004 ダメなお姉ちゃん
手早く処置したおかげで火は広がらずにすんだ。
これで一安心だ。
「大惨事にならなくてよかった」
「うぅ……ごめんなさい。でも、小日向くんがどうしてここに?」
美月にじっと見られ、たまらず視線を外してしまう。
くっ、これだけ近距離で話したのっていつぶりだろうか。多分12年ぶりだ。
ぱっちりとした二重の瞳に整った顔立ち。朝宮美月は本当にかわいい。俺の女の子の好みにドストライクってのもある。
なりふり構わず抱きしめたい。
美月は制服の姿のままだった。家に帰ってきてそう時間は経っていないのかもしれない。
「ねーちゃん、どうしたの?」
「せーくん」
星斗がキッチンの中に入ってきた。相変わらずとぼけた表情で間延びした言葉を吐く。
……姉ちゃん?
「星斗と朝宮は姉弟なのか?」
2人の顔をそれぞれ見る。
確かに姉弟って視点で見ると2人はよく似ている。艶のある薄い色素の黒髪に端正な顔立ち。やや釣り目な所も2人並べば瓜二つに見える。
「うん、よかったらお茶を入れるよ。少し座ろっか」
優しげな美月の言葉に俺は頷いた。
美月から近くの4人用のテーブルの所へ行くよう促される。
美月と星斗が隣同士に座り、俺は対面の椅子に座った。
美月の家って思うとどうにも落ち着かないな……。女の子の部屋ではないから別に何とでもないんだが……。
「私とせーくんは血の繋がった姉弟だよ。両親が幼い頃に離婚したって言えば……分かるかな?」
「そういうことか。……すまない」
「あ、死別してるわけじゃないから気にしないで! 私は母に、せーくんは父に引き取られたの。生活に不自由はなかったし、父にも時々会ってるしね」
それで名字が違うのか。
それより両手を横にふって言葉をかけてくれる美月がかわいくてたまらん。
4歳の時は両親が揃っていたはずだからその後両親が離婚したのかもしれない。
美月も星斗も最近まで別で暮らしていたんだろうか。少なくても小、中学で星斗の話は聞いたことがない。
「それで……その、小日向くんはどうしてここに……」
この状況で俺がこの家に来た理由を述べるのはすっげー抵抗がある。
何というべきか。
「ああ、せんぱいはねーちゃんが作る弁当に物申しにきたんだ」
「え」
「星斗!?」
こいつ、黙らさないと! 余計なことを言いかねない。
「今日の弁当ね。栄養を何も考えられてないひどい弁当だって」
「ぐはっ!」
美月は胸を押さえテーブルに頭を打ち付ける。
「ち、ちが! 言葉のアヤだ。誤解なんだ!」
「うぅ……そりゃ私は料理が下手で……今日もおかず作り全滅したから日の丸にしちゃったけど……そこまで!」
「でもせんぱいのおかず、すっごく美味しかったよー。ねーちゃんのメシがブタのエサみたい」
「あがっ!」
「おい、星斗。おまえ黙ってろ!」
何てことを言うんだ。美月の弁当だったら俺だったらまずくても泣いて食うぞ。
この恐ろしいセリフの応酬、実の姉だからこそ容赦ないんだろう。
美月はすすり泣く。
「う……せーくん、駄目なお姉ちゃんでごめんね」
「あ、朝宮。こ、米はちゃんと炊けてたんだ。気にしなくても……」
「お米を炊くのもまだ3回に1回くらい失敗するの。私……料理が苦手なんだ」
どうやったらごはんを炊くのをそんなに失敗するんだ。
料理が苦手ってそういうものなのか。
……昔の美月はわりと器用な方だったはずだが、料理は別なのかもしれない。
そんな時、星斗の腹から音が鳴る。
「ねーちゃん、お腹空いた」
「おまえはもう少し姉を労れ! 仕方ない!」
マイペースな星斗を叱っても今更だ。
「冷蔵庫開けるぞ」
冷蔵庫の中には標準的な食材が揃っているな。
フライパンは大炎上したから使えないとして……、小さいフライパンがもう一個ある。
ごはんはちゃんと炊けているようだ。量も申し分ない。
「小日向くん? 何を……」
「俺が晩飯を作ってやる。朝宮も星斗もちょっと待ってろ」
「ええ!?」
「ひゃっほー!」
この俺が美月も星斗も餌付けしてやる。