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047 朝宮美月はいつでもOK

 お風呂入っててよかった!


 今日の朝はちょっと時間がなかったからシャワーで済まそうかと思ったんだけど、念には念を入れてお風呂に入っていてほんとによかった。

 男の子の受けがいいように香りのよい石けんも使ったから少なくともくさくはないはず! 汗をかいたのは予定外だったけど、太一くんの雰囲気だと問題なさそう。


 太一くんの体……鍛えてるだけあってたくましかった。

 今女子の間で話題になっている太一くんの体。理想的な肉体なんだよね。せーくんも鍛えてるけど、あんなのとは違う理想的な体。太一くんは筋肉の天才じゃないだろうか。

 あの体に抱きしめられていると私は絶頂してしまいそうな気がする。


 お姫様だっこもよかったなぁ。太一くんが力持ちで本当によかった。星斗レベルだったら下手すれば重いって言って落としそうだし……。


「カップルか……」

「何か言ったか? 朝宮」

「なんでもないよ!」


 記念撮影を終えてから私と太一くんはピュアランドの中を見て回る。

 ピュアランドは買い物や休憩を目的としたショッピングエリア、リラクゼーションエリアにジェットコースターなどアトラクションがメインエリアがある。

 当然入ったばかりなのでアトラクションのあるエリアへと向かう。


 今日の太一くんはとても積極的だ。いつも超絶イケメンだけど、今日は何から何まで着飾っているような気がする。

 覚悟を決めたような目だ。


 そう……告白をしてくる男子のような目をしている。


 もし告白されたら? 私の答えは当然YESだ。そんなことは12年前に結婚の約束をした時から決まっている。

 肝心なのはその後だ。

 告白されたら当然恋人同士となるだろう。最低でもキスぐらいはすませておきたい。もしかしたら舌とかも絡ませてしまっちゃったり?

 やばっ、歯ブラシ持ってきてない。ああ、歯医者にいっておけばよかった!


 あ、後は……えっちなことをする可能性もわずかにあるのかな。駄目、抱かれたら絶対発情する。自分のことは一番知っている。この近くにホテルってあるのかな。でも高校生で入れるんだろうか。だったら家に連れ込んで……星斗は何とかして始末しよう。


