表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/100

065 counter

 アリアと星斗は並んで下校をする。

 学年一とも言える美男美女の2人が歩いている様は道行く人々に強い印象を与えていた。

 容姿だけで見れば極めて理想的なカップルと言えるだろう。


 しかし、実際の所、2人の仲は良くない。


 アリアはちらっと星斗の方を見る。


(こう見るとほんと美月先輩とそっくりですね。年子なのにまるで双子のようです。双子でも全然似てない姉妹がいるというのに……)


 アリアは離れて暮らす双子の妹のことを思い出し、すぐに意識を星斗の方へと戻す。

 今度は星斗ではなく男子という点に着目していた。


 男子がどのような思惑でアリアに近づいているか彼女は気付いている。

 自分の恵まれた容姿が幾多の男子の情をかき立てていることをアリアは理解していた。

 しかし、隣で歩く男、夜凪星斗はまったくといっていいほどアリアに反応しない。まるで女と思っていないのではないかと思うくらいである。


(やはりこの人、女性に興味がないのでは……? 兄様を慕っているというのはフリで実は愛していて、兄様と美月先輩とこの人の三角関係!?)


「オレに変な目線向けるのやめてくんない」

「変ではありません。至高のひとときです」

「……絶対ロクでもないこと考えてるだろ」


 星斗とアリアは信号が赤に変わったため立ち止まった。


「……新しい友達出来たみたいじゃん」

「そうですね」


 神月夜学園で長らく友人のいなかったアリアだったが、あることがきっかけで同性の友人が出来た。

 まだ距離感はあるものの、お昼一緒に食べて、休憩時間に話をするほどの仲になっている。


「あの出会いも……あなたの差し金でしたっけ」

「差し金って……人聞き悪くね」


 アリアが友人を得るきっかけは本であった。

 読者家であるアリアが教室で本を読んで過ごしている時に同じ著者が好きな女の子達に話かけられたのが元である。


「2人ともあなたに話かけられてドキドキしたって言ってましたよ。随分おモテになるようで……」

「別に……アンタがウチで読んでた本とそいつらが読んでた本が一緒だったから気になって声かけただけだし。実際に友人が出来たかどうかはアンタがどうにかしたからだろ」

「共通の趣味の友人が出来たことは嬉しいです。素直に感謝します」


 信号が青になったため再び2人は歩き出す。

 横断歩道を渡りきった後、アリアは立ち止まった。


「ああ、もう!」


 アリアは星斗の制服を思いっきり引っ張った。

 いきなりの行動に星斗も成す術無く引き寄せられる。


「なんだよ!」


 怒りの感情を含んだ星斗の声にアリアは動じず、星斗の制服のシャツを正し始めた。


「まったく……袖口は曲がってるし、ボタンも外れてみっともない。そんな恥ずかしい格好しないでください」

「アンタには関係ない」


 アリアは気になる所を全て正し、ポンと星斗を押し出した。星斗は後ろに下がって立ち止まる。


「兄様と美月先輩が……親密になったらアリアもあなたと無関係ではなくなるので」


 アリアは前へ進み、星斗を横切った。


「そんなこともわかんないのかよー」


「むっ」


「ふふっ」


 アリアは口元を緩ませて、お返しとばかりに緩やかに声をかけた。

 その言葉にはさきほどまでの怒気は感じられず……そして作ったような白々しさもなかった。


()()()()は本当に仕方のない人ですね」


 星斗は少しだけ悔しそうに頭をかいて、声を漏らし、アリアの後を追った。



 ◇◇◇


「もし、兄様と美月先輩がお付き合いされたらあなたはどう思うのですか?」

「どうって?」

「大事な大事なお姉様を奪われて……さぞかし悔しいでしょう」


 アリアは少しだけ演技っぽく、挑発するように声をかけた。

 もちろん、星斗がシスコンではないことを見抜いているがちょっとだけ試してみたいという意図もある。


 そんなおふざけた言葉に星斗は小さく鼻で笑った。


「ねーちゃんをもらってくれるなら大歓迎でしょ。オレも長く一緒にいたわけじゃないからポンコツのねーちゃんしか知らなかったけど」

「……美月先輩は時々、想像を超えた動きをされますからね」

「それがせんぱいのおかげであんなにまともになるなんて……やっぱせんぱいはすげーよ」


