041 一生ゲーム③
「さて、次はアリアですね」
気を取り直してアリアがルーレットをまわした。位置的に結婚マスだろう。
「アリアも結婚です!」
「アリアと結婚するのはどこの馬の骨だ」
「もう兄様、それが言いたかっただけでしょう」
しかし、妹もいずれは人の物になってしまう。
久しぶりに会って、一緒に過ごした大事な妹が取られてしまうのは喜べないものだ。
「アリアちゃんはどんな男性が好みなの?」
「そうですね~。アリアの気持ちを察してくれて、アリアが困った時はすぐに助けに来てくれて、アリアが望んだ通りに成し遂げてくれる殿方」
「そんな人類いねーよ。バカなの?」
「います!! 絶対います! 少なくともあなたではありませんから!」
鼻で笑う星斗にアリアは噛みついた。
だが……その候補は俺の親友である悠宇だ。
人助けが好きで優しい悠宇は確かにアリアの理想にふさわしいのかもしれないが、悠宇自身がどう思うかだろうな。
下手な馬の骨と交際されるくらいなら悠宇と交際する方が兄としては安心なのだが……。
実際の所お家騒動はあるんだが……今からそれを考えても仕方ないか。
「次はせーくんだね」
「1マスで結婚マスだから。回さなくていいでしょ」
「星斗は女の好みとかあるのか?」
星斗の女性の好みは聞いたことがない。
正直アリアに1ミリも見惚れてない様を見ると変わった性癖を持っているじゃないかと思うほどだ。
「そうだね。センパイみたいな人がいいかな」
「え」
じっと、なぜか美月とアリアに見られる。
「オレにメシを作ってくれて、養ってくれる人」
「俺は養った覚えはない」
「兄様、安心してください。女学院では男×男は正義でした」
「どういう意味だ!?」
「こ、小日向くん……私もや、養われたいかな!」
「姉弟揃って何言ってんだ……」
まったく……。
次は俺の番だ。ルーレットをまわす。
出た数値分コマを進める。
双子が生まれました……皆からご祝儀をもらいましょう。
そんな内容のマスだった。
「兄様、おめでとうございます」
「せんぱいおめでとう」
「……っ、こ、小日向くん、おぅ……おめで……とぅ」
1人だけあきらかに喜んでない。
正直俺も美月に子供が出来たら笑ってお祝いできないかもしれん。
一生ゲームは順調に進み。その間に雨もしっかりやんでくれた。
あと少しでゴールだ。
ゴールなんだけど……。
「子供がまた生まれた……」
「兄様、6人目ですよ!? アリアはそんなに甥、姪が出来たら困ってしまいます」
「せんぱいそんなに性欲あんの?」
「運の問題だろ! 俺が望んでいるわけじゃない」
「はい、小日向くん、おめでと。ふっ、私のとこに子供は来ないのにいい気だね」
度重なる出産に美月がふてくされてしまった。
「次ねーちゃんだよ」
美月がルーレットを回して、出た数値分コマを進める。
出たマスの内容は……。
「やった! 私にもついに子供が!」
「先輩おめでとうございます!」
「やっとオレにも姪か甥ができるのか」
「やった……。やった……きっと不妊治療を経ての高齢出産なんだろうね……。絶対大事にするから」
「そんな重たい設定にするなよ……」
子供が生まれたことでみんなからお祝い金10000ドルを美月に渡す。
アリアが渡し、星斗が渡して、俺が渡そうとすると……。
「小日向くん! 6人も子供をいて家計が苦しいのに渡してくるなんて……哀れんでいるの!!」
「おい、戻ってこい。俺達はまだ高校生だ」
こんなことを経て一生ゲームは終了した。
1位はなんとアリアであった。
「やった! 大勝利です!」
堅実でマイナスマスに行かなかったのが幸いしたな。初めてのプレイで勝利できるなら喜びも倍だろう。
2位は俺でそこそこの金でクリアした。
3位は星斗。ギャンブルマスで一攫千金を狙って失敗して無一文になっていた。
「今日は運が悪かったな」
完全に勝つ気のない楽しみ方だ。それも1つの遊び方としてありだろう。
そして最下位は……。
「ふふふ……借金だらけだ」
最後の方に島買ったり、バカンスに行ったりで散財したからな。
あっと言う間に借金地獄になっていた。
やっぱり他の男と結婚したのはまずいな。俺と結婚すべきだと思う。
「じゃあ最下位の美月先輩は罰ゲームです!」
「え、そんなのあったの!?」
「ゲームには罰がつきものですよ!」
アリアが考えることだから大したものではないと思うが……。
「美月先輩にみんなで膝まくらしてもらうんです!」
その言葉と同時に膝を折って座っていた美月のフトモモの右側面からアリアはゴロンと寝転んだ。
「さすがにはしたないぞ」
「美月先輩のふとももやわらか~い」
「ふーむ」
星斗もアリアとは逆の左側面から美月のフトモモに頭を乗せる。
「うん、いいまくらかもしんない」
「もう、せーくんまで!」
アリアも星斗も何やってんだ……。
しかし……まぁ……いいな。
美月は優しい目でアリアと星斗の頭を撫でていく。
こういう時、同性や弟って立場は羨ましいと思う。
「ほらっ、兄様も」
「せんぱいも来なよ。真ん中が空いてるよ」
「え」「えぇ?」
俺と美月の声が重なる。
確かに頭一つ分スペースはあるが……。
俺がいくのはまずいんじゃないだろうか。
少し顔が紅い美月が見上げて、こくんと頷いた。
「……いいのか?」
「小日向くんなら……」
ここで拒否っては男が廃るもの。
背を向けて座り、ゆっくり頭を降ろしていく。
むっ……。
確かな弾力がそこにはあった。
考えられるか? ほんの1ヶ月半前まで会話ゼロだった幼馴染と再び仲良くなって膝まくらをしてくれるなんて。
正直気持ち良すぎて寝てしまいそうだ。
左に視線を向ければアリアが右に向けば星斗が、みんな美月のフトモモに包まれているんだな。
「どうかな……?」
「ああ、いい気持ちだ」
「よかった」
美月は顔を乗り出す。
そんな美月と目が合い言葉もなく……見続けた。
「朝宮」
「しっ」
美月はゆっくりと手を唇に付けて、喋らないように合図をする。
幾度の瞬きを経て、美月の両手が俺を目を隠した。
「……!」
声は出さない。静かにと指示をされたからもある。
何をするのか。きっと……美月のことだ。心地よい、優しいことをしてくれるのだろう。
目を隠されると……急激に眠くなる。
ダメだ……耐えないと、でもこの柔らかいまくらに抗うことなんてできない。
「いつもおつかれさま」
意識を手放す時……額に暖くてどこか柔らかいモノが押しつけられた気がした。