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第14話 持ち去られた体

 

 アルジュナにも奥さんはいるらしい。今のところ二人? この時代では、奥さんの数に限りはないらしい。因みに女性の方も旦那さんが一人じゃなくてもいいらしい。公平っちゃ公平だけど、節操ないよな。 

 

 ところで、オレ達はこのクリシュナの別宅に入ることはできなかった。それは、ヤツがこの世界に生きて戻って来ていることを知られないためだ。知られたら最後、雨後の筍のように敵が沸いてくる。というのがアルジュナの言。

 もちろんオレや瞬弥は納得したが、クリシュナは最後まで異議を唱えていた。折角戻って来たのだから、奥さんたちとよろしくやりたい。その気持ちはわからんでもないけど、王子様は自分勝手なヤツだ。


 そう言えば、奥様達は瞬弥を何の疑いもなくクリシュナと認識していたな。もちろん、その時は瞬弥は引っ込んでたんだけど、そういうの敏感に表情とかに出るのかもな。確かにクリシュナが表に出てるときは、雰囲気変わる。




「で、こんなあばら家で寝ろと言うのか?」

 

 オレらの世界でいい生活したせいか知らんが、クリシュナはまだ文句を言っている。アルジュナがオレ達を連れてやってきたのは、彼の家族が使っている狩猟小屋だ。城下町隣に広がる森、(ていうか、ジャングル)には、狩るに相応しい獣がたくさんいるらしい。

 小屋には仮眠できる寝床がいくつかあり、狩ってきた獣を料理する台所みたいなのもあった。オレからしてみれば、結構立派な山小屋だ。そして何と言っても、ここには弓や槍といった武器が壁にずらりと並べられている。オレはついつい目を奪われてしまった。


「この弓は大型の獣を獲る時に使う」


 オレが食い入るように見ていたのに気が付いたアルジュナが説明してくれた。オレは手に取って引いてみるが、これがもう重い。矢もでかくて、これなら虎もやっつけられるよなと感心する。


「これは何だ?」


 いつの間にか瞬弥が隣に来ていた。どうやらクリシュナは不貞腐れて引っ込んでしまったらしい。


「お、流石だな。これに気が付いたか」


 瞬弥が手に取ったのは、円盤型の武器だった。一カ所に持ち手があるが、そこ以外は鋭い刃が取り囲んでいる。


「これはチャクラ。クリシュナの得意武器だ。あいつはぶつくさ文句を言っているが、ここにはよく来ているのだ。いつも上機嫌でな。ここはヤツのお気に入りの場所だ」


 アルジュナは目配せをしながらそう教えてくれた。




 例の別宅でラーダから聞いた話は、正直収穫というほどのものはなかった。彼女はクリシュナがバルコニーから落ちてすぐ、下を見たという。


「その時、確かにクリシュナ様の体が地面に横たわっているのを見たのです。私は心臓が止まりそうになって!」


 そう言う彼女の黒目がちな双眸には涙が溜まっている。クリシュナはすかさず彼女を抱き寄せた。


「それで?」


 だがアルジュナは容赦なくその後を促す。


「でも、次の瞬間、消えました」

「消えた!? どういうことだ」

「はい。私もよくわからなくて。でも、あまりに驚いてほんの少し目を瞑ったんです。だからその間に、きっと立ち上がってお逃げになったのだと思いました。その後すぐ、アスラたちが下に降りてクリシュナ様を探していました。私は、だからきっとクリシュナ様は生きておられるのだと。まさか、身体と心が分離してしまっているなど、思いもしませんでした」


 ラーダはそう言って、クリシュナの顔を見た。ラーダの瞳には、クリシュナが宿った瞬弥はどう写っているのだろう。ただ、彼女を金色の瞳に映す彼の表情は、憂愁の王子そのものだった。




 瞬きの間。文字通り一瞬の間に、誰かがクリシュナの身体を持って行った。魂は時を超え、抜け殻になった体は地面に打ち付けられたが、一瞬のうちに消えてしまったのだ。


「だけど、これで体はこの世界にまだあるってことがわかったじゃないか」


 オレの言葉にアルジュナは小声で答えた。小声なのは、クリシュナに聞かれたくなかったんだろう。


「いや、それは楽観的な考え方だな。クリシュナが死んだと見て秘密裏に処分したかもしれん」

「処分……。冗談じゃない。おい、魂が抜けた体って、死んでるのかな? 息してるとか心臓が動いてたりしないかな?」


 心がなくなっても、身体の機能は動いているかもしれない。そうであれば、少なくとも味方なら処分することはないんじゃないか? もし敵の手に落ちていたなら、さっさと殺して、それを公にするだろう?


「なるほど、それは考えてもみなかったな。運が良ければ味方が身体を持っていて、クリシュナが目を覚ますのを待っているかもしれない」

「そうだよ!」


 と、これが今現在まで、オレとアルジュナで交わされた会話だ。その希望的観測を以って、一旦考察は終わった。


「味方のところにあるか、私の家族に調べさせよう。樹、貴様はいつものメニューをこなしておけ。それが済んだら、狩りに出かけるぞ」


 狩り!? 怖いと思いながら、オレはわくわくするのを体全体で感じた。ゲームでもVRでもない。リアルな狩り!? しかも道具は弓矢だろう! これが興奮せずにおれるか!?

 オレは日課のメニューをいつも以上のハイペースでこなした。



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