039 一生ゲーム①
「これは困ったな」
「えぇ……困りましたね」
俺とアリアは美月の家のベランダから夜空を見上げる。
星空が見えるはずもなく、真っ黒な雲と滝のような雨が降り注いでいた。
「さすがにこの雨じゃ帰れないよね……」
椅子に座った美月が呟く。
シックな色合いのワンピースが実に良い。
こうやって美月の部屋着を見続けていられるのは何とも素晴らしいことか。
「雨が止まなかったら泊まっていく?」
「うーん、金曜日ならまだしも……」
幸い俺は星斗、アリアは美月の服を借りればすむが、できれば家に帰りたい。
明日の弁当の兼ね合いとかも含めると面倒だ。
「別の機会でお泊まりしたいですね~。美月先輩とお喋りしたいです」
「うん、いつでも歓迎するよ」
ふむ、寝間着の美月と一緒に眠くなるまで語り合う。
いいじゃないか。アリアを使えば男が泊まる警戒心も無くなるだろうし、今度提案してみるか。
「一時間半くらいで雨が落ち着くみたい」
星斗はスマホのアプリで表示させた雨雲レーダーを見せてくる。
これなら今日帰ることができそうだ。後は雨が止むまでどうするか……。
「あ、あの……」
アリアは何かを気にしたそぶりで声をあげる。
「どうしたのアリアちゃん」
「もし、お時間があるなら……あの遊戯をやってみたいのです」
その視線の先には1つのボードゲームの箱が置いてあった。
そのゲームの名は【一生ゲーム】
人の一生を見立てて、紙のお金を使って順位を競うスゴロクゲームだ。
昔友達の家でよくやったな。懐かしい。
「ちょうど1時間頃で終わるし時間つぶしにはいいかもしれないね」
「アリア、やったことがないのか」
アリアは頷く。
「はい、女学院での寮生活ではトランプとチェスぐらいしかなかったので凄く気になりました」
「よし、やろうか。せーくん、手伝って」
「……。オレがアンタに教えてやろうか」
「結構です」
アリアと星斗の仲は相変わらずのようだ。
怒鳴り合う関係ではなくなったのは良かった。
美月と視線が合い、肩をすくめる。
一生ゲームのルールはシンプルだ。
ボード上に1~9まで進めるルーレットがあり、ルーレットを手でまわして、指し示した数値分、ボードのマスの上をコマで進めることができる。
ボードのマスには各ルールが書かれており、その内容に準じて初期資金3000ドルからお金が増減されていく。
資金は全てお札になっており、500ドルから100000ドル札まで種類がある。
ゴール到着時に最も資金が高いものが勝利となる。
手始めに美月、星斗、アリアに初期資金3000ドルを渡した。
このゲームは運がものを言うが、堅実に行くか、一発逆転を狙っていくかで変わってくる。
やるからにはゲームも全力だ。初心者のアリアは放っておけばいいだろう。美月と星斗がどのような手で行くかが問題だ。
「わぁ……楽しみです!」
「先行はアリアからで時計回りとしようか」
「ありがとうございます!」
アリアは期待に満ちた表情でルーレットを回した。
出た数は6。一生ゲームのコマは車をベースにしており、ピンク色のコマを手に持ち、6個進めていく。
「えーっと、お母さんからおこづかいで1000ドルもらう……」
「幸先いいじゃないか」
「1000ドルゲットだね!」
俺と美月は褒めてみるがアリアは浮かない顔だ。
「おこづかいが1000ドルだなんて……随分裕福なご家庭ですのね」
「そこはゲームだからつっこむなよ……」
「センパイはおこづかいとかもらってんの?」
ふいに星斗から問われる。
何と答えるべきか……。
「もう余所の家庭のことを聞いちゃダメだよ」
「んーだって気になるじゃん。センパイんち大きいし」
「俺の家ではないんだがな……」
特別な家庭である俺は親から一定額を口座に振り込まれている。
これで飯食ったり、物買ったりしろってことだ。有栖院家に住んでいて恥ずかしくないようにしろってことなので正直高校生が持つ額としては破格だったりする。
「食費、雑費を引いてなるべく1万を超えないようにはしている」
「ふーん」
「次は星斗だぞ。さっさと回せ」
星斗はルーレットを回す。出た数は4だ。
「雨で滑って転んでケガをした。1000ドルを没収」
「あらあら、日頃の行いが悪いからですね。残念ですねー!」
「……ふん」
「アリアも煽るんじゃない」
まだまだゲームは始まったばかりだ。