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037 妹×親友

「これはひどい」


 翌日の火曜日。

 神月夜(かみつくよ)学園野球部はひどいことになっていた。

 俺も呆れているが、マネージャーの吉田の目が怖い。


 昨日に比べてあきらかに覇気がない。俺が何度か怒鳴ってみたが……そこはどうにもならなかった。


「男ってほんと分かりやすいよな。状況は先週と変わらねぇーじゃねぇか」

「昨日が良すぎたんだろう。……まったく」


 問題は深刻なマネージャー不足である。

 今日は別の仕事があると行って麗華お嬢様が来なかったため、当然3年のマドンナのほのかもここにやってこない。

 美月も今日は吹奏楽部の方へ行く日だ。

 そしてアリアも別件があるため野球部には顔を出していない。


 学年別3大美女が全員来ないため野球部のモチベーションは地の底にまで落ちている。


「吉田さーん」

「あん?」


「天童さんみたいに微笑んでください!」

「朝宮さんみたいにお茶かけてください!」

「アリアさんみたいにオドオドしてください!」


「死ね!」


 女に飢えた男達は怖いな。

 そんなことを思う俺も美月がいないのでやる気が上がらない。

 今日は部活帰りてぇ。


「ったく、男共は……。で、今日も浅田のヤツが来てねぇーけど大丈夫なのか」

「ああ、悠宇のことか。体調よくなって今日はちゃんと来ていたぞ。だけど用事があるから今日は休むって」

「あぁ? 大会まであと少しだってのに」


 今日はこの地区で大規模なボランティア活動が行われるらしい。

 詳細を詳しく聞いてないがボーイスカウト時代の先輩から運営を手伝って欲しいと言われたとか。

 野球部のお優しい飴担当は頼られたら断らない。仕方ねーよ。


 あっ。


「そういえばアリアの奴も慈善活動の手伝いがあるから先に帰るって行ってたな」

「んじゃ一緒の場所にいるんじゃねーか」


 アリアは昨日はあんなことがあって大変だったが、元々女学院時代から慈善活動に積極的に参加していたようで、こっちに来てから初めて参加できると朝からはりきっていた。


「おーい、副主将。もう一喝してくれよ」

「はぁ……。オラァ! ふぬけてっとケガすんぞ!」



 ◇◇◇


 練習後の更衣室。

 ふと自分のスマホに視線を向けると大量の着信履歴が残っていた。

 着信元は悠宇とアリア……!?



 急いで着替えて連絡をするが、どちらも繋がらない。

 とりあえず美月に連絡して、今日は家に行けないことを伝えて、2人がいる可能性の高いボランティア活動の集合場所へ向かった。


「何だこりゃ……」


 そこは大きな公園の一画だったがとんでもないことが起きていた。

 トラックと乗用車が激突して大破していたのだ。

 警察が集まっており、救急車の音も聞こえている。

 見物客なども含めてかなりの人がこの公園の中にいた。


 まさかアリアが巻き込まれたのではと血の気が引く。


「太一!」


 聞き覚えるある声がして振り向いた。


「来てくれたんだね!」

「悠宇! っておまっ、血まみれじゃねぇか!」


 親友の浅田悠宇は制服が血にまみれており、体に擦り傷などが見られた。

 慌てて駆け寄る。


「僕の血じゃないから大丈夫だよ! 僕はケガしてない」

「何があったんだ……」

「僕のことはいいから彼女を……」


「兄様!」


 大衆の波の中からアリアが顔を出し、こちらに飛び出してくる。

 よかった……無事だったのか。

 制服を着たアリアを抱き寄せ、傷がないかをチェックする。


「本当に太一の妹だったんだ……。そういえば妹いるって言ってたっけ」

「ああ、おまえは昨日休んでたから面識なかったのか。ってアリア?」


 アリアは俺の背に隠れてじっと悠宇の方を見ている。

 これだけなら男性が苦手な性格と考えることができるが……頬を紅く染めて、見惚れるような表情を露わにしてるのは何なんだろうか。


「横転したトラックがアリアに向かってきて、とっさに悠宇様がかばって下さったのです」

「そうだったのか。悠宇、助かった、礼を言う」

「いやいやいや、結局トラックはここまで来なかったんだ。だから助けたわけじゃないよ」


 悠宇はしっかりと否定をした。しかしそれならこんな血まみれになるはずないよな……。

 そんなこと思ってる内にアリアが後ろから声を出す。


「悠宇様はすぐにトラックに巻き込まれた乗用車に駆け寄って負傷者を救助されたのです。血を出して倒れていた方に止血処理に人口呼吸をして救われたのですよ」

「咄嗟の判断でよく出来たな……」

「防災訓練はしてたからね。実際はもっと上手くやれたんじゃないかって後悔だよ。でも誰も犠牲にならなくて本当によかった」


「何てお優しい人なんでしょう……」


 ん? アリアから変な吐息が漏れる。

 遠くから悠宇を呼ぶ声が聞こえる。あいつの知り合いだろうか。


「ごめん、向こうに行ってくるよ。もう帰って大丈夫だからまた明日ね」

「あ、ああ。悠宇、おまえはすごい奴だ。感心したよ」

「あはは、太一に褒められるのは嬉しいね。それじゃあ太一と……えっと小日向さん」

「アリアです!」


 アリアは大きな声を出す。


「悠宇様、アリアとお呼び下さい」

「え!? いや、その……女の子を名前でなんて……その」


 悠宇は露骨に狼狽え始めた。女子とまともに喋られない奴だから困っているのだろう。

 救助とかはすげぇテキパキするのに女性関係だと情けないな。


「い、妹ちゃんで! 太一の妹だから、じゃ、じゃあね!」


 悠宇は走って駆けだしていった。

 かわいいアリアにあんな風に求められたら誰でも困ってしまうものか。

 それより問題は……、俺はアリアを見る。あきらかにうっとりしているような感じに見える。


「悠宇様、すてき……」

「アリア……おまえ、まさか」

「アリアは困った時に助けてくださるお優しい殿方が好みなんです……。悠宇様はぴったりです。凜々しくてなんて……かっこいいのでしょう」

「え、えええええ?」


 これは……これは面倒くさいことになってしまったぞ。


「兄様、悠宇様のことについて教えてください!」


 妹が親友に惚れてしまった件……。

 俺は何て顔をして今後、悠宇に会えばいいんだろうか……。

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