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059 俺の奥さん(予定)

「うーむ」


 期末試験が終わり、夏の大会まであと少しとなった。

 部活動もこれまで以上の忙しさとなったため、美月や星斗への朝飯と昼の弁当は少しお休みをもらおうと思ったんだ。


 しかし……これまで通り俺は朝、美月の家へ向かっている。

 その理由はコレである。


「あ、太一くん、朝ご飯できてるよ」


 エプロン付けて、みそ汁をかき混ぜてる美月が声をかけてきた。


 奥さんかな。


 すっかり料理技術の上がった美月によって到着する頃には朝ご飯がしっかり出来ていた。

 おまけに野球部の状況を知っているため美月は俺の負担を考えてくれ弁当も3人分準備していた。


 完璧な奥さんかな。


「今日の卵焼きはどうかな。食べてみてもらっていい?」

「ああ」


 美月が小皿に置かれた卵焼きを箸で掴んで、俺へ差し出す。


「あーん」


 かわいい美月にあーんしてもらえるとかもう興奮が止まらないんだが。

 しっかり出汁の取れた卵焼きは非常に美味で俺が作る卵焼きとそう大差はない。


「すごく美味しい。ほんと上手くなったな」

「継続は力だね! もう何でも作れちゃうよ」

「美月はスゴイな。料理を教えた側として誇らしいよ」

「そ、そう? やったぁ」


 美月は誇らしげに笑う。

 自信に満ちた顔も実にかわゆい。

 料理に関してあれだけポンコツだったというのに、いったいどこへ行ったのか。


「こうなってくると俺がここへ行く意味が無くなってくるな。晩飯は一緒に作るとしても朝と昼は……」

「だ、ダメだよ。まだ味見とかしてもらいたいの。毎日来てくれなきゃ困るもん」


 少しだけ躊躇した顔で美月は語る。

 俺だってそうだ。美月の家へ毎朝来て一緒に朝食を取って通学したい。


 やっぱり遊園地、期末テストの件を経て俺と美月はもう恋人の関係一歩手前まで来ていると自覚できる。

 美月の気持ちが俺と一緒であれば引き留める理由も分かるというものだ。


 しかしタイミングが悪い。

 どうにか告白をしたいが……せめて夏の大会が終わるまでは次のステップに進めないか。

 好きだと言ってさっさと告白してもいいんだけど……せめて何か相応しい場が欲しいんだ。


「せんぱいおはよ」

「おう」


 星斗も俺がしっかりと食育を行っているため体付きが良くなってきた。

 まだ夏の大会を投げきる体力はないかもしれないが、来年はいい感じにいけるかもしれない。


「……アイツ、最近見ないけど……どうなの」

「アイツ? ああ、アリアのことか」


 頭をポリポリ書きながら星斗は小声で口走る。

 朝食をテーブルに並べている美月がこちらを向く。


「せーくんもアリアちゃんが心配なんだ」

「……。そうかも。オレのせいで自信満々の試験1位宣言をコナゴナにしちゃったから。ドヤ顔でオレには負けませんって言ってたアイツに申し訳なくて」

「まったく申し訳なさそうなセリフじゃないな」


 だけど星斗はじっと俺を見ている。

 言葉では強がっていても……ってやつだろうか。

 あの時やりすぎてしまったことを反省している感じにも見えた。


「最近は俺も会えてねーんだ。おまえも知ってるように部活にも来てないからな。屋敷だって広すぎて呼ばなきゃ会うことなんてねぇ」

「そう……」

「あいつは何だかんだ俺と一緒で負けず嫌いだ。心配なんかしなくても大丈夫だ」

「心配なんてしてないし……」


「私はかなり心配なんだけど……いろんな意味で」


 美月の視点だと分からなくもない。部活のこと、弟がしでかしたこと。気が気ではないのだろう。

 アリアはあれで本当に頑固な子だ。ちゃんと吹っ切ってくるだろう。


 そんなこんなで日はどんどん過ぎていく。


 毎日、毎日俺は朝と夜に美月の家へ寄る。

 夏の大会前は夜遅くまで練習するので女性マネージャーは校則の関係で先に帰らされてしまう。

 なので美月は先帰って、俺と星斗が家に着くたびにエプロンを付けた美月が出迎えてくれるんだ。


「太一くん、今日はすき焼きだよ!」


「太一くん、今日は唐揚げだよ!」


「太一くん、クッキー作ったよ!」


「太一くん、おそば一杯ゆでたよ!」


 毎日、美月の作った料理を食べ続けたそんなある日の夜。

 美月の作ったナポリタンを食べている俺と美月、星斗はゆったりと話をする。


「最近、カルボナーラを練習で良く食べているの。ソースをもうちょっと改良したくて、なかなか上手くいかないね」

「卵とチーズの量はどうだ? 上手く出来ているか」

「えーっとね」


「ねぇ」


 パスタをゆっくりフォークで巻き付けて食べていた星斗がこちらを向く。


「どうしたのせーくん」

「ねーちゃんってさ」


 そう、次の火種はわりとすぐに迫っていた。

 俺も美月自身も……料理の上達が嬉しくてまったく気付いていなかったのだ。


「太った?」


 美月の手に持ったフォークがカランと音を立てて床へ落ちてしまった。

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