066 痴態広げられる
「今日もいっぱい運動したね~」
あの始まりの日からほぼ毎日俺と美月はトレーニングを行っている。
ふいに見える肉付きの良い白い手足に目映いほど可憐な表情。耳心地の良い声に俺は癒され続けていた。
公園でストレッチなどして美月の柔らかな肌に触れるなんてまさにボーナスステージじゃなかろうか。
背中も何というかふかふかなんだよな。早く思いっきり抱きしめたい。
美月の家に戻ってきた俺達は夕飯のエビフライの調理を行う。
汗をかいたことから美月はお風呂に入るんじゃないかと淡い期待をしていたが……さすがにそこまで無防備にならない。
短パンとTシャツでの格好でも十分眼福だが、お風呂上がりという色気を求めてみたい。
美月はクーラーの温度を下げて部屋を冷やしていく。
「美月も相当安定してきたな。体力はすぐには難しいが、走るフォームとかキャッチボールとか立派なもんだ」
「ネットで勉強したからね。家にいる時もしっかり筋トレやってるんだよ」
かなりモチベーションが高いようで、美月は積極的に運動を行っている。
家には鉄アレイなど筋トレグッズもあるようでかなり活用してるようだ。
「ごめん、プロテインタイムだからちょっと待ってて」
しかし、これはのめり込みすぎじゃなかろうか。
でも美月は姿勢もよくなったし、体もどこかしらしゅっとしてきたような気もする。
初めて2週間ほどだというのに……美月は本当にやればできる子なんだなと感じる。
「太一くん、今度ジム行こう! もっと鍛えたい!」
「お、おお。夏の大会が終わったらな」
筋トレってのはモチベーションが高い時こそ効果がはっきり出るもの。
美月の気合いがいつまで続くか見物だな。
「このお腹のお肉を何とかして取り切らないと……」
「そんな気にするほどなのか?」
「むー、太一くんはほのか先輩やアリアちゃんを見なれているからあれが普通だと思っているかもしれないけど」
「見なれてねーよ」
さすがの俺もそんな姿は見ていない。アリアはともかく、ほのかはあれでスレンダーな所を気にしている。
細いなりの苦労があるようだ。
男の俺にはよくわからんし、つっこんでやぶ蛇になるから何も言わないけど……。
「俺は多少肉がある方が好みだけどな」
「え、ほんとに?」
美月はさわっとお腹の方に触れる。触ったことがないから何とも言えないけど、低反発のまくらとかも気持ちいいものだし、ある程度反発幅があった方が魅力的ではないだろうか。
俺がじっと美月のお腹まわりを見ていると……急に隠すように手で押さえた。
「……。見たい?」
「見たい」
俺は美月の目を見て言葉を返す。
たじろぐ姿勢を見せつつ、美月はじっとりと言葉を出す。
「……み、見せてあげてもいいけど私だけってのはダメだよ! 太一くんも……見せてくれないと!」
「脱いだ」
「はやいよ!?」
俺の裸見せるだけで美月のおなかを見せてもらえるなら安いものだ。俺はちゃんと鍛えているから、見られて恥ずかしい所など1つもない。
俺は美月の側に近づいて、屈み、顔を思いっきり美月のおなかに視線を向けた。
「ちかくない!?」
「気にするな」
この目に焼き付けるんだ。
美月はゆっくり、ゆっくりとTシャツの裾に手をかけて、ゆっくりとめくりあげた。
白くてぷるぷるの……腹部が露わになる。
あ、これやばい。俺はおなかフェチだったのかもしれない。
「美月、触ってもいいか?」
「さ、触るの!?」
「綺麗だ……とても綺麗だよ」
「そ、そう?」
俺の視線はすでに美月のおなかしか見えていない。
美月が今、どんな顔をしているか分からない。
俺は片手を上げ、そのぷるぷるのおなかに手をかけた。
「はぁ……はぁ……太一くん、ほらっ……私のを……見て」
「み、美月。触るぞ……今、触るからな……」
「……これはないわー」
「不潔!! 不潔!! 不潔ですぅぅーーーー!」
「おわあああ!? アリア!? 星斗!?」
後ろから放たれる大声に心臓が飛び出るかのように驚いてしまう。
いかに美月のおなかにある小さくてかわいらしいおへそに集中していたかよく分かった。
あとちょっとで触れたというのに……。
美月は慌てて、シャツの裾を下に降ろし……この至福の時はお預けとなった。
◇◇◇
「まったくもう! もう!」
夕刻。あの騒動の後、久しぶりに4人揃って晩ご飯を食べることになる。
