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078 甘やかしてくれ

 さぁ……日焼け止めクリームを塗らしてくれるのか?

 期待してみる。


 美月は照れたように口元を緩ませた。


「それはさすがに無理」


 さよか……。

 落ち込むわぁ。


「あ、太一くんに触られるのが嫌ってわけじゃないよ! ま、まだ目標の体型になってないから早いというか」


「じゃあ、目標の体型になったらいいのか?」

「あ、うん。……あれ、そういう問題じゃ」


 トレーニング量を増やすのと、美月の目標値を具体化させて、この夏の間に目標値まで持っていかねば……。


 急にやることが無くなり無言になってしまう。

 俺はとりあえず自分の肌に日焼け止めクリームを塗ることにした。

 日焼けは気にしないが、赤くなるのは避けたいしな。

 でも、やはり背中は塗りにくい。


「よかったら、私が塗ろうか?」


 美月からの提案。俺は美月の肌に塗りたかったんだが……仕方ないよな。

 いや、でもこれはチャンスかもしれない。


「じゃあ、お願いできるか?」

「もし、よかったらその……寝転ぶ形じゃなくてあぐらの姿勢でいいかな?」


 背中、首を塗るならうつ伏せだと思ったが……、まぁいいか。

 さっそく美月に日焼け止めを塗ってもらうことになったが、あぐらを要求する理由がよくわかった。


「ふふふ……太一くんの……筋肉。僧帽筋、三角筋……」


 後ろから好きな女の子の激しい息遣いが聞こえる件。

 そういえば2人でトレーニングしてる時もしきりにストレッチで俺の背中に触れようとしていたな。


 血筋のこともあり、俺の筋肉はわりと理想値に近い。

 筋肉フェチにはたまらないと言われたことがある。


「美月は……筋肉が好きなのか?」

「ふへへ、ふぁ!? そ、そうでもないよ! 大円筋が好みなだけで普通じゃないかな!」


 普通じゃないな。

 まぁいいか。ややくすぐったいが、自慢の筋肉を見せつけられるのは悪くない。


 いや、悪くないんだが。


「あのな、美月。後ろから胸を鷲掴みするのはな……男女逆だとわいせつで犯罪だからな」


 背中や首を塗り終えた美月が俺の前の筋肉まで手を伸ばしてきやがった。

 すっげー嬉しそうに揉んでくるんだが……塗れよと思わずにはいられない。


「ご、ごめん!」


 ようやく我に返ったようだ。


「乳首弱点だった!?」


 何言ってんだコイツ。

 これを口実に将来、美月の体の隅々まで揉む気でいるので今やられるのは問題ない。 

 ただ、このまま無駄に触られ続けるのは何だか時間がもったいない。

 ならば俺がやることはこれだ。


「そんなに触れたいなら前も塗ってくれるか?」

「いいの!?大胸筋、腹直筋触るよ!」

「構わない。そのかわり後ろからじゃなくて前から塗ってくれ」


「わかったよ!」


 美月は興奮冷めぬまま俺の正面にやってくる。

 そのまま手に日焼け止めを手に付けて、俺の胸にその手でこねくり始めた。


 ふふ、美月は俺の狙いに気づいていないようだ。そのあいかわらずのポンコツぶりを楽しませてもらおう。


 正面に美月がいるということは、魅力的な美月の身体を隅々まで見ることができる。

 俺の体に触れるたびにぷるんと揺れる胸を凝視することができる。

 ビキニを着ていることを忘れているな。その胸の谷間を楽しませてもらおう。

 くっそ、このまま抱きしめてぇ。ドスケベな体を揉んでみたい。


 いや……それよりもやってほしいことがある。


「太一くん、やっぱりすごいね。いいカラダしてる」

「そちらこそ」

「へ?」

「なんでもない」


 朝宮美月のビキニ姿を至近距離で見ることができるなんてどれだけ金を積んだってみることができんぞ……。この姿を想像するだけであと2ヶ月は戦えそうだ。

 それにしても、美月が首の方を塗ってくれてるから美月の顔を直視することができるが、やはりかわいい。

 人によってはアリアやほのかを推す奴もいるが俺は断然美月だな。

 今にもよだれを垂らしそうなほどふやけた顔もとっても魅力的だ。


 美月の顔のパーツで特に目を惹くのは唇だろうか。ふわっとピンクに染まった唇に触れてみたい。

 交際した際には毎日複数回キスしたい。


「へへ……。っ? あ、あの……」

「ん?」

「その……すごく、顔が近いかな」


 やっべ。うっかりキスしそうだった。