 星斗は姉のポンコツ改善を自慢っぽく語る。先輩である太一に対しての尊敬が見て取れた。

 本当に兄を尊敬しているのだなとアリアはそんな星斗の姿をまじまじと見つめる。


「で」


 星斗は話を打ち切るように反転の言葉を述べる。


「アンタはどうなんだよ」

「そうですね……」


 アリアの視線の先には美月と星斗が住むマンションが見えてきた。

 恐らくこの話題で会話は終わりとなるのだろう。

 アリアは手を胸に当てた。


「お付き合い自体は賛成です。ただ……結婚まで行くのであれば正直な所、あまり推奨はできないですね」

「ふーん」


「兄様には小日向家の長男として家を支えて欲しいです。名家有栖院の親族の者と結婚すれば小日向家はさらに大きくなります」

「お家問題ってやつかぁ」

「例えばほのかお姉様と結婚すればお家問題はわりと丸くおさまるのではないのでしょうか」

「あーあの3年のきれーな人かー」


 深く考えていないような言葉だが、少しだけ言葉に力が入っているように思う。今まで星斗と言葉を交わしてきたアリアだからこそそれは感じた。

 アリアは言葉を続ける。


「個人の意思だと……好きな者同士がお付き合いし、結婚するべきなのでしょうけど」

「ってか、初めてねぇちゃん会った時、ねぇちゃんをせんぱいの嫁候補にしたって聞いたんだけど」


「……実は出会って間もなかった兄様とコミュニケーション取るために利用しただけだったのですよ。兄様の嫁を作るって豪語すれば兄様もアリアを無視できないと思いまして」

「それでねーちゃんってどんな確率だよ」


「優しくて、美人で兄様に詳しかったから仕方なかったのですよ……」


 ベストな人選のつもりだったが、本気で両想いの関係だったとはさすがのアリアの予測を超えていた。


「……んで」

「何ですか」


 マンション1階のエントランスにようやく到着する。

 星斗とアリアは入り口の電子ロックを解除してエレベータに乗り込む。


「アンタは悠宇せんぱいに声かけてんじゃん。それはいいのかよ」

「……麗華お姉様から今後のために男を知っておけと言われているのです」

「じゃあ悠宇せんぱいと結婚すんの」

「それは……」


 好意は持っていても、正直結婚なんて考えられるはずがない。まだアリアは15歳の女の子だ。

 太一と美月のようにまるで交際=結婚みたいに見える関係をアリアは初めて見たと言ってもいい

 だが、将来の主君、有栖院麗華は上流階級の人となる。そうなるとアリアも必ずしも無関係ではいられない。火遊びも……大きくなると色んな所に飛び火していく。

 今、想いを寄せる浅田悠宇をそっちの世界に引っ張り込むなど到底できないのだ。


「分からないです」

「そりゃそーか」


 エレベーターを降りて、すぐ近く、美月と星斗の家の玄関の前へ到着した。


「……」

「アンタに悩んでる顔は似合わないよ」

「え、もしかして励ましてるつもりなんですか?」


「しらね」


「(ふーん、何だちゃんとかわいい所あるじゃないですか)」


 大嫌いなのは変わらない。

 でも少しだけ星斗の内面を知ることができて、アリアは思わず口が緩んでしまった。


「(あの……遊園地での姿はやっぱり嘘ではないのですね)」


 なぜ、アリアにだけここまでぶっきらぼうなのか、未だに分からないが……それでもいいとアリアは感じ始める。

 自分を偽らずありのままの言葉をぶつけることができるなら変わらないでいて欲しいからだ。

 アリアに取ってそれは兄でも麗華やほのかという姉的人物でも出来ない。


「夜凪さんそのままでいいと思いますよ」

「ふん、……ただいま」


 険悪だった人物との交流を経て、アリアの心を満足していた。

 これで今日の晩ご飯であるエビフライも美味しく食べられる。そんなことを想い、リビングに足を踏み入れた。


 そこで……、


 見た光景は……。


「はぁ……はぁ……太一くん、ほらっ……私のを……見て」

「み、美月。触るぞ……今、触るからな……」


 とんでもない光景が目の前で広がっていた。


「……これはないわー」

「不潔!! 不潔!! 不潔ですぅぅーーーー!」


 2人の兄と姉が痴態を繰り広げていたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