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序章
眼下に揺蕩う大河を臨む丘。そこに聳える白い宮殿に、世に名を知らしめる美しい王子が住んでいた。
眉目秀麗な顔立ちとしなやかな肢体を持つ彼は、今バルコニーに立ち、横笛を吹いている。美しい音色が奏でられ、天蓋のベッドにいる美女を酔わせていた。
だが、その甘美なひとときは突如起こった喧騒により断ち切られた。
「何事だ!」
王子が一喝するが、部屋に押し入った賊は、聞き入れるはずもない。美女が絹を引き裂くような声を上げるのを合図に一斉に攻撃を仕掛けた。武芸に秀でた王子であったが、多勢に無勢。しかも美女を背に庇いながらの戦いはいささか分が悪かった。
バルコニーまで追い詰められたその時、勢い余って手すりを越えてしまう。
「クリシュナ様!」
美女が自分の名を呼ぶ声が聞こえる。王子の部屋は地階より数十メートル。それでも彼は受け身を取ろうと丸くなる。だが、彼が着地した場所は、思いもよらないところだった。
本作の主人公二人 瞬弥・左、樹・右
イラスト@白玉ぜんざい様
ロゴ@草食動物様
ありがとうございます。