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069 朝宮美月は彼に会いたい

 野球の知識は人並みくらいだ。

 太一くんがずっとやっていたし、離れて暮らしていた弟の星斗も中学生になってから始めたと聞いている。

 こうやってマネージャーになって堂々と応援できるようになったから1回戦からの3試合、必死に応援をしてきた。


 だけど……素人が見てもこの点差は絶望的だった。


 1回表に7点を取られ、2回表も6点を取られてた。

 観客席も諦めのムードが漂っている。必死に盛り上げようと応援歌を奏でるけど、こちらの打線は1ヒットすらなかなか出なかった。


「我が野球部はここまで差があったのか」


「有栖院先輩」


 意気消沈する観客席に現れた高級感溢れるスーツを着こなす美女。

 真夏にスーツを着こなすなんてすごい人だ。隣で日傘をさして先輩を日差しから守ろうとするほのか先輩も側にいる。


「やっほー美月ちゃん」

「2人とも来て頂けたんですね」


 手を振って挨拶してくれるほのか先輩は手足がすらっと細くて超うらやましい。

 やっぱり夏服がすごく似合う。


 正直な所、灼熱の真夏の大会に来てくれるなんて思ってもみなかった。

 もちろん、事前に先輩から差し入れで飲み物が配布されて、十分それで義理を果たしていると思っていたけど。


「アリアちゃんの姿が見えないけど、来てないの?」

「こっちの方には向かってると連絡はあったのですけど……」


 ほのか先輩の問いに答える。

 試合前には間に合わせるって連絡はあったんだけど、それからまったく音沙汰無い。

 何かあったんだろうか……。


「よし」


 有栖院先輩が大きく頷く。


「これは抜本的な改革が必要だな。ほのか、どう思う?」

「そうですね。例えば、弱小校は弱小校としか練習試合が組めないと聞きます。それではいつまで経っても強くなれませんよね」


 強豪校はさらに上に行くために強豪校と戦って力をつけていく。

 神月夜学園は弱小野球部だから同じ地方の同じくらいの実力しかない学校としか練習試合が組めないって鈴菜ちゃんが言っていた。


「ならばプロジェクトチームを作ってみるか、初期能力の低い野球部が強豪校を打ち破るプロセスを今年の課題にしてみよう」

「予算はすでに組んであります。たーくんが3年の夏に成果を出せるようにスケジュールを設定しましょう」


 何か金持ちがお遊びでとんでもないことをしようとしている。


 太一くん、あなたのお姉さん達が暴走し始めてるよ!

 私には止めることなんてとてもできないけど!


 野球の試合は進み、5回の裏2アウト。打席には太一くん。

 満塁のこの打席でうまく打てばコールドゲームを阻止できる。


「太一くん、がんばれ!」


 外野席でこの声が届くわけがない。

 でも、少しでも力になればと声を出し、そして応援歌の演奏に入る。


 ずっと見てるよ。

 太一くんが言ってくれた、俺を見てろよ! って言葉忘れていないんだから。


 だけど、現実は無情だ。

 3球3ストライクで試合は終わってしまった。


 観客席からも落胆の声が聞こえる。

 悔しい……。私もマネージャーとして入部してからそんなに時間が経ってないけど、太一くんを含めてみんなすごく練習をしていたから悔しく感じる。


「ねぇ美月ちゃん」


 ぽんと肩に触れられる優しい手。


「多分、たーくん、落ち込んでると思うから行ってあげて」

「……いいんですか?」


 ほのか先輩はにこりと笑った。


「遊園地の時に言ったでしょ。大事なのはたーくんの気持ちじゃなくてあなたの気持ちだって」


 そうだった。

 私はそのために料理もマネージャー業も……そして英語も頑張ってきたんだ。

 もし私がここで気張らないのであれば……太一くんと結婚できない。


「残念だけど私じゃたーくんを慰めてあげられないしなぁ。おねーちゃん悲しい」

「……分かりました。私、行きます!」


 太一くんの所へ行こう。

 本当に落ち込んでいるかは分からないけど、彼に会いたい。


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