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044 美月と待ち合わせ

 心臓には毛が生えていると言われる方だ。

 中2の時、全校生徒の前で表彰のコメントをした時も堂々とできたし、野球の試合で、満塁のチャンスでバッターボックスに入った時もワクワクが止まらなかったし、総資産数百兆を超える有栖院グループの総帥と会食した時も何の緊張もなかった。


 それがこのザマだ。


「やべぇ、吐きそう」


 美月しか興味が沸かなくてずっと硬派を気取っていたが、練習でもいいから女子と少し遊んでおくべきだったな……。

 アリアかほのかあたりに恥を忍んで練習を頼むべきだった。

 経験が足りなすぎて、本命とのデートに生かしきれない……。


 一応有栖院家のコック(28歳)現在5股中の人にアドバイスをもらって服装をきっちりしてきた。

 ガタイの良い俺に合うようにゆったりめのスウエットトレーナーを用意した。

 いつも制服かジャージかユニフォームしか着ないから変じゃないだろうか。


 駅前の公園広場に到着して、あたりを見渡す。ここは集合場所としてセオリーな所だ。土日はたくさんの人が集まっている。

 まだ美月は来ていないようだ。集合時間の10時まであと15分。こんなとこだろうか。


 今日向かう所は最寄り駅から30分ほど電車に乗って行く遊園地。

 TDLやUSJに比べれば規模は小さいがデートスポットとしては王道中の王道。


 経験の少ない俺が奇をてらうことなどしない方がいい。

 夕方までしっかり遊んで、遊園地内にあるリラクゼーションエリアでのんびり歩いて、夕日が見える場所で想いを伝える。

 今日こそ決めてやる。明日からは夏の大会に向けて最終調整に入る。こうなると大会が終わるまでは何もできない。


 今日こそやってや……。


「だ~れだ」


 ふいに両目を塞がれる。

 その温かみの手のおかげで心臓の鼓動が早くなる。

 4歳の頃から聞き続けた声を間違えるわけがない。


「その声は……朝宮かな」


「あたりだよ~」


 閉じられた手は解かれて、俺はそのまま振り向いた。

 そんな子供染みたことを……と声をかけようとした俺はそこにいた美月の姿を見て言葉を失った。


 肩まで伸びた髪はふわりとウェーブがかかって、アレンジされており、元々の整った顔立ちに加えて、いつもと違ったかわいらしさを印象づける。

 学園へ行く時はしていないメイクをしており、睫毛もばちばちに決まっていた。

 服装もこの前スーパーで一緒に買い物へ行った時とは大きく印象が変わっており、

 透明感のある白のブラウスにワンポイントに付けているネックレスがキラリと光る。

 茶系統のロングスカートに大きめなショルダーバックを肩に美月は微笑んでいた。


「おはよう、小日向くん」


「あ、お、……お、おはよう」


 あまりの衝撃に言葉が詰まってしまった。何という不覚。

 元々上限突破してかわいい女の子が着飾った所で何も変わらないと思っていたがその想像を遙かに超えていた。

 いつもと印象が全然違う。この前、美月の家で一生ゲームをやった時からこうまで変わるものなのか……。


「待ってたんだね。ごめんね、遅れちゃった」

「いや、約束の時間にはまだだし、問題ない。俺も今来た所だ」


 美月の顔を直視できない。

 顔が火照って真っ赤になってしまいそうだ。


 でも何か喋らないと……。


「いつもと……印象が違うな。その……見違えたって言うのはよくないかも」

「ふふ」


 美月は声を出して笑う。


「お母さんがお化粧が得意な人だったから、教えてもらっていたんだ。残念ですが付け焼き刃ではありません」


 美月は指一本縦にして説明するような口調で言葉に出した。

 確かにいつものポンコツ具合で化粧なんてしたらとんでもないことになるのはよく分かる。


 美月が俺の姿を上から下までじっと見る。


「小日向くんも印象が違うね。しゅっとしてる。髪の毛も……綺麗に整えてるね」


 神月夜学園の野球部は丸坊主非推奨だ。なので俺も悠宇、星斗も各々気に入った髪型にしている。

 俺は長い髪は邪魔なのでベリーショートと呼ばれるほど短くしている。


 整髪料も今まで付けたことがほとんどなかったが、知り合いに教えてもらってやり方を覚えた。

 似合う似合わないは元より、髪の清潔感は大切だからな。


「それじゃ行こうか」

「うん! 行こっ行こっ!」


 俺と美月は電車へ乗るため駅の中へ入っていく。


 だけど……俺はまだこの言葉を美月に伝えていない。


 昨日の夜、何回もシミュレートして来たこの言葉を伝えていないんだ。


「ああ、朝宮」

「ん? なに」


 今日、俺は美月に好きだと告白する予定だ。

 だからこそ……。

 隣で俺の方を向いてボンヤリと視線を向ける美月に言わなければならない。


「隣で見て思ったんだが……、その服、すごく良く似合ってるよ。朝宮らしさが出ていて……いい感じだと思う」

「へ?」

「さっき……見惚れてしまって言えなかったんだ」

「え? あ? えっその……!」


 かぁっと美月の顔立ちが紅く染まっている。

 分かっている。俺自身の顔も紅くなっているのが分かる。

 いつもの俺ならこんなキザなセリフを言わない。

 でも……このデートに着飾って来てくれた美月に今の気持ちを伝えたい。


「とてもかわいいよ」

「――!?」


 この好意を隠さず伝えていくんだ。

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