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081 Aria

 悠宇の指示の元、アリアと星斗は世話しなく動く。

 悠宇はリュックにガスライターを持ってきており、乾いた木々を集めさせて、着火する。

 さすがにキャンプ経験も豊富だけあって、難なく火をつけ、たき火の完成だ。


 その間に持ってきていた釣り竿をセットし、星斗に任せた。


「夜凪さん引いてますよ!」

「ゆっくりと引っ張るんだ。リールをよく見て……そう、そんな感じ」


「おらっ!」


 アリアの声、悠宇のアドバイスを元に星斗は力強く、釣り上げた。

 初めての釣果に頬を綻ばせる。


「よくやったね」

「へへっ……」

「もう一本も引いてますよ!」


 コツを掴んだ星斗はこの後も何匹か釣ることができ、魚が手に入っていく。

 悠宇は小型のナイフで手早く調理し、作った串に差し込んでたき火の側に差し込んでいく。


「悠宇様はサバイバルグッズを常に持ってるんですか?」

「旅行に行く場所にもよるけど習慣だね。今回は最低限しか持ってきてないけど、本場のサバイバルだったらもっといろいろ準備してくるよ」


 空は完全に真っ暗になり、3人はたき火の側で暖を取る。

 真夏なのでそこまで寒くなることはないが、体は冷やさないように注意を払う。


「向こうにクーラーBOXを忘れているから太一達がすぐ気付くと思う。潮が引くのが先か、太一達が来るのか先か……」


「ではずっとこのままというわけではないのですね」

「そうだね。潮ができる限り引くタイミングを狙って移動しようか。懐中電灯はあるとはいえ、夜は暗いし、危険だからね」


 悠宇は焼き上がった魚を星斗とアリアに渡して、腹ごしらえをする。

 アリアは初めて釣った焼き魚を食べてご満悦だった。初めはどうなることかと思ったが、悠宇がずっと落ち着いていたこともあり、安心することができたのが大きい。

 星斗も悠宇も魚を頬張る。


「悠宇せんぱいがいてくれて助かったよ」

「どうしたの? 星斗らしくもない」

「オレ1人じゃ何も出来なかった。せんぱいみたいに強くも、人を引っ張る力もないし、悠宇せんぱいみたいにサバイバル知識もない。なんだか……」


 悠宇は星斗の肩に手を置く。


「でも僕も太一も140キロ超えるストレートを投げられないし、ルックスだって美形にほど遠い」

「そんなの実生活に何の役に立たないじゃん」

「そうかな。僕はそれは人を惹きつける才能、カリスマになると思うよ。きっとここではない違う所で星斗の力が重要になってくる。だから……そこで頑張ればいい」


「そうですよ、夜凪さん」


 アリアは2人の視線を集めた。


「今日、アリアは何もしていません! それに比べたら頑張った方だと思います」

「ぷっ、堂々と言うなよ」

「あははは、妹ちゃんは面白いな!」


 たき火の側で3人は笑い合う。

 こうやって3人揃えば怖い物は何も無い、アリアはそう感じ、星斗と悠宇を見る。


「夜凪さんは」「アンタは」


「ねぇ……」


 悠宇の呼びかけにアリアと星斗の言葉は止まる。


「2人ともそんな呼び方じゃなくて、しっかり呼び合ったらいいんじゃないの? 兄と姉がくっつくならもう家族みたいなもんでしょ」

「え」

「そうですよ! アリアのことをアンタ、アンタってちゃんと名前で呼んでください!」

「妹ちゃんも夜凪さんじゃなくて、名前で呼ばないとね」


「……照れくさいんだよ」


 星斗はあまり表情を見せたくないのか、顔を背けてしまう。

 生意気な星斗のそんな姿にアリアはドンドン押していく。


「だったら、悠宇様もアリアのことをアリアとお呼びください。それでいいですよね!」

「えっ僕も!?」

「そうですよ~。ねぇ~せ~くん!」


「おま、それをやめろよ!」

「やめませーん! もうこれからどんな時でもあなたをせーくんって呼びますから!」


 アリアはゴリゴリと押していき、せーくん呼びを定着させてしまった。

 普段から星斗に上から言われることが多いので可愛らしく呼びたいのだろう。

 悠宇も唸りながらも迷っている。星斗とアリアの関係改善をずっと思っていたのかもしれない。


「さぁ、悠宇様、せーくん。アリアのことをちゃんと呼んでください!」


 夏の夜風が気持ち良く撫で上げる。

 親族である太一、美月から生まれた関係であるのにこの場にその2人はいない。

 この3者の関係は少し特異であると言える。


 良き関係を望むアリアは微笑んだ。月が上り、その明かりがアリアの黒髪を照らし、夏の風がその黒髪をゆったりと揺らす。

 その大層美しい姿に……星斗も悠宇も自然と言葉が出ていた。


「アリア」「アリアちゃん」


「ほわっ!」


 真面目な顔で星斗と悠宇から名を呼ばれたことでアリアは少し気恥ずかしくなり、顔を背け、頬を赤くさせる。


「は、恥ずかしいです」

「えっ、自分で言わせたのに!?」

「……何言ってんだよ」


 急な変化に男性陣はびっくりする。

 そんな様子の中、アリアは話を打ち切るように立ち上がった。


「ちょっとお花を摘んできます!」


 アリアは飛び出し、森の中へと入っていく。

 えーっと言葉をもらす2人だったが、その内に互いに見合って笑い合ってしまった。


「おい、そこにいるのか!」


「せんぱい!」「太一!」


 突如電動ボートの駆動音がして、期待を込めてそちらの方に視線を向けると懐中電灯で2人を照らす小日向太一の姿があった。

 ボートを近づける限界の所まで寄せて、太一はボートを降り、2人の元へとたどりつく。


「ったく帰ってこないから心配したぞ」

「よくここが分かったね」

「ああ、このリゾート地は侵入者防止のため上空から監視してるんだよ。それでたき火に反応してこのあたりに来たんだ」

「……助かった」


 悠宇も星斗もほっこりとした様子を見せる。


「みんな待っている。さっさと帰るぞ。それで、アリアはどこだ。一緒だろう?」


「ああ」


 悠宇と星斗の声が重なる。


「アリアなら」「アリアちゃんなら」


「待て」


 太一から発せられた声は今までの優しげな雰囲気とは違い、どこか威圧感のあるものになっていた。


「いつからおまえ達は妹を名前で呼ぶようになったんだ? そこんとこ……詳しく聞かせてもらおうか」


「うわっ、めんどくさい兄貴だ!」

「せんぱい……もういいじゃん」


「あれ? 兄様? あっ助かったんですね! やったぁ」


 4者各々違う想いを胸に夏の旅行は終わりを迎えることになる。

 この時からアリア、星斗、悠宇の関係が一歩良い方向へ進んだと言ってもいい。


 さて夏が終わり、最後の時まであと少し。



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