第9話 暗殺を目論む王
更新再開!(11/30)
魔族と人間の間に生まれたカンサ王は、悪行の限りを尽くす所謂悪王であった。苦しむ国民の姿を憂慮した神々は、ヴィシュヌ神の化身としてクリシュナを人間界に誕生させ、カンサ王を殺させることとした。
だが、それを魔族からの進言でいち早く知ったカンサは、逆にクリシュナの命を狙うようになった。実際、彼と思われる赤ん坊や子供を殺し回ったと言う。
酷い奴だな。これが今、クリシュナを狙う敵対勢力だとアルジュナが教えてくれた。
「カンサは彼ら魔族の戦士、アスラ族をクリシュナ暗殺に寄越しているのだ。奴らは当然手練れの戦士ばかりだし、死ぬことすら恐れない」
「なんだよ。さっさとカンサとか言うの、殺せばいいじゃないか。神様からの命令なら簡単じゃないのかよ」
「神々の命と申しても、その姿を見た者がいるわけではない。全ては神仙から告げられたこと。それに魔族にも神はいるし、全ての神が善神ではない。第一時がまだ満ちていない」
そうか、なるほどね。日本の神様も、確かにみんながみんな人間を助けてくれるわけでもない。万能でもない。カンサ王側にも神様がバックにいるってことか? にしても、その『神仙』ての。やっぱり胡散臭い。
カンサ王はつい最近まで、クリシュナが自分を殺す命を受けた者とは知らなかった。子供の頃にとっくに殺したと思っていたようだ。でもなぜかそれに気付いたため、城にアスラたちを向かわせたということだ。急襲に慌てたクリシュナは、オレ達の世界に来てしまった……。
「私は神仙から、元の世界に戻る道具をもらってきた。これでクリシュナを連れ帰るつもりだったのだ。だが、身体がなくては! 一体どうすれば……」
アルジュナがオレの目の前で悶絶している。オレだって同じだ。じゃあ、瞬弥はずっとクリシュナを抱えたまま生きるのか? 冗談じゃない。いや、もっと恐ろしいのは、瞬弥の存在を消されることだ。
アルジュナはそのことにまだ気付いていないのか、気付かないふりをしているのかはわからない。でも、その可能性は否定できないんだ。あいつの精神を破壊して、瞬弥の体のままクリシュナを連れて帰る。それが今、オレが一番恐れるシナリオだ。
「クリシュナの体を探そう。それしかない」
オレは、頭を抱え込むアルジュナにそう言った。ヤツは動きを止めオレを見上げる。
「探す? どうやって? どこにそんな手掛かりがあるというのだ」
アルジュナは背を起こした。少しは落ち着いたのか、声のトーンが変化していた。
「まずはクリシュナによく話を聞こう。ヒントが隠されているかもしれない」
オレに仮説がなかったわけではない。だが、まずはクリシュナに聞くのが先だ。瞬弥にもアルジュナが追ってきたことを伝えたい。
「そうだな。私も早くクリシュナに会って話がしたい。樹、あいつの居所は知っているのだろう? 今すぐ行きたいのだが」
「無理だよ。今、瞬弥は八王子の向こうにいるんだ。車でも二時間はかかるよ」
「だが、こうしている内にもカンサの手の者があいつを追ってそうで……」
瞬弥の実家はそもそも警備が半端ない。有名旅館並みの豪邸の回りには、それこそ要塞みたいな有刺鉄線入りの塀が張り巡らされている。加えて腕に覚えのある人たちがウロウロしているのだ。普通の相手ならオレも心配しないのだが。未知の世界の魔族とか言われると、さすがに心配になってきた。
「何か方法はないのかよ。アルジュナは魔法とかつかえねえの?」
「私は武闘家だ。魔術などというものは好かん。魔術を使うものを疎かには思わんが。……そうだな。この薬があれば、可能だ」
アルジュナは腰に取り付けた袋を取り出した。中に小さな瓶が入っている。
「なにそれ?」
「これは神仙から頂いたものだ。『時渡りの粉』という。これを使えば、時空を渡ることができるのだ。これでクリシュナを連れて戻るつもりだったのだが」
「じゃあ、駄目じゃないか」
「いや、多分五回くらいは使えるはずだ。今から一回目を使おう」
五回しか使えないのに、ここで使っていいんだろうか? オレはちょっと迷う。アルジュナは体も心も強いけれど、もしかして頭はイマイチなんじゃ(失礼なやつ)。と、オレは思案するが、そんな思念は一瞬にして吹き飛んだ。
オレのスマホがバイブした。道場の端に置いてあったので、オレも存在を忘れていたくらいだ。アルジュナは何事かと驚いた顔をしている。
「ヤバイ! アルジュナ、すぐに行くぞ!」
瞬弥からのメッセージがディスプレイに踊っていた。
――――助けてくれ!
☆☆☆
幡ヶ谷誓様よりいただいたFAです!
左)樹
右)瞬弥
ありがとうございます!