057 試験前
4人仲良く帰っている帰宅途中、話は夏の大会や期末テストの方へと進んでいく。
「期末テストが終わった後はいよいよ夏の大会ですね。兄様達がどこまで勝ち抜けるのか楽しみです」
「状況は悪くはないが……どうだろうな」
戦力的には整ってるし、ピッチャーとして星斗の成長もいい感じになっている。
去年以上の成績を出すことができるんじゃないだろうか。
「試合楽しみだな~」
「その前に期末テストだ。それで星斗、大丈夫なんだろうな。赤点ばかりだと補習で試合に出られなくなるぞ」
「それなりに頑張る」
それなりじゃ駄目なんだが……星斗の成績ってどうなんだ?
その横で美月がアリアに声をかけていた。
「アリアちゃんはどうなの? 女学院も結構難関だったんだよね?」
「ええ、安心ください。女学院では常に学年一番を取っておりました。この学園に来てからも小テストはいつも満点ですよ」
「すごーい!」
あの麗華お嬢様がわざわざ引き抜いてくるわけだからな。
元々アリアは学力優秀な才女だ。特に疑問に思うこともない。
神月夜の学力レベルはそこまで高くないということもある。
「アンタの場合、油断してすぐ足をすくわれそうだよね」
「むっ、そうなったとしてもあなたではありません! あなたにだけは負けませんし」
「ふーん」
売り言葉に買い言葉。
悠宇はケンカするほど仲が良いと言うが……本当だろうか。
「兄様はどうなのですか?」
「まぁそこそこだな」
神月夜学園では5教科総合成績のトップ30を学年別で張り出される。
俺は一応そこの常連だ。
初めは別のもうちょっと上の高校に行くことも最後の最後まで考えていたが、美月が神月夜を受けるって聞いて選んだんだよな。有栖院の息もかかってたし、今思えばちょうどよかった。
「太一くん、前回の中間テストでは4位だったもんね。すごいよ」
「よく知ってたな」
「……ずっと見てたから」
やばい、嬉しい。
順位とか正直どうでもいい。美月が見てくれていることが何より嬉しかった。
「美月先輩はどうなんですか?」
「ぐぇ」
奇妙な声が美月の口から出る。
「200……190番くらいだよ」
さばを読んだな。正直30位以下の順位は分からない。平均順位下の成績だったとしてもちゃんと勉強すれば順位は上がっていくものだ。
「……太一くん」
手を口に寄せ、美月は少し考えたそぶりを見せる。
「なんだ?」
「いっぱい、いっぱい教わってるのに悪いんだけど……もしよかったら勉強を教えてもらえない……かな」
「ああ、それくらいなら別に構わないぞ。俺も試験勉強はするし、晩飯後に少しやってくか?」
「ありがと! 助かるよ」
「アリアはあなたに教えませんからね」
「期待してねーよ」
兄と姉はこうだというのに年下勢は駄目だな……。
まぁ仕方ない。
「しかし、テストまであと1週間。劇的に成績を上げるのは難しいな。教科を絞ってみるか」
「うん、だったら……英語がいい」
「英語?」
美月は頷いた。
「私、英語を勉強したい。今、赤点ギリギリだけど……しっかり勉強して覚えたいの」
「なんでまた……」
美月はその問いにじっと俺の顔を見つめる。
「……言えない」
「深くは聞かないが」
美月にもやりたいこと。将来のビジョンがあるのかもしれないな。
俺が英語が得意な方だ。昔、有栖院家の力で無理やり覚えさせられたおかげで英語でのコミュニケーションもそれなりに取ることができる。
美月が習得できるなら英語圏への海外旅行もありだな。プレ新婚旅行と名付けよう。
「頑張る! 絶対に頑張るんだ!」
ただ、その意気込みがどこから来ているのか……。
ちょっと気にはなる。
そして各々試験勉強を進め、日にちはあっと言う間にテスト1日目となった。