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035 衝突

「おかえりー」


 俺と美月、アリアが美月の家へ入るとリビングから星斗の声が聞こえてくる。

 靴を脱ぎ、リビングの方へ足を踏み入れるとソファに寝転んでテレビを見ていた。


 星斗はこちらを見る。


「ただいませーくん」

「帰ったぞ」


「んー」


 後ろにいたアリアが前へ出る。


「ここが美月先輩の家なのですね」

「チッ!」


 星斗が首を戻してテレビの方へ視線を戻した。

 アリアが俺の方を見る。


「……あの人、アリアの方を見て舌打ちしたんですけど」


 表情は笑みを絶やしてないが若干声も体も震えている。

 アリアが星斗に何かをしたとは思えないし、星斗がこのような態度を取ることは今までの経験上ない。


 何があったか、メシ食ったら2人で話すか。


「朝宮、メシにしよう」

「あ、うん」

「星斗のことは俺が聞くからちょっと待ってくれるか?」


 今にも弟を叱りそうだった美月の先手を打つ。

 ハラが減っては頭も回らない。まずは晩メシだ。


 今日の晩ご飯はエビフライだ。下ごしらえは朝の内にしておいた。

 後はカラっと油で揚げるだけである。


 美月と俺はキッチンに入り、油の準備をする。


「アリアも何か手伝えることはありませんか?」

「スペース的にきついな。皿だしとか出来るか?」

「アリアちゃん、場所を教えるよ」


 朝宮家のキッチンは残念ながら2人が限度である。

 さっきの件があるからリビングの方に行っていろとは言いづらい。

 アリアにテーブルのセッティングをお願いしてる間に美月に揚げ物の調理をやってもらう。


「油を使った料理はこの前のトンカツ以来だね……」

「うまくやれば怖いものなんてない。揚げ物なんてありふれているからな」


 ちょっと心配そうな美月を励ましておく。

 油の温度管理や順番などをしていればそうそう失敗しない。


 美月はぐっと手を挙げる。


「大丈夫だよ。油に水を入れちゃいけないのは私だって知ってるんだから」


 ドヤ顔で言われるが、そんなことを口に出されると思ってもみなかった。

 ……やっぱり心配かもしれない。



 ◇◇◇


 今回は危なげなく調理を終え、熱々のエビフライをトレイに並べる。

 同時進行で作っているポテトサラダと冷や奴をお皿に並べて晩ご飯の完成だ。

 もちろん白メシはすでに出来上がっている。


 揚げ物を作り終えた美月は息をつく。

 緊張していたのか額から汗がにじみ出ていた。


「うまく出来ているじゃないか。今の感じだったら1人でも大丈夫だな」

「ありがと~。ふぅ……大変だったよ」


「いい汗かいてるじゃないか。ちゃんと拭き取るといい」

「うん、ひゃっ!」


 俺はハンカチを取り出して美月の頬にあてて汗を拭い取っていく。

 汗を拭って綺麗にしていく……、綺麗にしていく。

 ……汗が出る量増えてないか。


「小日向くん! 今、汗まみれだから……あんまり近づかれると」

「だが手は塞がっているだろ」


 美月はポテトサラダを作っているので両手が塞がっている、

 今、手が空いている俺が拭ってあげる方が早い。


「あぁ……もう」


 顔を真っ赤にさせた美月は頬を膨らませる。

 汗を拭うだけでこんなにかわいい反応をしてくれるのであればポケットにハンカチを数枚仕込ませておくか。


 最後の仕上げを任せてキッチンを出る。

 するといつのまにかアリアが星斗の方へ近づいていた。……大丈夫だろうか。


「あ、あの……」


 アリアは星斗に声をかける。


「……」

「アリアがあなたに失礼なことをしたのなら……そ、その謝ります。宜しければ一緒に話をしませんか?」

「……」


 明らかに聞こえている距離で星斗はアリアの言葉に反応しない。


「あの!」

「なに」


 星斗は機嫌が悪そうにアリアの方を向く。

 アリアが口を開くと同時だった。


「なんてもう一回言って」

「ぶちっ」


 何か変な声が出たような気がする。

 アリアは星斗の前に回り込んでだ。表情は笑顔のままだが、だいぶ引きつっている。

 こっちからの方向だと星斗の顔は見えない。


「アリアに失礼なことがあったのなら……その理由を教えて欲しいと言ったんです!」

「あのさ」


 少しの時の経て……星斗の声が上がる。


「テレビ見えないんだけど、邪魔。そんなところに立たないでくれる。そんなこともわかんないのかよ、アンタは」


「ああああああああああああああああ!??」


 こ、これはまずいか?

 アリアの表情が一変し、両手で型を作るように構えた。もの凄く怒っている。


「何なのこの人!!? わたしが下手(したて)に出てあげているというのに……何様なの!? ありえない! 美月先輩の弟だから……仲良くしようと思ったのにこんな性格の悪い男ふざけてる!」


 アリアのド級の声に美月も慌ててリビングから出てきた。

 たまりに溜ってたんだな……。ここまで爆発するとは思ってもみなかった。


「ふーん」


 星斗はアリアの大声にも動じない。


「アンタ、カマトトぶってるよりそっちの方が()()()()

「はあ!?」

「よろしく、センパイの妹さん」


「小日向くん……何がどうして」

「……俺もわからん……」


 俺の妹と美月の弟の相性はもしかしたら最悪だったのかもしれん……。

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