 美月もふやけた顔を戻し、照れた様子を見せる。その顔もかわゆい。


 よし、そろそろ頃合いだ。


「なぁ美月」

「は、はい」


 俺は真剣に美月を見つめる。

 美月と再び出会って数ヶ月。

 美月のことが好きで好きでたまらなくて、そんな美月だからお願いしたい。


「お願いだ……俺と」

「ふぇ!? ここで!? 心の準備が……」

「俺を……」


 美月の両腕に触れる。


「甘やかしてほしい」


「はい……。ん? 甘やかす?」

「そうだ。あの夏の大会の後に涙ぐんだ俺の頭を撫でてくれたじゃないか。あれが心地よくてな。……だめだろうか。って真顔はやめてくれないか」


「……」


 思った以上に美月の感触が悪かった。

 あれ結構俺にとっては衝撃的だったのだが、駄目だろうか。

 おろおろと挽回のネタを考えていたら、美月が大きく息を吐いた。


「もう! ……いいよ」

「いいのか!?」

「いっぱい触らせてもらったし……それぐらいなら」


 やっぱり美月は最高だ。

 ところであの時と同じように三角座りにした方がいいんだろうか。


 頼むことばっかり考えててシチュエーションを考えてなかった。


「はいどうぞ」


 美月はいつのまにか俺の後ろにまわりこんでおり、そのまま両肩を掴んで後ろへ押し込んできた。

 そして頭が弾力のある何かにあたる。


「これは……大胆すぎやしないか」

「言わないで! 私だって、恥ずかしいんだから」


 美月の柔らかい胸元に頭を乗せ、視線が美月の揺れた瞳と合う。

 美月の両手が俺の頰に触れ、マッサージするように撫でてくれる。


「太一くん、野球部主将おめでとう」

「お、おお。ありがとう」


 すでに次のシーズンは始まっているので、おめでとうと言われるのは今更感がある。

 でも、おめでとうと言われるのは素直に嬉しい。


「じゃあ、主将になって……どう? 何か変わった?」

「そうだな……。副主将の時とそんなには変わらない。けど、3年が抜けたことによって層がかなり薄くなってしまった。練習メニューとか考えるのが難しいな」


「みんなしっかりついてきてくれてる?」

「ああ。だが、3年が抜けた不安感があるようで、相談をされることが増えてきた。大変だよ」


「ふふ、でもしっかり聞いてあげるんだ。太一くんは優しいね」


 おお、美月が頭をしっかり撫でてくれる。

 これ、これ、これ。脳が溶け出してしまいそうな気持ち良さだ。


「俺だって相談したいんだ。でもやっぱりみんなに頼ってくると無碍にはできないし」

「そうだよねぇ。太一くんだってまだ高2だもん。分かるよ」


 肯定されているのがすっごくいい。甘やかしてもらっている感がすごくある。

 しかし、美月も意外にノリノリじゃなかろうか。筋肉触ってる時の顔と同じなんだが……。


「太一くん頑張ってるよ〜。ずっと見てるよ〜。いい子ですねぇ!」


 そういえば、俺は母と離れて暮らしているから。こうやって母さんに甘えたことがほとんど記憶にないんだよな。基本頼る必要なんて何もなかったし、親には反抗ばかりしていたから甘えたことはほとんどない。俺はずっと甘えたかったんだろうか。


 美月に母性を感じているのか。


「なぁ、みづきぃ……おれがんばってるんだよー。もっとほめてくれぇ」

「うん、大丈夫だよ。がんばれ〜、がんばれ〜」


 あ〜IQが溶けていく。


「美月、小日向。有栖院先輩が呼んでる」


「私がずっと添い遂げますからね〜。ぎゅっとしてあげまちゅからねー」

「もっと、もっとあまやかせてくれぇ〜」


「……」


「はっ、鈴菜ちゃん!?」

「ん? げっ、吉田!?」


 IQを取り戻した俺が見たものはとんでもないものを見たような顔をした吉田の姿だった。

 俺は慌てて頭を起こして立ち上がる。尻目に美月も全てを隠すように後ろを向くのが見えた。


「美月、ありがとな。100年の恋も冷めるような衝撃だった。完全に吹っ切れたぜ」


 なんだかその言い方は語弊を生むような気がする。俺が吉田の方へ近づく。


「寄んな、マザコン! きめぇんだよ!」

「誤解だ!?」


 IQ溶けた状態を見られたのは痛かった。

 一応誤解は解けたがこれを機に吉田と距離が開いたような気がする。


 本当に……誤解だったかどうかはあえて言わない。

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