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042 下準備はばっちりだ

 土曜日の夜。


 明日はいよいよ美月と2人きりのデートだ。

 あらゆる約束を全て除去し、この日だけのために生きてきた。

 デートする場所の下調べもしたし、回る順番も考えてきた。

 休憩場所やトイレの位置も抜かりない。


 屋敷で働いている女遊びが盛んな使用人にアドバイスをもらって、服装も準備してきた。

 髪も美容院で整えてきたし……美月は正直気にしない気もするが、こういう時はちゃんとする男と印象づけておいた方がいい。


 最後にプレゼントも用意してきた。

 最初のデートにプレゼントは重いらしいが、このプレゼントなら実用的だし、嫌がることは絶対ないはず。


 あとは夕方、雰囲気のいい場所で一発決めてやる。


 俺の12年間の想いを全部告げてやる。

 不安要素はやはり実質1ヶ月半ほどしか美月と交流していないところだ。

 ここまで準備して、あなたのこと友達としか見れないと言われるとさすがの俺もノックアウトしそうだ。


 これは美月が12年前のことを覚えているという前提も考慮にいれている。

 そうじゃなきゃ数々のあの態度はおかしい……と思う。


 何度も何度もシミュレーションしてきた。


「朝宮、12年前のことを覚えていないかもしれないが……。俺はずっとおまえのことを想っていたんだ。だから付き合ってくれ!」


 想像上の美月はふんと息を吐く。


「小日向くん、12年前ってそんな昔のこと言われても困るわ。そんな重いあなたにうんざりよ」

「そうか。鍋はこがす、野菜は皮がついたままフライパンに入れる、レンジとオーブントースターを間違える。部活で使うビブスを引きちぎるぐらい洗う。お前をフォローしてきたこの1ヶ月半をどう想う」

「ひっく……ひっく、迷惑かけて本当にごめんなさい……」


 うん、まずいな。想像上の美月を論破できるまでになってきてしまった。

 この展開はよくない。俺は別に美月に圧力をかけて交際したいわけじゃない。ちゃんと想い合って交際して最後に結婚したいのだ。


 あとは……交際経験がないからこのあたりでボロが出る可能性があるくらいか……。女の子の気持ちってやつをもう少し学んでおくべきだったな。


 コンコン。


 部屋をノックする音がする。


「アリアです。今、よろしいでしょうか?」

「ああ、入っていいぞ」


 ドアが開き、ピンクのネグリジェを着たアリアが入ってきた。

 腰まで伸びた黒髪と夜空、どちらが綺麗だろうかと思うほど美しい。

 手入れの仕方が上手いのだろうな。少しだけアリアの兄であることを残念に思い、兄であることを嬉しく思う。


「どうした?」

「悠宇様が……全然メッセージを返してくださらないんです!」


 ああ、そういえば(アリア)は俺の幼馴染で同級生の浅田悠宇に好意を抱いている。

 悠宇の優しさに惚れてしまったようで連絡先を教えろとせっつかれてしまった。

 それでアリアは通話アプリによるメッセージを送り合っているらしい。


「電話は出てくれないし、アリアは嫌われているのでしょうか」


 そんなことはない。

 アリアとメッセの交換をしたい男なんて山のようにいる。学校でも1~3年問わず、アリアのアプリのIDを教えろって言われるからな。

 兄として全部断っているけど。

 悠宇が出られない理由は1つしかない。


 俺は自分のスマホを開いてアプリを起動する。


 悠宇:妹ちゃんからすごくメッセージが届くんだけど!

 悠宇:どどどど、どうしたらいいの?

 悠宇:電話来ても何話したらいいかわかんない!

 悠宇:あんなかわいい子が何で僕に!? ギャグだよね! 冗談だよね!?

 悠宇:助けて、太一!


 女に免疫のない男がアリアという超絶な美少女に構われたせいでヘルプのメッセージがどんどん来る。

 友人として情けないなって思う。


「前も言ったろ。悠宇は女性が苦手なんだ。押しまくっても逆効果だぞ」

「あのようなお優しい方なのです。早くしないと他の女性に盗られてしまいます」


 そんなすぐ盗られるんなら中学時代に彼女の1人でも出来てるっつーの。

 悠宇の奴がまんざらでもないのであれば親友として紹介してやってもいいが、今はまだ無理だろうな。


「しつこい女は嫌われるぞ。押しすぎないようにすることだ」

「む……。兄様の言うことも一理あるでしょう。それで?」

「ん?」


「美月先輩と明日遊びに行くのでしょう? どこに行くかは知りませんが」

「知ってたのか……」


 誰にも話していなかったはずなんだが……。相談した人達も美月のことは言っていない。


「兄様がばっちり決めていく相手なんて美月先輩以外ありえないでしょ」

「ぐ……」

「ふふ、明日はお二人にとっていい日になればいいですね」


「ったく生意気言いやがって」

「アリアは自分の恋路を頑張りますので……帰ってからの吉報をお待ちしております」


 アリアは一礼して部屋を出て行った。


 まったく……俺の気持ちがバレているんだろうな。

 星斗にも言われたし、俺の気持ちはそんなに顔に出ているんだろうか。


 ベッドにダイブし、スマホを開いて、アプリを起動する。

 美月のアカウントを開いて……トークをフリックした。


 もう寝ているかもしれないけど……自然と文字入力をしてしまう。


 太一:明日が楽しみで眠れそうにないな


 明日はどんなことを話そうか。

 今の俺達の仲なら……2人きりで問題はない。

 本当に楽しみだな。


 美月:(゜o゜;  ちゃんと寝ないとダメだよ(≧ω≦)


 本当に返ってきやがった。

 絵文字や顔文字を使って感情表現してくるのは美月っぽいな。


 よし。


 太一:明日、大事な話があるんだ。


 想像通り、美月から返信はなかった。

 ……明日が勝負だ。

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