今日の晩飯のメインは朝仕込んでおいたエビフライだ。
アリアはご立腹といった所、揚げたてのエビフライを食べながら憤っている。
美月は女性としての身だしなみを怒られ、俺は普通に最低ですと罵られた。
こうやって怒られてしまうと何か恥ずかしいことをやった気分にさせられる。
お互いのお腹を見合っただけだというのにそんなエロティックなもんだろうか。
美月とも気まずくなり、視線を合わせられない。
「んでせんぱいとねーちゃんどっちから迫ったの?」
隣に座るコイツは遠慮なく聞いてきた。
「……俺から」
「ねーちゃんからか」
エビのしっぽまで律儀に食う星斗は少しニヤニヤ顔で俺を見る。
コイツ最近洞察力が増しているように感じる。少し言葉に詰まった所を見破られたか。
「先輩ったらもう! 淫乱なことしたらダメです!」
「淫乱!? そこまでじゃなくない?」
アリアの言い方も言い方だろう。
次第に風紀が乱れてるなんていいそうだ。
「まだ未成年なのにえっちなことはいけないと思います!」
「ふーん、でもアンタ、ねーちゃんと一緒でスケベな小説とか読んでそうじゃん」
「美月先輩と一緒にしないでください!」
「2人して私をディスるのやめてくれない!?」
スケベなのは否定しないんだな……と言いそうになったが睨まれそうなので何とか口を押さえて耐える。
しかし騒がしいことだが……わいわいしながら晩メシを食うのは悪くないよな。
「せっかくお腹まわりが縮んだんだし……自慢してもいいと思うんだけど」
「そういうものですか?」
「アリアちゃんって……どうやってその細さを維持してるの?」
「何もしてないですよ」
アリアはあっけからんと言う。
「アリアは太らない体質なので、いくら食べても太らないです」
「ほぅ」
美月の声に怒気が含まれる。それは言っちゃいかん話だ。
「いいなー細いな。こんなに頑張ってるのに……アリアちゃんより太いもんなぁ」
そんな感じで美月がいじけてしまった。
運動ってのは楽しい側面成果が出ないと疲れるものに変わってしまう。
アリアの手足は痩せている細さではなく、綺麗な細さである。皆が憧れる体型だ。
男の俺ですらその細さは皆が憧れるんだろうなと感じる。
「アリアちゃんってスリーサイズどうなの? カップ数は?」
「え! ……もう、言わないでくださいよ」
言い過ぎたことを気にしてかアリアは美月に素直に耳打ちで話そうとする。
こちらをちらちら見ているのは男に聞かれたくないからだろうな。
アリアに耳打ちされ、美月の目がカっと開く。
「胸は私の方が1センチ勝ってるのになんでカップ数負けてるの!?」
「ちょ、何でそんな大声で言うんですか!!」
「アンダーか! アンダーがやっぱ細いのか!」
何だかあまり聞いてはいけないようなことが耳に入ってきた気がする。
「星斗」
「ねーちゃんはE70のブラ付けてるよ。よくリビングに落ちてる」
そうか、そういうことを聞きたいんじゃないんだが……。
「よくやった。弁当のおかずを増量してやろう」
「やったぜ」
俺と星斗はハイタッチをして喜びを噛みしめた。
「ちょ、兄様も美月先輩を止めてください!」
「アリアちゃん、ちょっといろんなとこ触らせてくれない?」
「やん! ど、ドコ触ってるんですか!」
「せんぱい」
アリアの乱れた姿に何の興味もないので視線を星斗に向ける。
「いよいよ……明日だね」
「ああ……3回戦だな」
夏の大会はすでに始まっている。
地区大会、1回戦、2回戦はクジ運のおかげで相手が弱小校だったため何とか勝利することができたが……次の3回戦はシード校との戦いとなっている。
甲子園出場を何度もしている強豪校だ。正直、今の神月夜学園では……ほぼ勝ち目がない。
いくら星斗が抑えたとしても……野球は点を取れなきゃ勝てないんだ。
明日負ければ3年生は引退。今年の夏は終わってしまう。
……負けたくないな。まだ先輩達と野球がしたい。
「エビフライも食ったし、オレ、明日がんばる!」
「期待してるぞ。張り切りすぎて寝坊すんじゃねーぞ!」
「だいじょーぶ!」
こうして……英気も養い、夜も更けていく。
明日は勝負の日だ。
「腰ほっそ! 腰ほっそ!」
「やぁん! もうやだぁ……!」
翌日。
星斗から連絡が入る。
「せんぱい、寝坊した」
「バカかおまえは!?」