077 ヒロインVS3年のマドンナ
朝は8人みんなでビーチでバレーなどして遊び、豪勢な昼飯を食べてから、各々で遊ぶことになった。
さて、俺はどうするかというと。
「たーくん、久しぶりに遊ぼ!」
3年アイドルが俺の腕を引っ張ってくる。
ほのかのやつ、暇になったから俺で遊ぼうとしてやがるな。
「美月ちゃんやアリアちゃんに構ってばかりじゃなくて、私とも遊んでよー」
「ったく、ただの暇つぶしだろうに……」
「あ、あの太一くん」
そこに現れたのは天使。
白い水着が眩しい美月が遠慮がちに声をかけてくる。
「何かようか?」
「よ、用ってわけではないんだけど」
「鈍いなーたーくんは。私がたーくんを独占しようとしたのを阻止しに来たんだよ」
「ほのか先輩!?」
なんだと。そんな嬉しいことを思ってくれているのか。
ふいに視線を寄せると美月は顔を紅くして別の方向へ目を逸らしてしまった。
「両手に花だねー、たーくん」
「おまえは面白がってるだけだろ」
「これは私か美月ちゃん。選ぶ時が来たみたいだよ」
「美月、向こうで一緒に海でも見ようか」
「待ちなさい」
美月に呼びかけ、2人海岸を歩きながら談笑しようと思っていた所、わりとマジなトーンでほのかに止められた。
「そんなに秒で捨てられるのはショックなんだけど」
「学校ではおまえの方が人気だし、ファンクラブとかあるんだからいーじゃねぇか」
「そういう問題じゃないの! たーくんは別っての、美月ちゃんは分かるよね!」
「ま、まぁ」
「たーくんは回数少ないから分かんないかもだけど、好きでもない男から好かれる気持ち。3桁も告白されると無になるの、分かる?」
「俺が悪かったからマジトーンで言うのやめてくれ」
確かにアリア視点で考えて、俺と悠宇を比較され、秒で捨てられたらちょっと胸に来るものはあるな。
美月も横であーって言っている。2人ともアリアが来るまでトップ争っていたから共有する気持ちはあるのかもしれない。
変に機嫌損ねると後が面倒か。
「じゃあ3人で適当になんかしよーぜ。それなら文句ないだろ」
美月と2人きりになりたいが、元々今回は邪魔が多く、告白をする予定はない。
正直、純粋に遊びたい。水着の美月を堪能したい。
「ふふっ、じゃあ……日焼け止めクリームを塗ってもらおうかな」
「え」「は」
俺と美月の声もそのままにほのかは俺と美月を引っ張っていく。
金持ち御用達のビーチには日焼け止めを塗るための小部屋が用意されている。
屋外にあるもの、全て日陰となっており、砂の上には肌触りの良い柔らかなマットが置かれている。
「じゃあ、私から塗ってもらおうかなー」
ほのかはマットにうつぶせとなって寝転んだ。
……マジで言ってるのかこいつ。
「日焼け止めは朝塗ったんじゃないのかよ」
「日焼け止めは数時間で効果が少なくなるから何回も塗らなきゃ駄目なんだよ」
そういうものか。
俺は野球部の練習ですでに体が黒くなってるから気にしたことはない。
そういえば女性陣は念入りに塗ってたな。
「何も太一くんが塗らなくても……」
「えー、たーくんとってもうまいんだよ。よく塗ってくれるし」
「え」
「嘘をつくな!」
美月の顔が一瞬信じられないことを聞いたかのような顔をして、肝が冷えた。
こいつ……俺をからかって楽しんでやがる。
「試合の時は私が譲ってあげたんだから、今回は私が先だよ」
「むっ、……分かりました」
試合? 何のことだろうか。
え、これ本当に日焼け止め塗らなきゃいけないのか?
ほのかは正直どうだっていいが、流れで美月の肌に合法的に触れることができる?
ならやるしかない。
「モップかなんかで塗ればいいのか?」
「そんなわけないでしょ……私の背中がボロボロになるよ」
面倒だが、手でやるしかない。
どうでもいい女の塗りなどさっさと終わらせて、美月のカラダを堪能することにしよう。
寝転ぶほのかの横に座り、側に置いてあった日焼け止めローションを手に取る。
これで背中を塗りまくればいいのだろう。
「太一くん」
美月にふと声をかけられ、手を止め振り返る。
なんだか美月の様子が変だ。目線は泳いでるし、震えてるし、何か我慢しているようにも見える。
「どうした?」
「ごめん、ちょっと後ろ向くね」
求める回答を得られず美月は後ろを向いてしまった。
何だろうか、悪いことをしてしまったろうかと思う気持ちと裏腹に、ぷるぷるのお尻に目がいってしまうのは申し訳ないと思ってしまう。
「嫉妬かな〜。可愛いなぁ」
「何か言ったか?」
「な〜にも。じゃ、たーくんお願い」
何でもいい。さっさと終わらせよう。
ほのかの背に触れるその瞬間。
ピピーーーっ!
「おわっ」
突如鳴るアラーム音。ほのかの髪につけている髪飾りから鳴っているようだ。
確かこの音は呼び出しだったか。麗華お嬢様がほのかを呼ぶ時に使用する連絡方法である。
この音が鳴った時のほのかは……。
「っしゃっ!」
立ち上がる。
「ごめんね〜。お嬢様が呼んでいるから行かなきゃ、じゃあね〜。ほのかが今行きまぁす!」
顔を紅潮させ、待ってましたと言わんばかりにほのかのテンションは爆上がりする。
俺はよく見る光景なので気にしないが美月はさすがにえーって言いながら唖然としていた。
天童ほのかにとって俺や美月との触れ合いは本命の側にいられない時の暇つぶしでしかないのだ。
「ほのか先輩って……」
「あいつの発言の7割は適当だから話半分でいいぞ」
美月は愛想笑いをする。
さて……ここからが本番だ。俺の両手に残る日焼け止めクリーム。
このクリームの行き先を決めなきゃいけない。
「美月」
「はい?」
「よかったら……どうだ?」
俺は両手を上げて、手のひらの様子を見せつけてみる。
さぁ……美月。どう答える。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
念願の日焼け止めクリーム、塗り塗り体験ができるのかどうかは次回に続きます。