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080 brother and sister

 

「なんだ2人とも来たんだ」

「夜凪さんがぱーって行っちゃうからでしょ」


 洞窟内は15分ほど歩いたら抜けることができた。

 中は少しだけ高低差があり、低い所には水が少し溜まっていた。


「でも何だかご機嫌じゃん」

「ふふっ、悠宇様に手を繋いでもらっちゃった!」

「悠宇せんぱい大胆!」


「ちっ、違うよ! 滑りそうだったからね。……女の子の手ってこんな柔らかいんだな」


 悠宇はぼそぼそとした声を最後の方に吐くが、それは誰にも聞こえない。

 アリアは洞窟の入口付近から岩場を伝って、海の方へと歩いて行く。


「何でロッドを持ってきたの?」

「こんな高価なもの置いていけないよ。無くしたら大問題さ」


 悠宇は2本の釣り竿を背負っていた。でも、さすがにクーラーBOXは向こうに置いてきたようだ。

 3人は揃って岩場から、海岸の方へと足を運ぶ。

 こちら側も砂浜となっており、皆で遊んだ場所ほど整備はされていないが、綺麗な海が見えていた。


「ここも綺麗だね~。まわりが森に囲まれているから開発が進んでいないのかな」


「そうですね。向こうがあったらここまで来る必要はない気がしますね」


 背の高い木々があって影になっているので3人は涼しい所へ移動し、休憩することにした。

 皆、真夏で飲み物を持ち合わせていたので口にする。


「2人に聞きたいことがあるんだけど」


「はい!」「ん」


 アリアは元気よく、星斗はけだるそうに返事をする。


「太一と朝宮さんのことについてどこまで知ってるの? 結構4人でご飯とか食べてるんだよね」


「そうですねぇ……」


 アリアは空を見上げる。


「2人が両想いだってことは知ってます。兄様は美月先輩しか見てませんし」

「ねぇちゃんもだけどね。せんぱい以外の男と話す気がサラサラないし」


「じゃあ、2人が……いや、太一が朝宮さんと4才の時に結婚の約束をしたって話を知ってる?」


「えっ」「マジ?」


 アリアと星斗は飛び上がるように悠宇を見た。


「コレ言っちゃダメだったのかな……。でもまぁ2人とも親族だし、無関係じゃないし、いいよね」


「それは知りませんでした……。だから兄様あんなに美月先輩にのめり込んでたんですね」


 アリアは納得したように頷いた。


「僕は朝宮さんと接点はないから、彼女のことはよく知らないけど、太一はずっと想ってたよ」


「失敗したなぁ」


 アリアはあの時のことを思い出す。

 美月と太一が2人イチャイチャしながら公園で運動していたときのことだ。

 太一がアリアの想像以上に美月へ入れ込んでいたことに釘を刺していた。


「何かまずいの?」


 星斗の問いにアリアは頷く。


「小日向家の長男として考えて欲しいと言ったのですが、あそこまで入れ込んでる状態で無理に縛ると駆け落ちするかもしれませんね」


「あ~」「確かに」


 悠宇も星斗も納得したように声を揃える。


「太一は卒業したら家を出るって言ってるから結構いろいろ調べてるんだよね。1人暮らしを考えているんだと思う」


「そうなるとねぇちゃん次第かなぁ。でもねぇちゃんポンコツだからなぁ。せんぱいに一緒に逃げようと言われたら何も考えずにオーライッ! て言いそう」


「あははは、美月先輩なら言いそう」

「君達ってほんと朝宮さんを侮ってるよね」


 悠宇は部活の時の美月しか知らないのか、ピンと来ていないようだ。

 アリアは考えを張り巡らせる。


 太一と美月が交際に発展する可能性は高い。なので今の段階で引き離すのは難しい。

 交際に発展した後、太一に婚約者を当てても絶対承知はしないだろう。無理に押しつけようものなら駆け落ち待ったなし。


 全てが丸くおさまるのは小日向家の嫁として美月を迎え入れることだが……。


「有栖院のことを知らない人が……嫁ぐと苦労すると思うのですよね」

「……うわっ、もう小姑気分かよ」

「私は美月先輩を思って言っているのです。あなただって無関係ではなくなるのですよ」

「……そんな先のこと今考えたって仕方ないじゃん」


 星斗の言葉は最もだ。

 普通に交際して破局する可能性も十分ある。

 でも半同棲して、あれだけ仲が良かったら……最後まで行くんじゃとアリアは考えるが自分1人で考えていても良い手は浮かばないと判断する。


(麗華お姉様に相談してみましょうか)


「悠宇せんぱい。他にはないの?」


「他? そうだねぇ」


 心地よい風が吹く、この場所は避暑の場所としては最適だった。

 3人は太一や美月の昔話を話題に暗くなるまですっかりと話し込んでしまった。


「ちょっと日が落ちてきたね。そろそろ戻ろうか」


 夏の日の入りは遅い。恐らく18時は過ぎている可能性が高い。

 水辺で遊ぶためスマートフォンも休憩場所へ置いてきてしまっていた。

 3人は立ち上がり、戻るために洞窟の方へ向かう。


「……これは」


 その洞窟を見て、3人は唖然としていた。

 大量の海水が流れ込んできており、洞窟の中は浸水してしまっていた。


「そうか……満潮か」


 悠宇はポツリとつぶやく。


「これぐらいなら大丈夫でしょ。さっさと戻って」

「待て星斗」


 中に入ろうとする星斗を悠宇は慌てて止めた。


「まだ本当に満潮かどうか分からない。中に入って大量の水に飲み込まれてしまっては危険だ」


「で、でもそれじゃ戻れないんじゃ……」


 不安そうなアリアの声に悠宇は頷いた。


「そうだね。だけど無理に通ったら溺れる可能性もあるし、洞窟の中で孤立して凍える可能性だってある。潮が引くまでここにいた方がいいね」


「ごめん……」


 星斗が自信の無さそうに項垂れる。


「オレが探検しようなんて言わなければ……、そしたらこんなことにならなかったのに」

「夜凪さん……」


 最近、星斗は自信なさげな発言をすることが多い。

 夏の大会での遅刻に、アリアを守り切れなかったこと、そして今回と不幸が続いてしまっていることが要因だろう。

 いつもの自身満々な星斗がしょんぼりしてしまっている。


 うまく言葉をかけられず、アリアも黙り込んでしまう。

 その時、悠宇は思いっきり星斗の背中を叩いた。


「いたっ!」

「ほらっ、日が落ちる前にやれることやるよ。星斗も妹ちゃんも手伝って。落ち込むのは後々!」


 そんな時こそ先輩が活躍するのである。

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