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079 fishing

 全員行動から個別行動へ変わったタイミング、小日向アリアは昼食の片付けを手伝った後、1人ビーチを歩いていた。

 先日、その華麗なルックスから襲われそうな目にも遭ったが、今日はプライベートビーチなのでその心配もない。

 自由気ままに過ごすことができる。


 視線の先で太一、美月、ほのかの3人が何やらいざこざをしている姿が見えたがわざわざ修羅場へ行く気もないので、アリアは見なかったことにして別の場所へ歩くことにした。


「あっ、いた」


 昼食の片付けをしているときに悠宇と星斗が2人揃って、どこかへ行くのを見ていたので2人の行方を探していたのだ。

 2人はビーチの先の岩場で釣り糸を垂らしていた。


「あ、妹ちゃん」

「アンタか」


「こんにちは2人とも」


 大胆なビキニの格好で迫ると目を反らされてしまうのでパーカーを着て、瑞々しい白い肌を可能な限り隠している。

 顔の日焼けも防ぐために大きな帽子を被っていた。

 ここまでいろいろ隠していれば女の子が苦手な悠宇も話をしてくれるようだ。


「戦果はどうですか?」


「このあたりはアジやサバが釣れるね~。他にもいろいろ釣れるよ」


 悠宇の側に置いてあるクーラーBOXの中にはかなりの数の魚が詰められていた。

 対象的に星斗のクーラーBOX内はまだ何もない。


「夜凪さんはボウズのようですね」

「……」


 星斗はまっすぐに海の方へ視線を見据えたまま反応しない。

 真剣にやっているが、悠宇のように釣れないため機嫌が悪いようだ。


「釣った魚は後で捌いてみようかな」

「悠宇様、捌けるんですか?」


「下手なりにだけどね。釣りはスカウト活動の時にもよくやったし、得意なんだ」

「すごーい」


 アリアは悠宇の側によって釣り竿をのぞき込む。

 女学院育ちのアリアは釣りなどやったことがない。話だけしか聞いたことがないので目新しいのだろう。


 悠宇の釣り竿がまた振れ、鮮やかな手つきで魚を釣り上げる。

 悠宇はちらっと魚を見て、海へ返した。


「今回は入れなかったのですか?」

「まだ小さい魚だったからね。釣るならもっと太らした方がいいよ」


「へぇ~」

「それよりロッドがスゴイよ。これ、最高級のロッドだよ。僕には到底手が出ないものだね」


 悠宇と星斗が使っている釣り竿は貸し物である。

 名家有栖院グループが使う物のため最高級の物を準備している。市場に出回っていない特別なものだ。


「釣りをしている悠宇様。かっこいいです。憧れます!」

「え!? アハハ……」


 アリアに褒められ、悠宇は思わず動揺して言葉が上擦る。

 女の子に褒められ慣れていないのだろうか。途端に行動がぎこちなくなった。

 悠宇は釣り竿を手放す。


「も、もしよかったら妹ちゃんもやってみる?」

「いいんですか? やってみたい!」


 その言葉と共に隣の星斗がざっと動き出す。

 釣り竿は置いたまま下がっていった。


「飽きたから使っていーよ」

「もう、夜凪さん!」

 

 離れていく星斗の後をアリアは追った。

 岩場の道を歩く星斗に追いつく。


「何してんの。悠宇センパイの側で気を惹くチャンスでしょ」

「それはそうですけど……、あなたを放っておけないというか……」


「ケガはもう治ったし、大丈夫だっての」

「……でも、美月先輩の弟だし」


「オレはポンコツじゃない。おわっ!?」


 星斗滑って転んでしまう。

 少し坂道になっており、砂利の下は滑りやすい岩場だったようだ。

 地に尻をつける星斗をアリアは目を細めて眺めた。


「だ~いじょ~ぶですかぁ~?」


 アリアがからかうように語尾を上げて、星斗に対して手を差し出す。

 星斗は顔を歪ませつつもその手を取った。


「ねぇちゃんの呪いだ……」

「案外そうかもしれませんね」

「さっさと戻って昼寝でも……ってあれなんだ」


 星斗は何かに気付き、立ち上がってその方向へ進んでいく。

 少し歩くとその何かは大きくなり、それが自然の洞窟であることが分かった。

 光のあまり入らない洞窟だが、人が通るには十分の広さを誇っており、探検の好奇心を揺さぶる。

 洞窟の中央には海から繋がる川が流れており、水音が反響して聞こえる。



「入ってみるか」

「えっ! こんな暗い洞窟、危険ですよ!」


 星斗は洞窟へ入ろうとしたが急に立ち止まり、じっとアリアの姿を見る。


「何ですか……?」

「ふぅ、悠宇せんぱい!」


 星斗は大きな声を出し、海岸で釣りをしている悠宇を呼んだ。

 その声に悠宇はすぐさまこちらに駆けつけてくれた。


「どうしたの2人とも」


「オレ、探検してくるからそいつよろしく」

「ちょっ夜凪さん!」


 あのまま悠宇を呼ばずに洞窟の中へ入るとアリアが追ってくると思ったのだろう。

 悠宇にアリアを預けて、星斗は洞窟の中へ入ってしまった。


「だ、大丈夫でしょうか?」


 アリアは不安な表情を浮かべる。

 しかし、悠宇は特に表情を変えていなかった。


「多分大丈夫だよ。よく見てごらん。洞窟の一番奥……光が見えない?」

「えっ……あっほんとだ」

「ここと同じような海岸に繋がっているんだと思う」


 アリアは一度安心したように息を吐いた。

 でも、すぐに表情を引き締める。


「でも……さっきも美月先輩の呪いが発動したし、1人で行かせるのは心配です……」

「その言い方は朝宮さんに怒られるよ……。じゃあ、僕達も行こうか。向こうの景色を見てみたいしね」


 アリアと悠宇は先行で進んでいく星斗を追った。


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