086 お嬢様の無茶苦茶なきまぐれ
夏祭りの後、いかにして美月に告白しようかと悩んでいた次の日に野球部のことで神月夜学園理事長代理である有栖院麗華に呼び出された。
野球部主将の俺と副主将である悠宇は学園の会議室に呼び出される。
ちなみに今まで触れていなかったが、悠宇が副主将なのは俺の独裁政権を阻止するためらしい。
まぁ、俺に刃向かえる人間が存在しないのは理解しているがちょっとひどくないか。
幼馴染で俺に恐れず物言える悠宇が選ばれるのは仕方ないが思わず頭を抱えてしまう。
「実は先日あることを打診してな。多少渋られたが、最終的には快く受け入れてくれたんだ。喜ぶがいい」
「ねぇ……太一」
「ロクでもないことなのは間違いない」
どうせ、有栖院グループの力を使ってごり押ししたんだろうな。
有栖院グループの力は絶大で日本政府ですらその影響力を無視できない。
その直系の令嬢の有栖院麗華は随一の権力を持っていると言っていい。
「今年の全国高等学校野球選手権大会の屈辱は忘れていないな」
「まーな。3回戦まで勝ち抜けたけどやっぱりあの敗北は悔しかった。秋の大会はベストを尽くしたい」
「そうだろう、そうだろう」
麗華はにっこりと笑い大げさに頷く。
最強の血筋であるこの女は大層美しく、どんな仕草も絵になる。
隣に座る悠宇もぽかーんと麗華の姿も眺めていた。
この女に耐性の無いものは皆そうなるから仕方ない。
「全国高等学校野球選手権大会の優勝校を覚えているか?」
「ああ、東京桐陰学園だろ。春夏連覇で凄かったな」
「うん、決勝戦でのノーヒットノーラン。おまけに甲子園でのチーム打率は驚異の4割5分。レギュラー全員プロ候補って言われてるもんね」
100年以上の歴史を誇る甲子園大会で歴代最強と言われたチームだ。
レギュラー全員がプロ入り候補と言われているもんな。チームがすでに高校選抜であると言える。
俺もテレビで決勝戦はずっと見ていた。エースの天田選手と名スラッガーの音海選手は1年生からレギュラー入りしてるんだってな。
まさしく伝説の選手と言ってもいい。正直憧れる。
ドラフト会議で何球団が彼らを1位に指名するか楽しみでならない。
「その東京桐陰学園がどうしたんだよ。確か来週くらいに日米野球があるだろう?」
甲子園大会に優勝した高校は9月にアメリカの高校とエキシビションマッチをすることが例年決まっている。
東京桐陰学園がアメリカに勝てるかどうか、日本中気になっている所だ。
「そこでだ」
麗華は大きく机を叩く。
「彼らがアメリカに経つ数日前、調整という形で我が神月夜学園と親善試合を行うことになった」
「はっ」「へっ」
俺と悠宇の声が重なる。
「喜ぶがいい。甲子園優勝校と手合わせできるんだ。これほどのことはない」
「いやいやいや……あんた何言ってんだ!? 相手になるわけないだろ! いくらこの一ヶ月で麗華お嬢の気まぐれで相当強くなったとはいえ話にならん」
「だが弱小校は弱小校としか試合は組めないのだろう? だから強豪校と組めるように手配したのだ」
「それで甲子園優勝校っておかしいだろ!?」
無茶苦茶だ……。
「父が東京桐陰学園の理事長と知り合いでな。少し働きかけてもらったんだよ」
ああ、あのグループ統帥、娘2人を溺愛してるからなぁ……。
まったく何考えてるんだよ。東京桐陰学園も相当、頭を抱えただろうな……。
「アメリカ前の最後の調整ということで、甲子園優勝メンバーが全員揃い、それに伴って報道陣も呼んで置いた。時間的にその日のニュースに生放送で流れるぞ」
「太一……僕休んでいいかな」
「最悪だ……人生至上最悪の日になりそうだ」
「この一ヶ月。私が資財を投げ打ってプロジェクトを開始させたんだ。太一。君達の成果を期待している」
「せめて来年にしてくれよ……。さすがにこんな早く成果は出ないって」
場所はここから車で1時間ちょいほどの所にある有栖院ドームの貸し切りだ。
まさかの展開が始まる。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ここから本作の最終イベントとなります。
今まで書いてきたお話の集大成となりますので宜しくお願いします。