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087 お約束

「マジでここでやんのかよ」


 野球部一背の低い、マネージャーの吉田鈴菜が大きく見上げた先は関東の中心に位置する有栖院ドームである。

 日本一大きなドームと言われており、アーティストやスポーツの何から何まで利用されている。


 俺達の住んでいる都市から距離でいえば40キロほど。マイクロバスをチャーターしここまでやってきた。


 ついに歴代最強と言われた東京桐陰学園と決戦の日が訪れたのだ。


「ほのか、ここの貸し切りってどれくらいかかるんだ?」


 麗華お嬢の従者であるほのかに聞いてみる。


「んー、準備含めたら3千万くらいかな~」

「まじか……」

「お嬢様に言ったら意外に安いな。私の日収くらいかって言ってたよ」


 もはや何も言うまい。あの女でそれだったら父であるグループ統帥はどうなってんだって言いたくなる。貸し切りだけでそれなら……全体で余裕で億以上の金が動いていそうだ。


 部員達は緊張しているのが半分、気楽なのが半分という所か。

 相手が夏の大会優勝校の東京桐陰学園だ。雲の上の相手すぎるし、どちらかというとファンイベントみたいなイメージかもしれん。


 向こうで監督と校長が青い顔をしている。

 相手の学校に挨拶しにいくんだもんな。有栖院グループのごり押しで決まった取り組みだ。

 東京桐陰学園の人から嫌みを言われてもおかしくはない。

 中間管理職は大変だ。


「わぁー! ここでみなさんがプレイされるのですね!」

「そうだよアリアちゃん。ライブで行ったことはあったけどまさかあそこに自分の足で立つなんて思ってもみなかったよ」


「せーくんは行ったことあるんですか?」

「オレは家でゲームしてる方が好きだし、興味ない。……アリアは楽しそうだな」

「はい! 女学院の時は籠もりっぱなしだったのですごく楽しみです」



 後ろでアリアと悠宇、星斗が話をしている。

 悠宇のやつもアリアと話すことにまったく動じなくなったな。

 星斗も口調が和らいだような気がする。

 やっぱりあの3人……さらに仲良くなった。

 夏祭りでいつのまにか合流してた件もまだ詳細を聞けていない。

 試合が終わったらそれとなく聞いてみるか。


「太一くん」


 その耳心地の良い声に胸がドキリとなる。


 美月が俺の横へと来ていた。


 世界の誰よりも大好きだよ


 美月の花火大会での声が何度も反復する。


「夏の大会から今まで必死に頑張ってきたんだしきっといい結果が出るよ」

「ああ、そうだったらいいな」


 ぐっと拳を上げて、美月は勇気づけてくれる。

 何てかわいいんだ。

 ああ、やっぱりあの告白を受けておくべきだったのかもしれない。


 そうすれば堂々と美月を彼女として側に置けるし、こうやって横にいる美月の肩に手を触れ、寄せ合うことも許される。

 艶やかな肩まで伸ばした髪を存分に撫でさせてくれただろう。

 頬を寄せ合って、うっかりその潤いのある唇に触れることもできただろう。


 あとは猛烈に情をかきたてるその魅力的なカラダに触れたい。要約すれば後ろから胸を揉みしだきたい。


「落ち着け、俺! 身体目的ではない!」

「え?」

「頑張るよ。どんな相手でも……ベストをつくす」

「うん、頑張って! あ、じゃあ!」


 美月は俺に屈ませるように両肩を強く押す。

 押されるままに……少し屈んでいるみると急に胸元に顔を引き寄せられる。


「太一くんなら絶対やれるよ。がんばれー、がんばれー!」


 この甘やかしは……実に良い。

 柔らかい胸元に引き寄せられ、頭を撫でられる様は心地よすぎる。


 やはり身体は素晴らしい……。


 ただ難点は変に屈んだせいか腰がそこそこ痛いこと……。


 あとは……もう一つ。


「美月ちゃん、そこでそれはどうかと思うよ」


 ほのかの声に美月の手が止まる。


「お、相変わらずのマザコンっぷりだな。女の胸に埋まる生活は楽しいってか」


 吉田からかなり厳しめな言葉が投げかけられる。でも俺、悪くないよな。


「本当にそんなことやってたんだね。まぁ……うん、その……」


 誰よりも優しい悠宇が言いよどんでいるぞ。何か野球部員全員に見られているような気がする。


「ねぇちゃん」「兄様」


 星斗とアリアの言葉が重なる。


「弟として恥ずかしい」

「妹として恥ずかしいです」


「あああああああ!」


 美月はばっと手を外して、顔を紅くして向こうに走り去ってしまった。

 急に顔がフリーになったため転びそうになったが何とか耐える。


 あれか天然だな。天然すぎてマジでかわいい。


 気合い十分、やっていけそうだ。


「よし、おまえら……いい試合すんぞ!!」


『……』


 俺の気合いは十分だが、まわりのメンバーの視線はとても冷たかった。

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