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009 風呂場の出会いはお約束

 屋敷から美月の家までおおよそ30分ほど。ランニングで走るにはちょうど良いぐらいの距離だ。

 朝、俺は逸る気持ちが抑えられず5時前に目が覚めてしまった。


 美月の家の冷蔵庫がからっぽになったため飯作りは正式に次の月曜日からスタートという形になったが、心変わりを防ぐため弁当だけでも作ってくるという話をしてきた。

 なので美月と星斗の弁当箱は昨日の帰りに受け取っていた。


 1時間かけて作ったから……結構凝ってるぞ~。普段は冷凍モノも使うが、今日は使っていない。

 渾身の弁当を食わせてやる。


 美月の住むマンションへ到着する。

 さっそくエントランスで美月を呼び出す。


「はーい」

「その声は星斗か」

「せんぱい、おはよー」

「ちゃんと起きてるようだな。中に入れてくれるか」


 インターフォンに出たのは星斗のようだ。

 野球部も吹奏楽部も朝練はあるので、7時にはちゃんと起きていた。

 星斗のやつもちゃんと朝練には来るから朝は強い方なんだな。

 自動ロックを解除してもらい中へ入り込む。このマンション、防犯もしっかりしている。


 エレベーターで上がって、美月の家の前に立つ。


「鍵が開いてる……」


 チャイムを鳴らすか迷ったが、恐らく美月も起きているだろう。

 中に入らせてもらおう。


 弁当が崩れないよう細心の注意をはらって運んできた。問題はないはずだ。

 肩にかけたボストンバッグのジッパを緩めて、3人分の弁当を確認する。

 リビングルームへいく廊下を歩きながらゆっくりと中を確認した。


 その時。


 廊下の途中にある扉が開く。


 もうピンポイントだった。


 まず初めに潤いを帯びた色素の薄い黒髪に目が行き……そのままくりくりとしたかわいらしい瞳をした、顔立ちの整った顔が目に入る。

 そのまま視線を下げると白い肌と共に大きなバスタオルを体に巻き付けており、大事な所は隠せているが……その豊かに育った2つのふくらみの全てを隠せてはいなかった。

 さらに下に視線を向けると思わずすりすりしたくなるような魅力が詰まったフトモモが現れる。

 そこまで見た後、再び視線を上げると……涙目になり、顔を真っ赤にさせた朝宮美月が俺を見ている。


 ……ごちそうさまでした。



「いやあああああああああああああ!」


 頬に突き刺さる張り手の一撃も心地よい。



 ◇◇◇



「小日向くん、本当にごめんなさい!」


 制服に着替えた美月が何度も何度も手を合わせて謝る。

 高飛車な女だとなぜかこっちが悪い扱いされるが俺の大好きな美月は優しい女の子だからそんなことは絶対しない。

 そして謝る必要なんてどこにもない。もうあの姿を思い出すだけであと3ヶ月は戦えそうだ。


「俺も不用意に中に入るんじゃなかった。すまない」

「……そ、その……見た?」


 この場合何をさしているのだろうか。


 そういえば美月が4歳の頃から風呂好きであることをすっかり忘れていた。

 さすがに朝はシャワーだけだと思うが、完全に忘れていた。


 慌ててドライヤーで乾かしたみたいでまだ少しだけ美月の髪には湿気が残っている。

 潤いのあるその黒髪に触れて、ナデナデしてみたい。


「最近……小日向くんのご飯食べ過ぎて太ったかなって……」

「食べることは大事だぞ。それに星斗や俺は朝宮よりも食べていただろ?」


「むー、男の子とは違うもん。私はそんなに運動しないし……」

「そうか。じゃあ弁当のおかずを半分にすべきだったか」

「もう、イジワルだよ!」


 ぷんすかと頬を膨らませる美月。

 ほんとかわいいな、今すぐ抱きしめたい。

 俺は真面目で硬派なイメージで通ってるからこんなことを表に出せやしない。野球部副主将の威厳ってのもある。


「星斗、準備はいいか」

「おっけー」

「おっけーじゃない。襟は曲がってるし、しゃんとしろ」


 美月と違って身なりを気にしない星斗は髪はボサボサ、ブレザーの襟も曲がっていた。

 こういうのを見ると正したくなる。

 姉弟だというのに美月はしっかりしているな。神月夜学園のセーラーも可憐に着こなしている。セミロングの髪は流れるようにまとめられていて、オシャレな所も素晴らしい。


「どうしたの?」

「いや、星斗と違って朝宮はしっかりしてるなと思って。姉というのはすごいものなんだな」

「そ、そう? ありがと」

「いつもは結構だらしないよ。制服も放りっぱなしだし。ネコ被ってんのはせんぱいがいるからでしょ。普段はいつもジャージごふっ!」

「朝練に遅刻するから行こっか!」


 弟に対してはわりと容赦ないんだな。見事なチョップだった。

 余計なこと言う星斗も星斗なんだが……。


 よし、2人きりではないが……これぞ夢にまで見た……美月と一緒に登校だ。

 12年間渇望していた……夢が叶う日が来た。


「小日向くんと一緒に登校……嬉しいな」


 そんな言葉を掛けられたら期待してしまうじゃないか。

 俺はにやけそうな表情を抑えていつも通り冷静に頷くだけに留めた。


 美月と登校……本当に嬉しい。

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