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099 何より大切なプロポーズ

 

「到着したね~」

「ああ」


 修学旅行へ行く前からここへ行こうと約束していた場所。

 そこは縁結びで有名な神社だった。


 何というか……そろそろ意思を疎通し、今後のことについて話し合いたいと思っていた。


 時刻的にもここで少し過ごして戻らないといけない。

 時間は限られているのだ。


 鳥居を抜け、手を繋いで参道を上がっていく。

 この神社は男女手を繋いだまま参道を上がって境内まで行き、2人でお参りをすれば結ばれる。

 そのような言い伝えがあるのだ。


 俺と美月のゴールは交際ではない。

 美月と結婚してこそゴールと言えるだろう。

 神頼みなどせず自分の力で守り抜くことが大事だが、でもこうやって好きな女の子と一緒にお祈りするのも大切だと思う。


「段差を気をつけろよ」

「うん、大丈夫」


 美月をしっかりエスコートして拝殿の所まで到着した。

 やはり平日なので人は多くない。


 賽銭箱にお金を入れて、美月と一緒に 二礼二拍手一礼を行う。

 お祈りの内容は美月といつまでも一緒にいることだ。


「太一くんは何て祈ったの?」

「……。当ててみてくれよ」


「えっ、じゃあ……その……」


 美月は顔を紅くしてじっと俺の顔を見つめる。

 そうそう、そんな顔が見たいんだよ。かわいいなぁ、まったく。


「私と一緒に……いてくれるってこと?」

「ああ、その通りだ」


 不安な表情を浮かべていた美月は一変して綻ばせる。

 違うって言われたらと思うとそんな顔をしてしまうよな。

 ちょっといじわるだったかもしれない。


「じゃあ……美月は何て祈ったんだ?」

「……俺と一緒にいてくれることじゃないのか?」


「うーん違うかな」

「え……」


「太一くんとずっと一緒にいるってことだよ」


 心が冷えたかと思った。

 まったく、いたずら心を持つんだな美月は……。地元に戻ったらベッドの上でヒィヒィ言わせてやる。


「太一くんは覚えているんだよね? ……12年前の約束」


 そう……4歳の頃に約束した記憶。

 美月と結婚し彼女を褒め続けるという約束。


「忘れるわけないだろ。全てはそこから始まり……その約束があったから12年も待つことができたんだ」


「ふふふ、4歳の頃の約束なんて……普通の人が聞いたら重いって懸念されそうなのに……」

「俺は美月だったら、重い想いは大歓迎だぞ」

「本当に? 私、重くて、嫉妬深くて、ポンコツなんだよ」

「髪の先から足先全て愛してやるさ」


「じゃあさ……」


 美月はちょっとだけ困ったような顔をした。

 繋いでいた手を外し、側でくるりと回る。


「なんで好きだって言ってくれた時、プロポーズしてくれなかったの?」


「っ!?」


 心を貫く一撃。予想もし無かった言葉に俺は言葉が詰まり動揺してしまう。


「あ、ごめん。交際自体は大歓迎だよ。太一くんのこと大好きだし、今だって……えっと私が言いたいのね」


 美月は今度はぐっと俺に近づき、側で見上げた。


「太一くん私に遠慮してるでしょ」


「……」


 見事だよ美月……。さすが俺が嫁にしたい人。そんな美月と結婚したい……その気持ちに偽りはない。

 ただ一つ懸念事項がある。


「俺と美月の結婚を喜ばない勢力がある」

「うん、有栖院グループだね。私もここ数ヶ月でその凄さを感じるよ。有栖院先輩には絶対敵わないと思うし」

「俺は最後まで戦うつもりだ。どんなことがあっても美月を守る。俺が傷つく分にはいい。家族とだって……アリアとだって戦ってみせる。でも……それによって美月が傷つくのだけは耐えられないんだ」


「そう……」


 もし、美月が俺と意地でもついてくるというのであれば命に代えて守り抜くと誓う。

 だけど結婚……婚約、恋人を止めたいというのであれば俺は止めない。

 それほどまでに国家にまで食い込むほどの企業を相手にするということはそういうことなんだ。


「今はまだ……少なくとも学生の内は大丈夫だろう。だから高校あと1年、大学の4年は間違いなく猶予がある。そこで………俺と共に来てくれるか判断してくれ」


「無理」


 美月はにっこり笑った。


「じゃあさ、もうつらいことから逃げちゃおうよ」


「そ、それはどういう……」


「有栖院グループが強いのは日本だからでしょ。だったら海外に逃げればいい」


「それはそうだが、海外の生活は大変だぞ。まず語学……まさか!」


「大正解! 私が英語を勉強しているのは太一くんと海外へ逃げるためだからです!」


 全てが繋がった……。

 どうして美月が驚異的なモチベーションで英語をマスターできたのか……。

 全てはこの時のため……。

 有栖院グループがいかに強力だろうと海外だと手薄になる。

 それに俺はあくまで有栖院グループの親族候補でしかない。国内であれば圧力をかけるだろうけど、海外まで手をまわすには割に合わない存在。


「その案を考えたのは誰だ。美月だけの考えではないだろう」


「うん、ほのか先輩だよ」


 多分あの時だ。

 ピュアランドでデートに行った最後、ほのかと美月が2人きりになった時があった。

 そこでその話がされたというのか……。


「たーくんはきっと美月(わたし)のことを意地で守ろうとする。でもその時……あなたはどうするのって聞かれた」


「それで……どう答えたんだ?」


「その時は答えられなかった。黙っちゃったの。だからほのか先輩が海外へ行きなさいって。あなたがたーくんを海外につれていけば……丸くおさまるかもって」


「そうだったのか……」


「だから重要なのは私の心だったんだ。私が明確な意思を持って太一くんを支えればいい。私が根性を出せば2人でどんな障害も乗り越えていけるんだよ」


 美月は強い子だ。

 何も臆することはなかったんだ。今後どんなことがあってもきっと乗り越えることができる。


「ふむ……だったら大学は2人で海外に行ってみるか。向こうで過ごせる拠点と知り合いを探しておけばいざって時に頼れる」


「うん……。私、英会話も頑張る。2人で頑張って頑張ってお互いの家族を説得しよ! 全ての手を尽くしてそれでもダメなら海外へ駆け落ちしよ!」


 美月は笑い、釣られて俺も笑う。


 だったらいいよな。もう憂いは完全になくなったんだ。


 もう、待つ必要なんてこれっぽっちもない。


「美月」


「は、はい」


 俺は跪き、美月の左手を取った、


「まだ何も……用意はしていないけど……言わせてくれ」


「うん……」


「美月……絶対に幸せにする。だから……」












「俺と結婚してください」












 それから幾多の月日が流れた。

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