053 求めていた幼馴染とチガウ
ホラーワールドを幼馴染であり、親友の悠宇と進むことになる。
「ホント助かったよ。有栖院先輩、天童先輩、朝宮さん、妹ちゃんと2人きりとか絶対無理だし、吉田さんも一応女の子だから2人きりはあんまりね」
悠宇とは幼稚園の年中からずっと一緒だった。確率で言えば12年一緒にならなかった美月よりもよっぽど高いわけだ。
「本人が聞いたらキレられるぞ。ああ、星斗は駄目なのか?」
「……星斗と2人きりで居心地悪くないのって太一だけだよ、ほんと」
星斗は歯に衣着せぬ物言いをするからな。同年代ならともかく、2年、3年だと意外に苦手意識を持っている人が多い。
あのマイペース男は何考えてるか分からん所があり、会話が成り立たない所が多い。
「有栖院先輩が吉田さんだっけ」
「吉田がもみくちゃにされそうだな」
「あとは天童先輩と朝宮さんか」
美月とほのか……か。
ほのかは美月のことを朝宮さんと呼んでいたから、そこまで親しいわけじゃなさそうだ。
……女同士なら大丈夫だと思うが。
「それよりやばいのは星斗とアリアだな」
「そう? あの2人あれで波長合ってると思うけどね」
悠宇は知らないのか。星斗とアリアが最悪の出会いをして、今もずっと仲違いしている。
そんな2人が2人きりでホラーワールドってどうなんだ。
確か2人で入っていく時も険悪だったな……。
「オレ1人でいくし」
「猛烈に嫌ですけど、仕方ありません……行って参ります」
そんな感じでアリアと星斗は中へ入っていったっけ。
ホラーワールドの映像が流れていくが正直な所虚無な意識だ。
もし、男友達とピュアランドに行けばわいわい盛り上がって問題なかったんだが、美月と一緒に楽しんで最高潮って時にこれだもんな。
もうマジで萎えたわ。
ふぅ……そろそろ悠宇に話を聞いておくか。
「それで、なぜおまえ達3人が一緒だったんだ」
悠宇が映像から視線を変えて、俺の方を向く。
「妹ちゃんから結構メッセが来るって話してたよね」
「ああ、返すことに困って俺に泣きべそかいたメッセを送り続けてきたよな」
「それで……ボランティアのことについて聞きたいし、参加したいのでお話しませんか? って言われて断り切れなくて会ったんだ」
そうか、俺が押しすぎるって言ったからアリアの奴、悠宇が逃げづらいようにボランティアネタで揺さぶったのか。
男が苦手なわりにやることは大胆だな。悠宇が肉食系だったら結構まずい案件だぞ。
「それで軽く話したはいいんだけど、急にピュアランドの割引チケットを渡されて、一緒に行こうって言われたんだよ。断りたかったんだけどね」
「んで、それで星斗はどこから現れるんだよ」
「たまたま歩いていた所をメシと遊園地代で買収した」
もらえるもんはもらっとく精神だからな。
それで悠宇とアリアに星斗がついてきたのか。
「妹ちゃんはものすごく嫌がったけど、押し切った」
「めんどくせーことしてんな」
アリアも一番嫌いな男が来たことで随分焦ったことだろう。
結局アリアが根負けしてしまったようだ。
「2人きりで行けばいいじゃねぇか。アリアの学園での人気っぷりは知っているだろ」
「分かってるよ。朝宮さんや天童先輩をしのぐ神月夜学園一の美少女って言われてるもんな。でもそんな子に遊園地に行こうって誘われるなんて考えないじゃん!」
前にも話したが悠宇はモテる方じゃない。
彼女は出来たことはないし、クラスの中でも女子と話している所を見たことがない。
そんな男がアリアのような超絶美少女に好かれても信じられないものなのか。
「そりゃ太一みたいにザ・男って感じで頼りがいがあったり、星斗みたいなイケメンならさ……分かるけど」
「アリアの好意は気付いているんだろ? 受ける気はないのか?」
「……。釣り合わなすぎて僕には無理だよ」
俺はそうは思わないが……。
でもこれは当人達の問題。俺が深く関わるのは違う気もする。
悠宇が心変わりするのであればフォローしてやってもいいんだけどな。
「妹ちゃんは……星斗と一緒にいる時の方がらしいと思う」
「え?」
「気付かない? 妹ちゃんって僕や他の人と話している時は完璧なお嬢様なのに星斗と話してる時だけ普通の女の子になるんだよ」
アリアは負の言葉を吐かない人間だ。
しかし星斗に対してだけ気にせず文句も苦言も叫ぶ。まぁ、その分、倍になって返ってくるんだけどな。
「そう意味ではイケメンと美少女同士でお似合いじゃないか」
「……聞こえはいいがあいつら普段罵倒し合ってるんだぞ」
「それは道中……よく聞いた」
ピュアランドに来るまで3人がどんな会話をしていたのかわりと想像できる。
悠宇に甘えた声を出すアリアにカマトトって言っておちょくる星斗。それにキレたアリアが罵倒して、悠宇がそれをなだめる。
三角関係……にしてはまったく優しさがないな。
俺と美月の関係をもっと見習えばいいと思う。
「妹ちゃんにはもうちょっと抑えるように……兄から言ってもらえると助かるよ」
「無駄だと思うがな。アリアのやつ、ああ、見えて頑固なんだ」
「兄貴そっくりだね!」
いつのまにかホラーワールドの映像は終わっており、アトラクションは終了していた。
はぁ、全然楽しめなかったな。
俺と悠宇が最後だったから他の面々はみんな建物の出口にいるだろう。
出口へ出た俺達だが、全ての組で何ともいえない雰囲気を感じる。
「ふふ、太一よ。とても楽しかったな~」
「先輩に抱きつかれてあたしはしんどかったっす」
麗華と吉田の組み合わせは想定通りだったので問題はない。
それより問題は残る2組だ。
奥にいる2人に声をかけた。
「ほのかと朝宮は……どうだった」
「え、えーと」
「楽しかったよ~。美月ちゃんといっぱいお喋りしたもんね~」
ほのかは笑うが、美月は相当苦笑いしている。
何があったんだろうか……。いつのまにかほのかも朝宮から美月に呼び名が変わってるし……。
「小日向くん……」
「どうした?」
「私……負けないから」
「何の話だ!?」
美月がまっすぐ視線を見せて言葉を吐く。
覚悟を決めたようなそんな目つきだ。何があったんだ……。ほのかは鼻歌をうたってやがる。
……それより気になるのは星斗とアリアだった。
「アリア……大丈夫か?」
「わああああああああ!」
アリアは突如大声で叫びだした。
「わたしが……わたしが……よりによってあんな痴態を晒してしまうなんてぇ! 最悪ぅ!」
「一体何が……。星斗!」
星斗は口を開けてポカンとしていた。
「何もなかったよ」
「絶対何かあっただろう! 星斗! アリア!」
2人の意識を釘付けるために大声で呼びかける。2人とも俺の方を向く。
だがそのまま再び視線は移動し、星斗とアリアは互いを見て、そっぽを向く。そして……。
「何もない」「何もありません」
互いに顔を紅くしてそれっきり黙ってしまったのであった。
「悠宇、おまえの言う通りなのかもしれないな」
「……これはちょっと予想外なのかもしれないね」
みんな一体絶対どうしたというんだ。
「太一、私のかわいい女の子達と写真を撮りたいからカメラを頼みたい」
「お嬢様はマジでブレねぇな!」
その後も全員揃ったことで妙な雰囲気は消え、いつも通りに戻ってしまった。
時刻は夕方へと差し掛かってくる。