040 一生ゲーム②
美月、星斗、アリアで始めた【一生ゲーム】
序盤は穏やかに進んでいく。
「やった! 3000ドルゲット!」
「美月先輩、おめでとうございます!」
「ありがと~」
3巡目に入り、少しだけコマの進行に差が出始めた。一番先に進む星斗が職業選択のマス群に入る。
これは2パターン進路があり、堅実なサラリーマンコースにするか、特別な職業のコースにするか決められる。
特別な職業の方はマスに止まれないと最終フリーターとなって一番少ない給料となってしまうのだ。
若干のリスクというわけだな。
「医者か……この職業にしようかな」
星斗が止まったのは医者になることができるマスだ。
給料マスを通過するたびに25000ドルもらえるんだったな。割のいい職業だった気がする。
「医療ミスして多額の賠償金を払いそうですね」
「大事なモノ落として泣きべそかいてるやつのアタマを治してあげないとな」
アリアの表情が紅潮していく。
「泣きべそなんてかいてません! ふんだ!」
「知ってるか?」
「ううん、知らない……」
俺と美月の知らない所でこの2人、何かあったようだ。
でも……最初の頃に比べたら普通に話をするようになっただけマシか?
無視し合ってたら空気最悪だろうし。
アリアは堅実にサラリーマンコースへ進み、俺は運良く給料の高い弁護士マスに止まることができた。
そして美月の番になる。
「一番給料の高いタレントマスを狙うよ!」
美月がまわしたルーレットの数は9であった。
今の位置から9マス進むとなると全ての職業マスを越えてしまう。結果……フリーター。
「私の未来……どうなるんだろう」
美月の表情がぐっと青ざめる。
「ゲームだからな! あくまで」
「ねーちゃん、弁護士にもらってもらえば」
「小日向くん、フリーターでももらってくれますか」
「何言ってんだ……」
もらいたいわ! 今すぐもらえるならもらいたい。
「一生懸命働くのでもらってください」
「おいおい」
「メシマズだけどウチの姉をもらってあげてください」
「アホなこと言ってんなまったく……」
俺の順番になった。ルーレットまわして出た数は9。
この位置なら……ちょうど結婚マスか。
結婚マスは必ず止まらないといけない。コマには人を模した棒を刺すことができる。青色が男で赤色が女だ。
そこで伴侶として1本の棒をコマに取り付けることができる。
「せんぱい、結婚おめでとー」
「結婚はみんなするんだ。別に喜ぶことじゃ……」
「そんな、小日向くんが結婚しちゃった……」
美月は悲しそうに頭を下げる。
涙目となり、うつろな瞳に変わる。
「ゲームだからな! 露骨に落ち込まないでくれ!」
「やっぱりフリーターじゃ……ダメなんだ」
落ち込みすぎだろ!
確かに、12年前結婚の約束をした俺達にとって結婚は重要なキーワードだが……まさかここまで落ち込まれるとは思わなかった。
まぁ所詮ゲームだ。早く終わらせれば問題ない。
「あ、美月先輩も結婚ですね」
「え」
ぐっは!!
結婚したのか、俺以外の奴と。
心臓がドキドキする。アタマん中がグチャグチャだ。
どこの奴だ。どこのカスが、美月を俺から奪った……?
「兄様、美月先輩のコマをそんな凝視しなくても……」
はっ! そうだ、これはゲームだ。
現実ではない。分かっていたのにつらいものだな……。
「この女を折れば……独身に戻る?」
「ねーちゃん、せんぱいの伴侶折っちゃダメだよ」
「朝宮」
「小日向くん」
「結婚おめでとう」「結婚おめでとう」
俺と美月はお互いに結婚を祝い、10000ドルを渡し合った。
「この雰囲気おかしくない?」
「なんか……こんなはずではなかったという強い意志を感じますね」
これはゲーム。これはゲーム。これはゲーム。
でもゲームはまだ終わらない。