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094 届け、12年の想い!

「太一くん」


 幼稚園が潰れてしまってから手入れされなくなって数年。

 埃などの汚れが目立っている。

 地味に小学生達の隠れ家みたいな扱いにされているという話も聞く。

 今は誰が所有して管理しているのだろう。


 教室の中央にいる美月はどこか幻想的で夜の中に美しく映えていた。

 俺の名を呼ぶ声はどこか弱々しい。

 震えているのか?

 美月の体が小刻みに揺れている。まさか……俺が日本中のみんなが見ている前で大々的な告白をしてしまったせいで怯えているのか。


 なんて事をしてしまったんだ。

 贖罪の気持ちを思っていると再び美月の唇が動く。


「太一くん」   

「美月、すま!」

「寒い」

「ん……え?」

「最近、夜になると冷えるよね……。凍えちゃうかと思った」


 そっちかよ!

 鬱蒼(うっそう)とした雰囲気が吹き飛んでしまった。


「……うぅ」

「あ、だったら上着を……、飲み物の方がいいか?」

「ハグがいい」

「なんだって」

「体も心も寒いもん。太一くん、温めてよ」


 美月は頬を赤く染めて視線を反らした。

 それなら……仕方ないな。

 俺はざっと美月に近づき、乱暴に抱きしめた。

 花火の時の美月の好意を知らなければ躊躇しただろう。

 先程の記者会見で美月への好意を暴露しなければ控えていたかもしれない。

 だがそのお互いにお互いの好意をこれでもかと思うほど理解しているのだ。


 美月の体を胸に押し込め、両手で美月の背中を強く押す。


「ふ、ふぐぅ……。ちょっ強いよ」

「ずっとこうしたかったんだ。当たり前だろう」


 かなり力を入れて抱き締めている。

 これだけ強く抱き締めれば逃げることもできない。美月はもはや俺の胸の中から逃れられない。


「温かくなったか?」

「ん。満たされてきた」

「しかし……まぁ……女の子ってやっぱ柔らかいな」

「むー、前より痩せたもん」

「いや、柔らかいよ。ずっとこうしていたい」


 満たされていく。

 美月が側にいてくれると本当に幸せなんだ。

 どんな嫌なことも吹き飛んでしまう。

 本当にすごい存在だと思う。


「あ、でも……その、記者会見の時は悪かった……。大丈夫だったか?」

「大丈夫じゃないよ!! お母さんやお父さんからすっごく連絡くるし、吹奏楽部のみんなからからかわれるし……」

「本当に申し訳ない……。テンション上がっちゃったんだ」

「太一くんって4歳の時からテンション上がると普段絶対しないことをやるようになるもんね。知ってるんだから」

「美月にはお見通しか」


 美月が顔をひょこりと出す。喋っている内に力を緩めてしまったようだ。


「罰として私を甘やかすのです! そ、その私の応援のおかげで……打てたって言ってたもんね」

「ああ、ほっぺの」

「く、口にはしないで。恥ずかしい」

「そうだな。じゃあ甘やかしてやろう」

「じゃあ、胸板に直接押し付けてくれると私ハッピーになれる!」


 出たな筋肉フェチめ。

 まぁ、それぐらいいいだろう。少しだけ距離を取り、制服のシャツのボタンを外す。

 そうだ。下着は汗かいて脱いでたっけ。じゃあそのままいけるな。

 俺は右手で美月の背中に触れ、自分の胸に押しつけた。そのまま左手で美月の髪を撫でる。


「ああ、美月はかわいいなぁ! 美月のおかげだ。ホームランを打てた。美月は本当に最高だ!」

「むほほほぉぉぉぉ!」


 自分やっててアレだが、わりと楽しくなってきた。

 胸がべっちょりする感を覚えながら美月の頭を撫で続けた。


 次は俺の番だ。


「次、俺が甘える番だ」

「仕方ないなぁ」

「待て」


 美月が俺の頭を掴もうとしたので静止させる。


「俺は裸になったのだから美月も裸になるべきじゃないか」

「なななな、何言ってるの!?」

「せめて、下着、下着だけでも! 不公平だ!」

「男の子と女の子とでは違います!」


 制服の上からでも悪くないんだが、その柔らかくて大きい胸で甘やかして欲しかった。

 無念……。


「……そんなの一緒になれたらいっぱい触らせてあげるのに」

「まじか!!?」

「太一くん……。がっつくのはよくないよ」


 仕方ない。今日は落ち着こう。


「太一くん、決勝ホームランおめでとう。凄かったよ。さすが、みんなの頼れる主将だね」


 制服の上だが柔らかな胸元に添えて美月は俺の頭を撫でてくれる。

 その心地よい声にぞんぶんに癒されていく。

 これが母性というものなのだろうか。

 なんて……美しく、優しいんだ。


「本当にかっこよかったよ。太一くんと再び出会って本当に良かった……。誰よりも大好きだよ」

「……っ!」


 俺はふいに頭をあげる。

 口走った言葉に美月は気付き、慌て始めた。


「あ、その……、今のは!」

「俺は……」


 立ち上がり、慌てる美月の両手を自分の両手で押さえる。


「美月に母性を感じているけど、やっぱり1人の女の子として好きだ」


「あっ……」


「これが俺の想いだ……受け取ってほしい」


 両手で押さえ込んだまま、俺は美月の柔らかな唇にキスをした。

 美月への想い全てをそのキスに込めるように美月の唇に刺激を送り続ける。

 美月が動こうとする。だが逃すものか。口呼吸など絶対にさせないのだ。

 長く……強く口付けた。


「ふぁい……」


 解放すると同時に美月の腰は砕け落ちた。

 とろけた顔の美月が愛しくて、もう一度強く抱きしめる。

 もう絶対に離さない。


「美月、12年前から君のことが好きだった。これからも……12年を超えても俺と一緒にいてほしい」


「はぁい……私も……太一くんが大好きです」


「美月、大好きだ!」


 その言葉と同時に俺はもう一度、美月の唇を奪った。

 強く、強く、愛情を込めて……何度も何度もキスをする。


 12年の足踏みを経て、俺と美月はようやく結ばれた。


 それから1ヶ月が過ぎた。

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