075 プライベートビーチ
某県の海岸部にひっそりとあり、地図上にも載っていない極秘の場所。
それが有栖院本家のみが使用できるプライベートビーチである。
当然俺なんかが不用意に入れるわけでもないし、親族であるほのかですら許可なく入ることは許されない。
超上級国民御用達の避暑地がそこにはあった。
「こんなのあるんだねー」
質の良い白い砂浜、エメラルドに見える清い海原。心地よい波の音は心が軽やかになることだ。
これほどのものを一般公開したのであれば名所となることだろう。
隣で呆けた声を出す星斗とビーチパラソル、チェアの設営をする。
「もう、腕は大丈夫なのか」
「ん、かすり傷だったしね」
かすり傷ではなかったが、本人はかすり傷としたいのだろう。
水着になっているため傷の度合いを見ることができる。
すでに包帯は取れており、傷の跡は残っていない。
本格的な投球練習はまだできていないが恐らくすぐに従来通りに戻るだろう。
それよりふてくされている後ろの男。
「だまされた……。だまされた……」
「どうした悠宇」
「男同士で旅行って聞いてたのに……、騙された」
俺と星斗は顔を見合わせる。
「俺と星斗と悠宇と他数名の旅行じゃないか」
「男より女の方が多いよね!?」
元々麗華お嬢様の要望は美月と吉田の2人だけだが、アリアが望んだことで星斗、悠宇の参加が許された。
俺としても女性ばかりは正直しんどいし、ありがたい。
星斗はタダメシで釣れば簡単だが、悠宇は女を入れると途端にビビり腰になるので騙して連れてきた。
何百人は遊べそうなビーチを8人で独占できるなんて有栖院のご威光はやはりすごいな。
今回はお嬢様の戯れに付き合うとしよう。
「設営ご苦労。やはり男達を連れてくるとはやいな」
「麗華お嬢ってうお!」
「おー」
「ぶほっ!」
悠宇が鼻血を出してぶっ倒れたぞ。
麗華お嬢様はワンピースタイプなんだが、胸元はがっつり開いてるし、肩も足も見せてるし、これで歩いていたら痴女だろと思うレベルだ。
元々麗華お嬢様は170近い長身と豊満な体つきをしており、名家有栖院グループの血筋を証明する完璧な肢体をしている。
「ふふ、星斗くん。どうかな」
「かんぺき」
「そうか、そうか」
麗華お嬢様は満足したように微笑む。自分の身体によほどの自信がなければこんな水着は着ない。
俺はこの女の腹黒さが嫌なので見惚れはしない。
「太一、この間みたいに麗華姉さんと言ってくれないのか?」
「美月と吉田を誘って義理は果たしただろ」
「たーくん、お疲れ様。はい」
麗華お嬢様の後ろからほのかがにょっきと現れた。
手に荷物を持っており、そこから取り出したスポーツドリンクを渡される。
「サンキュ」
「もう、私には何かないの?」
ほのかは淡いピンクのビキニだが、胸元をベールで隠しているのは可愛らしさなのか自信の無さなのかあえて言わない。
ただ、しゅっとした長い手足の真っ白な肩は確かに見事なものだった。
俺で無ければその美に男たちは興奮したことだろう。
「まっいいんじゃないか」
「それだけぇ?」
ただ、褒めると付け上がるので必要以上に褒めたりしない。
「たーくんに言ってもそーいう反応をされるのはよく知ってるしいいけど……んじゃこれはどうだ!」
すると後ろを向いて、何やら小さいものを前に飛ばしてきた。
その小さいものは急に動かされたこともあり、大慌てでじたばたしていた。
……小さいというのは失礼だな。野球部マネージャー吉田鈴菜が何とも恥ずかしそうにこちらを見る。
吉田はほのかと同じように胸元をベールで隠しており、違う所はホットパンツを履いているということだ。体の要点をできる限り隠しているが、それでも魅力的なポイントを押さえている。
小柄な吉田がこのような水着を着るのは何とも珍しいというか……。
「妖精みたいだな」
「なっ! 何言ってんだてめぇ!」
口は悪いが、顔は真っ赤にして叫んでくる。
しまった。本音が口からぽろっと出てしまった。
普段部活用のジャージとか制服しか見たことないから目新しくてとてもいいな。
「鈴菜ちゃんかわいーでしょ!」
「ほのか先輩、うらむっすよ……」
吉田は顔を真っ赤にさせながら再びほのかの後ろに隠れてしまった。
年上女子にかかれば野球部の裏ボスも形無しだな。
さて……そろそろ真打が来るか。あ、妹は正直どうでもいい。
「太一、僕は限界かもしれない。目のやり場が……」
「アリアのやつ、おまえに見せるって張り切ってたぞ」
「じょ、じょ、冗談だよね!?」
「美月くんもアリアも魅力的だぞ! ハハハ」
ドすげー水着着てる女が意気揚々と笑っている。
許嫁はいると聞いているが、この女を娶る器量を持つ男が本当にいるのかよって思うな。
麗華お嬢様がちらりと男性陣を見る。
「太一を筆頭に皆いい身体しているじゃないか。星斗くんにそして……えっと名前なんだっけ」
「浅田悠宇です! まだ名前覚えられてない!?」
「アッハッハ、名前を覚えるのは苦手でな! まぁ気にしないでくれたまえ」
こりゃ覚える気ないな。
有栖院麗華は自分が気に入った人物しか認識しない。
どれだけあの女に尽くしたしても、お気に入りでなければ覚えられることはないのだ。
麗華のお気に入りの男は俺と星斗だけ。あの女が学生時代、どれだけの男を泣かしてきたか想像しやすい。
「お待たせしました」
真打ち来たァァァッ!
2章 君と結婚したい 始まります。
今回は夏のバカンス編7話分を更新します。
宜しくお願いします。
新作を投稿しましたのでこちらも応援頂ければと思います。宜しくお願いします。
2作とも同じ時期に終盤を迎えると思いますので合わせてお楽しみ頂ければと思います。
ラブコメ主人公の真の仲間に相応しくなかった俺が、甘えん坊で口ベタな後輩に出会って報われるまで
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