045 昔話は花が咲く
「ふぅー、何とか間に合ったな」
「う、うん……」
遊園地行きの快速急行がちょうど来ており、駅の構内に入った俺と美月は飛び乗るように乗った。
走り出す電車の中で息を整える。
座席は空いているな。さっそく座ろうか。
美月はさきほどの出来事により言葉少なめになっている。
ちらちらと俺を見ているところがとてもかわいい。
とてもかわいいよなんて言葉、今までの人生で言ったことあるだろうか。
正直な所、試すという所もあった。
ここで美月が身の毛もよだつような顔をするのであれば告白はまだ早いと取りやめることも考えていた。
でも、想定通り美月は顔を紅くして動揺している。
少なからず何かしらの好意がなければこんな顔はしない……たぶん。
「朝宮」
「は、はい!」
だけどずっと動揺しっぱなしは疲れてしまう。
心を落ち着かせよう。
「今日はいい天気でよかったよな」
「あっ、そうだね。今日は洗濯日和だから良く乾くよ」
「洗剤の量は間違えてないよな?」
「残念でした! 家の洗濯機は自動で洗剤を入れてくれるのです。だから間違えません」
なるほど、洗剤を入れる量を知らないから部活の時、とんでもない洗濯をしてしまったのか。
今後は美月の初めてやることを注意していかないといけないな。
遊園地へ到着するまで約30分。乗り換えもない。
これまでなら美月と2人きりだと何を話せばいいか分からなかったが、実際の所話題に困ることなんてなかったのだ。
「電車といえば……覚えているか? 中学の修学旅行の時、電車移動した時のこと……」
「覚えてる! 沖縄行くのに空港まで電車で行ったよね」
「空港まで1時間近くかかるからな。実は俺のクラスの男子達が急にトイレに行きたくなってな。途中で駅に降りたんだ。しかも5人」
「あ、知ってる知ってる! 私も前の方の電車に乗ってたから制服着た男の子が構内を走ってたから何かと思ったよ」
美月の吹き出すように笑い、自然と俺にも笑みが出てしまう。
今度は美月から話題を出してきた。
「小学校の頃、5年生の頃だったかな。先生とケンカしちゃった子が授業中に走り出してホームセンターまで行ったことがあってね」
「ああ、あれ朝宮のクラスだったのか。先生が一同に集まって話を始めたから何事かと思ったよ」
俺と美月は12年間同じ学校に通っていたのだ。
同じクラスにならず、会話をすることはなかったけど同じ時を共有している。
だから……昔あったことを話せば話題が尽きることなんてない。
昔話をすれば30分なんてあっと言う間だ。
◇◇◇
市一番の遊園地、【ピュアランド】の入口と鉄道の改札口は隣接している。
俺達2人はワイワイ喋りながら改札を抜け、ピュアランドの入口にたどり着く。
ここから少し歩けばチケットを購入できる入場ゲートに到着できる。
「綺麗だねぇ~」
入口から入場ゲートまでは散歩コースになっており、四季に合わせた花が植えられ軽やかな音楽が流れている。
このあたりに住んでいれば朝のランニングコースにしたいな。
美月とゆっくり歩いて、見物をする。
恋人同士であれば手を繋いで和やかに歩いて行きたいものだが、今の状態ではそれはできない。
しかし、告白が成功して恋人同士になったのなら、恋人ならば手を繋いで帰るくらいはありじゃないか? ギリギリ許されるだろう。
入場ゲートに到着し、さっそく受付をする。
今日は遊園地で遊ぶことを目的としたわけではないので入場時間をちょっと遅めにしている。
そのおかげで並ぶことなく受付に行くことができた。
「チケットを2枚頂けますか?」
「かしこまりました」
「あ、チケット代払うよ。いくらかな」
俺は首を振った。
「今回は俺が誘ったんだからおごらせてくれ」
「そ、そんなのダメだよ!」
美月は表情を変え、詰め寄ってくる。
「安くないんだからおごりとかはダメ。お互い気を使うし、ダメなのです」
美月はきっちりと割るように断固拒否をする。財布からお金を取り出し渡してくる。
やっぱり美月は良い子だな。だけどここは意地を通させてもらう。
「じゃあ、こうしよう。今日は俺が遊園地の入場料をおごる」
「うん」
「次。朝宮が俺を誘ってくれ。その時に俺の分を払ってくれりゃいい」
「え!? それ……えぇ?」
つまり、次の予定をセッティングしてもらうということだ。
今日の結果がどう転ぶことになったとしても次も一緒にデートしてくれることを確約しておけばいい。
フラれて気まずくなったら……その時はその時だ。
混乱している隙に2人分の入場料を払ってチケットを受け取った。
「うーー、そういうことなら今日は退くけど……」
「次が楽しみだな。朝宮チョイスに期待するぜ」
「悩むよぅ」
美月にチケットを渡して、はぁっと息を吐く美月にしてやったりと楽しくなってくる。
さてと……何のアトラクションから乗るかな。
係員にチケットを渡して、入門ゲートをくぐる。
その矢先。
「おめでとうございます!!」
突如の声と鳴り響くクラッカーの音。
びっくりし、後ろを歩く美月からかわいらしい驚き声が聞こえる。
俺は少し下がって美月の隣へ移動した。
着ぐるみの生物とマイクを持った係員のお姉さんが突如現れたのだ。