052 幸せになるはずだったのに……
2人きりのデートのはずが、一気に知り合い8人になってしまう。
どうしてこうなってしまった。
係員に声をかけられて、ひとまず施設の中に入ることになる。
中に入った途端、麗華お嬢様とほのかが横に来た。
「まさか太一が美月くん狙いだったとはな。彼女の美しさに目をつけるとはなかなかじゃないか」
「うるせーよ」
「へぇ~、たーくん、そうだったんだ。お姉ちゃんに言ってくれればよかったのに」
「だから嫌だったんだよ。おまえらに言うのだけはな」
この年上女共は俺を可愛がることしか考えていない。
麗華お嬢様は頭を撫でてくるし、ほのかはこのこのーっと腕でつっついてくる。
「それでたーくん、告白するの? 勝算はあるの? 朝宮さんに聞いてこようか」
「やめろコラ」
「太一ももう高校2年生だ。誰と付き合うかは自分で決めるべきだ」
麗華お嬢様は腕を組んで、随分と上から声をかけてくる。
「交際のあかつきには2人で挨拶に来るといい」
「絶対いかねーよ」
「お嬢様、フラれるかもしれませんよ」
「そうか。その時は私がベッドの上で慰めてやろう」
「余計なことすんな! それに……こうなった以上どうにもなんねーよ。今日はもういい」
このまま美月を連れ出して、連中がいない所で告白というのは正直避けたい。
家に帰ったらこいつらに根掘り葉掘り聞かれるのは間違いないし、心情的にしたくない。
一生に1回の大事な告白だ。
俺はできれば大切にしたいと思っている。
「ふむ、それなら悪いことをしてしまったな」
麗華は少しトーンを下げた声を出す。
例え、他の面々を見つけたとしても合流さえしなければしれっと逃げ出すことができたのに……。
まぁいい。入場料の件で次は美月から誘ってくれるデートは確約で取れている。
フラれていない以上チャンスはまだ残っている。
「んで、3人は何してんだよ」
「ふっ、ほのかと鈴菜くんとデートしていたんだよ」
くそ、お嬢様の戯れに邪魔されることになるとは……。
「初めは朝宮さんも誘ってたんだよ。でも断られたのよね~。お嬢様の誘いを断るなんてよっぽど大事な約束だったのね」
ほのかは美月に視線を向け、そんな言葉を吐く。
有栖院麗華を知らない者は神月夜学園にはいない。
特に2、3年には絶大な影響力を持っているため麗華に何かに誘われる、お気にいりになることはその人生において大きなプラスになるのだ。
逆を言えば恐ろしくて断れないというのもある。
「私の大事な弟分の約束であれば涙を飲むしかないな」
美月は吉田やアリアと話をしていた。美月のあの表情……似たようなこと言われているのかもしれない。
「さぁみんな、ちょっといいだろうか」
麗華が手を叩き、注目を集めた。
「せっかく全員集まったのだ。しかし8人揃ってホラーワールドは味気がない。そこで、2人で1組になって中へ入る。それでどうだろうか、なぁ太一」
「なんで俺に聞くんだよ。いいよ、それでもう」
下手に気を使われて美月と一緒になった時、何て話せばいいか正直分からない。
この展開はさすがに予想してなかった……。
「ではアプリを使って振り分けるぞ。私にほのか、太一にアリア。鈴菜くんに美月くん、星斗くんに……君は誰だっけ」
「くそっ! 絶対言われると思った」
「悠宇様! アリアは側におりますよ!」
悠宇は麗華お嬢様のお気にいりではないからな……。あの女のこういう所が好きになれん。
自暴自棄になってしまったが、新しいイベントのホラーワールドを美月と一緒に回りたい欲が出てきた。
軽率に振り分けOKを出すんじゃなかった。
告白は難しくなったが、美月に抱きつかれたり、恐怖で泣きそうな顔とかは別問題。
すっげー見たいから美月と一緒に歩きたい。
俺にとって美月は運命の相手なんだ。だから、きっと引き当てることができる!
俺は美月と一緒にに行く!
「よし、結果が出たぞ!」
◇◇◇
「いやー、最高の引きだったね! 完璧だったね」
「ああ、そうだな。はぁ……」
俺と隣には親友の浅田悠宇がいる。
何が悲しくてホラーワールドを男と見なきゃ行けないんだ。
……幸せになるはずだったのに。