 ごほん。いいや、なるようになるでしょう。下手に気構えない方がいいのかもしれない


「小日向くん、私はいつでもOKだからね!」

「お、おお? 何だかわからんが分かった」


 太一くんは歩みを止める。


「そういえばにゃん子ちゃんから何かもらっていたな、何をもらったんだ?」

「小日向くんがにゃん子ちゃんって言うとなんかかわいいね」

「ちゃんまでがキャラ名なんだから仕方ないだろ」


 太一くんはそう言ってそっぽ向いた。

 恥ずかしがる太一くんが可愛すぎて尊い。実直な人がこーいう素振りを見せるとギャップがあって実に良い。


 にゃん子ちゃんはちょっとドジだけど、一生懸命な性格が持ち味らしい。

 親近感が沸くかもしれない。私はちょっとのドジじゃないかもしれないけど……。

 にゃん子ちゃんからは猫耳カチューシャを貰った。頭にそれを付けてみる。


「猫耳カチャーシャだよ。よろしくです……ニャ」

「がはっ!」

「吐血!?」


 いや、血は吐いてない。

 太一くんは胸を押さえた。


「見事な破壊力だ……。良く似合っている」

「そうだね。にゃん子ちゃんポンコツだもんね」

「そっちじゃない!」


 スマホのカメラを起動し、自撮りモードに変えて自分を見てみる。

 うーん、自分じゃ似合っているかどうかは分からない。遊園地の空気にのめり込まないと分からないものなのかな。


「自分を卑下するな。朝宮は良くやっている。吹奏楽部と兼任なのに一生懸命やってくれて助かっているんだ。とても凄いよ」

「そ、そう」


 4歳の頃から太一くんに褒められると頭がクラクラするくらい嬉しくなる。

 脳内物質が出ているのか、太一くんに褒められると何でもできるような気がするんだ。


「料理もうまくなってきてるし、マネージャーの仕事もミスが減ってきている。みんな、むしろ残念がってたぞ」

「え?」

「顔をぞうきんで拭いてくれた朝宮のドジっこぶりが無くなったのは寂しいってな」

「そ、それは無くなっていいかな!」


 太一くんはくすっと笑った。


「朝宮がマネージャーになってくれたからとても楽しいよ」



 ああ……、やっぱりいいなぁ。


 好きな人の優しい笑顔はとても魅力的だ。



 ◇◇◇


「何か乗りたいものはあるか?」

「うーーん」


 ジェットコースターにメリーゴーランド、急流すべりなどは結構人が並んでいる。

 観覧車に乗るのはまだちょっと早い気もするし……。


「あれにしよ! 今ならすぐ乗れそう」

「お……おお……。そうしよう」


 太一くんが若干歯切れの悪い反応をする。でもすぐにきりっと表情を戻して笑いかけてくれた。

 私達は絶叫マシーン、ドロップタワーの方へ向かう。


 ピュアランドの名物であるジェットコースターに比べたらドロップタワーはそこまで人気はない。

 高さも4,50mくらいらしい。それでも十分高いんだけどね。

 ドロップタワーとはその名の通り、リフトに乗ってタワーのてっぺんまでゆっくりと上昇し、自然落下で落ちて楽しむ絶叫マシーンである。


 私は昔から絶叫マシーンは得意な方だ。小、中と女友達と良く乗ったことを思い出す。

 空白の12年間を太一くんと一緒にいることができたのなら常に一緒に遊びにいけたのかな。


「小日向くんは遊園地によく行くの?」

「実は数年ぶりなんだ。小学生の時に悠宇……男の友人達と行って以来だ。中学は部活で忙しかったしな」


 野球部は精力的に活動してるから日曜日に休みというのはなかなかない。

 この貴重な時間を大切にしないと……。


 係人に促されて……リフトの上に乗り、安全装置を装着する。

 そのままリフトがゆっくりと上がっていくのだ。

 私はドロップタワーも好きな方だ。てっぺんから急に落ちてくる、あの浮遊感が地味にドキドキして気持ちがいい。


 そう……今、みたいに。


「ふにゃ!?」


 いきなり右手を掴まれた。

 嫌悪感が無いのは握ってくれた人が好きな人だからだろう。

 顔から熱が出るのを感じて、握ってくれた人の顔を見上げる。


 でも、真っ青だった。


「小日向くん、顔真っ青だよ!?」

「だ、大丈夫だ。この程度……問題ない」


 いつもキリっとしている太一くんが強ばっていた。

 そんなレアな顔も愛おしいがそれどころではない。

 もしかして高所が苦手なんだろうか……。


「あっ!」


 思い出した! 4歳の頃、子猫が木に登って降りられなくなったことがあった。

 それを太一くんが木に登って助けだそうとしたっけ。

 でも、木の上で助けたのはいいけど、子猫が暴れて、太一くんが宙づりになりかけて……それから高所がダメだって言ってた気がする。


 完全に忘れていた。


「高い所苦手なら先に言わないと!」

「……久しぶりだから克服してると思ったんだ」


 太一くんの握る手が強くなる。

 やっぱり怖いんだ。なおもリフトは上がっていく。止めてもらおうか? どうしよう…………頭がまわらない。


 リフトがてっぺんまで到達した。あと十数秒の後に一気に落ちるんだろう。

 太一くんは目をつむり、祈るようにしかめっ面をしている。

 手を握るだけじゃ駄目。太一くんから恐怖を取ってあげたい。


 思い出すんだ4歳の頃を、こんなことが別の場面でもあったはずだ。

 そ、そうあの時は確か。


 想像上の太一くんが笑う。


「美月に頭を撫でられると不安な気持ちが無くなるんだ。すっげーな!」


 私は太一くんに握られた手を外し、不安に怯える太一くんの頭に手を寄せた。

 手が外れたことに恐れたのか太一くんは目を開けて私の方を見た。

 私は息を吸い、太一くんの頭を撫でる。


「ん、大丈夫。私がついている。太一くんには私がずっと側にいるから……」


 太一くんはぽかんとした顔になる。太一くんの固くて力強い髪をゆっくりとなで続けた。

 これから急落下をすることを知らせるアラームが鳴る。


「ずっとえらいえらいしてあげるね」

「っ……」


 その瞬間、リフトは急落下していく。

 頭を撫でるのに気を取られたせいで私も多少びっくりしてしまった。

 心の準備する間もなかった……。

 すぐに終わってしまい。リフトは規定の高さまで落ちた後、ゆっくりと地上へと降りる。

 地上へ戻ると安全装置のロックが外れ……体が解放される。


 太一くんはポカンとした表情をしたままだった。


「あの……小日向くん、大丈夫」

「はっ! あ、ああ」


 太一くんの意識が戻った。

 彼を介抱するように背中をさする。


「怖かった?」


 今、聞くことではなかったのかもしれない。

 でも……ふと聞いてしまう。

 太一くんはゆっくりと私の方を向いた。


 その表情は……空の時にいた真っ青なものではなく、血が通っていた。


「怖くなかった」


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