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第10話 時を越えた再会

 クリシュナは瞬弥の中にいるからなのか、アルジュナは目印を探せなかった。『時渡りの粉』を火で炙り(知らない人が見たら、怪しい行為にしか見えない)、ヤツに言われるままオレは瞬弥の気配を探った。


 ――――いた!


 それはすぐに見つけられ、オレ達はそこに向かって飛んだ。ホントに瞬間移動している! オレはめちゃくちゃ驚いた。


「瞬弥!」「クリシュナ!」


 時空の狭間から放り出されたオレ達は、同時に親友の名を呼ぶ。しかし、その眼前に現れたのは……。


「きゃああ!」

「おい! 何事だ!?」


 お楽しみ最中の瞬弥の姿だった……。




「婚約者の円佳(まどか)だ。こいつは樹。で、こっちは……。おまえの兄貴?」

「アルジュナと申す。樹の兄貴ではない。ぜん……」

「ああ、いいから、よろしく、円佳さん。こんな初対面でごめんね」


 とにかくまだ服を着ていてくれて良かった。オレは瞬弥の婚約者に挨拶をする。彼女はセミロングの髪を肩で跳ねさせ、アイドル顔負けの可愛らしい笑顔を向けてくれた。


「いえ、お噂は聞いております。以後お見知りおきください」


 身長はそれほど高くないけれど、均整の取れた雑誌モデルと言った感じか。多分高校生だろう。今まで大学生や社会人だった瞬弥の彼女とは確実に一線を画していた。好奇心旺盛な双眸をオレやアルジュナに向けている。胸も……、大きいな。


「悪いな、円佳。部屋に戻ってくれるか。男同士の話があるんだ」

「わかりました。じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」「おやすみなさい」


 瞬弥の男前な笑顔の隣で、オレは間の抜けた表情で彼女を見送った。仕方ないだろ。とんだお邪魔虫になったわけだし。


「婚約者には興味なかったんじゃないのか? 相変わらず手が早いな」


 オレは照れ隠しもあったが、ついこんなことを瞬弥に言ってしまった。瞬弥のこういう現場は初めてじゃなかったけど、何となく居心地が悪かった。


「まだ何もやってねえ。相手は高校生だからな。てか、何の騒ぎだよ」

「そうだよ! おまえが『助けてくれ!』ってメッセージよこすから」

「はあ?! ああー。おまえ、それ通知画面しか見てないんだろう。しっかり読めよ」

「え……」


 天を仰ぐような仕草をする瞬弥。オレは慌ててスマホを取り出し、メッセージを改めて見てみると。


『助けてくれ! 婚約者の女はまだ高校一年生だと!? オレは彼女が成人してから会わせてくれって言ってたのに、親父と来たら。おまえ、なんか理由つけて俺を呼びだしてくれないか? クリシュナもいるし。な?』


 そして瞬弥からの連絡はもう一つあった。


『やっぱ大丈夫だ。意外に可愛いし、頭も良さそうだ。こっちで適当にやるから。悪かったな』


 色々思う所はあったが、結局はオレの早とちりらしい。アルジュナがオレを見て睨んでいる。


「え……と」

「まあいいや。中でうるさいのが一人いるから、交代する」


 オレが言い及んでいるのを見かねたのか、瞬弥がいきなりそう言った。


「交代?」


 そう言うが早いか、瞬弥が動いた。正確に言うと、瞬弥の体をクリシュナが動かした。


「アルジュナ! やはり来てくれたのだな!」

「クリシュナ! 無事でよかった!」


 二人は固い身体をぶつけるように抱き合った。ガシって音がして、まるでぶつかり稽古みたいだ。しかし、無事でよかったと言ったが、正直そこは違うだろ。と心の中で突っ込んでみる。二人は泣かんばかりの勢いだ。その姿にオレは心配になった。もしかしてこいつら、親友以上の関係じゃないだろうな? いつまで抱擁してるんだ? 


「おい……」


 しかし、オレの心配は杞憂に終わった。二人は体を離して、肩を叩き合いながら再会を喜んでいる。


「まあ、会えたからいいか。いや、良くないか」


 二人の様子を見ながらオレは考える。こいつらのことは用心しないと。本当にこのまま瞬弥の体を奪われてしまいかねない。あの薬、何とかしてオレが持っていたいな。


 オレ達が飛んできたのは、瞬弥の部屋だ。部屋と言っても、バストイレ付き、タワマンのリビング同様、二十畳は優にある広い部屋だ。さっきあいつは円佳さんとベッドの脇に座っていた。キングサイズのベッドな。

 まさか親がいるのにことに及ぶつもりはなかったかもだが、瞬弥のことだからわかったもんじゃない。相手は高校生って、おまえだって高校生だろ。オレは疲れを感じ、そのベッドに座り込んだ。


 ここには滅多に帰ってこないからか、荷物は少ない。パソコン用のデスクとでかい本棚があるほかには、飛び石のように置かれた丸いクッションだけだ。ようやく気が済んだのか、アルジュナ達がオレに声をかけた。


「樹、貴様の言う通り、クリシュナの身体を探すのが先決のようだな」

「瞬弥とも話をしていたのだ。私は自分の意志で魂だけになったわけではない。もしかすると、バルコニーから落ちた時、誰かに術をかけられたのかもしれん」


 金色の瞳のクリシュナが続けた。オレは首肯する。誰か……。クリシュナやアルジュナには心当たりはあるのだろうか。その、『誰か』に。


「クリシュナ、ちょっと瞬弥と話がしたい。出してくれよ」

「樹、どうした? 俺ならもういる。アルジュナの話を聞いていたからな」


 え? 簡単だな! そんなホイホイ変えられるの? オレは呆気に取られ、何か言おうとしたその時だった。鈍い音とその直後に耳をつんざく破壊音がした。


「何!?」


 アルジュナがまずそれに気付いた。部屋の掃き出し窓が割れ、そこから黒い影が幾つも侵入してきた。オレが身構えるより早く、アルジュナは影に向かって跳んだ。敵の襲来だった。




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