはない。だから怖れもなくむかってくる厄介な相手だ。神とのハーフのアルジュナですら死は訪れる。ましてやオレや瞬弥は普通の人間なんだから不公平極まりないよな。

 そんな瞬弥はクリシュナ愛用のチャクラで敵を翻弄している。投げてもブーメランのように戻って来るので使い勝手が良さそうだ。


 アルジュナが言うには、アスラ族をこてんぱんに伸すことが彼らの戦意を喪失させる最も有効な手段らしい。つまり、やられた相手とは戦おうとしないということだ。


「樹! 気を付けろ!」


 アルジュナが叫ぶ。新手か!? 耳で危険を捉えた刹那、目の前に壁ができた。そう思った。

 突然影を作ったそいつがどこから来たのか、全く見えなかった。


「なに!?」


 オレは咄嗟に矢を番おうとするが、間に合わない。そいつは大きな体に似合わず素早い動きで得物、多分剣をオレに振り落としてきた。


「樹! 危ない!」


 瞬弥の声が耳に飛び込む。と、同時にあいつのチャクラが巨体のアスラの眼前を飛ぶ、そいつは体を捩じってチャクラを避けた。

 

 ――――今だ!

 

 オレは腰を低くしてヤツに突進した。


「ウゲ!」


 堅そうな腹に肩から当たる。もうアルジュナと何度もやった型だ。確かに堅い腹筋だが、オレも以前のオレじゃない。手応えあり! そして素早く抜いた短剣で腿を突き刺した。


「ウグググ!」


 アスラの戦士が呻く声を聞きながら、オレは後ろに跳び退いた。案の定、怒りに任せたヤツの剣がオレに向かって落とされようとしている。それを間一髪で防ぎながら、矢を番う。


「あ!」


 だが矢を放つ必要はなかった。アスラの巨漢は、剣を上段に構えたまま、地面にうっ伏した。


「アルジュナ!」


 その後ろに大弓を構えたアルジュナの姿があった。茶髪を止める金のカチューシャがきらりと光る。アスラの戦士の背中にはヤツが放った鉄の矢が突き刺さっていた。


「大丈夫か? そいつはアスラ族の歴戦の戦士だ。よく耐えたな」

「なんだよ。留めはオレが刺そうと思ったのに」


 負け惜しみでもなく、オレはそう言った。周りを見ると、既に動いている敵の姿はなく、奴らの襲来を防げたようだった。


「生意気言うな。おまえの矢では凌げなかった。まあよい。とにかくこのまま急ぐぞ」


 笑いもせず、アルジュナが背を向けた。なんだか釈然としないけど、そういうことにしておくか。


「いや、樹は凄かったよ。修練の賜物だな」


 と、瞬弥が笑顔を向け、オレの肩を二度ほど軽く叩いた。オレもヤツに笑顔を返す。確かに命の危険があると言うのに、随分気持ちに余裕を持って戦えた気がする。トラにビビッてた時から少しは成長したかな。

 まあ、それもこれもアルジュナの存在と瞬弥を守りたい気持ちがあってこそだ。


「ところで、アルジュナ。我らはどこに向かっているのだ?」


 今のはクリシュナが急ぐ背中に問いかけた。そうだ。オレ達は逃げてきたんじゃないのか? もうあの狩猟小屋には戻れないのか? 確かに脱出する時、野宿できる用の荷物は持って来ているが。


「情報が入ったんだ」


 アルジュナは背を向けたまま言った。足を決して止めず、背まである草を掻き分けて進んでいく。


「なんの?」


 オレは跳ね返る草をまた掻き分けながら聞いた。


「もちろん、クリシュナの身体を持っている奴のだ。私たちは、今、そいつの根城に向かっている」


 オレと瞬弥は一瞬立ち止まり、顔を見合わせる。願ってもない展開だった。

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